シンカー:9月の失業率は2.3%と、8月の2.4%から若干低下した。9月は台風や地震などの自然災害の影響が大きかった。経済活動が阻害されることで、就業者数には下押し圧力がかかる一方で、職探しを延期する労働者が労働市場から一時的に退出することにより労働力人口にも下押し圧力がかかった。景気動向は堅調で、自然災害の下押しをオフセットして就業者が減少しなかったことで、労働力人口が減った分、失業率は若干低下した。自然災害は景気動向の堅調さを背景とした労働市場の改善を止めなかったようだ。企業の人手不足感がかなり強く、労働条件と環境を更に良くしてでも、雇用者の獲得を目指す動きは続くだろう。労働の需要と供給が需要過多に更に傾くことで、一時的には特殊要因が剥落して2.5%に戻る可能性はあるが、失業率はトレンドとして緩やかに2%を目指していくだろう。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

9月の失業率は2.3%と、8月の2.4%から若干低下した。

9月は台風や地震などの自然災害の影響が大きかった。

経済活動が阻害されることで、就業者数には下押し圧力がかかる一方で、職探しを延期する労働者が労働市場から一時的に退出することにより労働力人口にも下押し圧力がかかった。

非労働力人口は、7・8月と前月差-17万人・-24万人と減少していたが、9月には+5万人とプラスに転じた。

一方で、景気動向は堅調であり、就業者数の増加は、8月の前月差26万人からは減速したものの、9月は同+3万人とプラスを維持した。

災害からの復旧などで、建設業の就業者が9月に前年同月差+18万人と、8月同+11万人、7月同+1万人から増加が加速してきたことも寄与している。

就業者が減少しなかったことで、労働力人口が減った分、失業率は若干低下した。

自然災害は景気動向の堅調さを背景とした労働市場の改善を止めなかったようだ。

その他、労働市場の需給が引き締まる中でも、テクニカルに失業率の低下を抑制している要因もある。

深刻な人手不足を背景に賃金上昇が鮮明となり、労働者がより良い労働条件と環境を求めて動き始めているとみられる。

労働者がより良い労働条件と環境に移る期間は、一時的に職がなくなることがあり、摩擦的失業率の水準が若干上昇していると考えられることも影響しているとみられる。

一方、働きやすい環境が整い、女性・高齢者・若年層・外国人などの労働供給が増加するなどして上昇してきた就業率は、5月の前年差+2.0%から9月には+1.7%となり、伸びが安定化してきている。

労働者の供給の増加が安定化していくことで、労働需給は更に引き締まり、摩擦的失業率の上昇をオフセットし、失業率は緩やかながらの低下基調が続くと考える。

9月の有効求人倍率は1.64倍となり、6・7月のと1.63倍、5月の1.59倍から更に上昇している。

企業の人手不足感がかなり強く、労働条件と環境を更に良くしてでも、雇用者の獲得を目指す動きは続くだろう。

労働の需要と供給が需要過多に更に傾くことで、一時的には特殊要因が剥落して2.5%に戻る可能性はあるが、失業率はトレンドとして緩やかに2%を目指していくだろう。

過去のデータでは、2%台に定着するとようやく失業率の低下が賃金・物価の上昇率の拡大につながり、2.5%から2%への低下で上昇率の加速感が確認できる。

失業率が2%台に定着したのはまだ昨年後半であり、ようやく1年程度の時間が経ち、賃金上昇が労働市場を動かし始めたとすれば、来年には物価上昇に波及していくと考えるのが自然だろう。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司