シンカー:7-9月期の生産活動は自然災害によるサプライチェーンを含む物流の滞りで大きな下押し圧力を受けた。10-12月期の生産は復旧により明確にリバウンドし、7-9月期の落ち込みが自然災害による一時的なものであり、米中の貿易紛争の影響もまだ小さいことが確認されるだろう。自然災害などで物流が滞り、回復しつつある需要に対応できず機会損失となった企業が多かったとみられる。価格の上昇を許容しても商品の安定供給を目指す企業の動きが、物価上昇につながってくる可能性もある。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

9月の鉱工業生産指数は前月比-1.1%と、2ヶ月ぶりに低下した。

誤差調整後の経済産業省予測指数の同+0.2%を下回った。

9月には2回の台風上陸や北海道での地震などの自然災害が多く、物流が滞り、生産活動が阻害されたとみられる。

9月の実質輸出も同-5.5%とかなり落ち込んでいる。

6月には大阪での地震、7月には西日本での豪雨、8月には異常な猛暑と2回の台風上陸など、自然災害が多発する夏となり、サプライチェーンが一部で寸断するなど、経済活動全体が阻害された。

7-9月期の鉱工業生産指数は前期比-1.6%と、4-6月期の同+1.3%の上昇分をすべて打ち消す弱さとなった。

7-9月期の実質輸出も同-1.9%となり、生産と輸出がともに落ち込むのは2016年1-3月期以来である。

生産活動の低迷は、需要ショックより供給ショックの影響の方が圧倒的に大きかったとみられる。

8月まで在庫指数は3ヶ月連続で低下していた。

9月は物流の滞りにより前月比+2.3%となったが、在庫指数の水準は3月末と同水準にとどまっている。

自然災害による物流の滞りを除けば在庫の大きな積みあがりがみられないことは、貿易紛争がまだ日本の生産活動に大きな影響を与えていないことを意味する。

日本の生産は、汎用品から特殊品に中心が移ってきた。

IoT・AI・ロボティクス・ビッグデータなどの産業変化もあり、データセンターや車載向けの部品などの需要は増加を続けているとみられる。

グローバルに設備投資は拡大し始めており、日本が比較優位を持つ資本財の生産には追い風が吹いているようだ。

競争力の改善と米中の貿易紛争を反映して世界貿易に対する日本のシェアも緩やかに上昇しているとみられ、生産拠点の国内回帰の動きもある。

貿易紛争が企業活動の心理的な重しとなっていることは考えられるが、影響が強く現れるのは実際にグローバルな貿易総量が明確に縮小を始めてからであると考えられる。

サプライチェーンを含む物流が復旧すること、冬のボーナスの増加を背景とする消費が回復すること、がバブル崩壊後はじめてGDP比率16%の天井を打ち打つ破った設備投資サイクルが強さ増すこと、そして災害復旧と来夏の猛暑対策などの補正予算の執行を含めた公的支出の増加が予想される。

10-12月期の生産は明確にリバウンドし、7-9月期の落ち込みが自然災害による一時的なものであることが確認されるだろう。

10月の経済産業省の誤差修正後の生産予測指数は前月比+0.9%と控えめであるが、サプライチェーンを含む物流の復旧を考慮すれば実際には上回る可能性がある。

忘れてはいけないのは、自然災害などで物流が滞り、回復しつつある需要に対応できず機会損失となった企業が多かったことだ。

価格の上昇を許容しても商品の安定供給を目指す企業の動きが、物価上昇につながってくる可能性があろう。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司