M&Aにおいて、売買対象とする事業の価値を見極めることは重要だ。しかし、事業には強みもあれば弱みもある。加えてそもそも事業とは、多様な価値の源泉が組み合わされてその真価を構成しているという側面もある。

事業の価値を見極めるためには対象会社を評価する視点を持つことが必要だ。そこで今回はM&Aの対象となる会社を評価するための主な分析ツールを紹介する。

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(写真=PIXTA)

SWOT分析

事業の価値がどこから生じているのかを分析するためには企業の外部環境と内部環境とを把握することが必要だ。このような企業環境の分析に役立つツールにSWOT分析がある。SWOT分析とは、企業にとっての、①強み(Strengths)、②弱み(Weaknesses)、③機会(Opportunities)、④脅威(Threats)の4つの視点から、その企業の環境を把握するものである。

このうち③機会(Opportunities)と、④脅威(Threats)は外部環境に該当する。経済全体あるいはターゲットとなる市場における外部環境に関連付けて、自社の①強み(Strengths)や②弱み(Weaknesses)といった内部環境を把握できるという利点がある。

3C分析

3C分析は、①顧客(Customer)、②競合(Competitor)、③自社(Company)の3つの視点で分析を行うためのフレームワークである。事業戦略策定の際などによく利用される。

SWOT分析のように企業環境に関連づけるとすれば、①顧客(Customer)と②競合(Competitor)が外部環境に該当し、③自社(Company)が内部環境に該当するということも可能だ。そのため、SWOT分析と同様、マーケットにおける自社の相対的な強みを把握できるという特徴がある。

ファイブフォース分析

外部環境をもう少し丁寧に分析したいときにはファイブフォース分析が役立つ。ファイブフォース分析は、①新規参入の脅威、②代替品の脅威、③買い手の交渉力、④売り手の交渉力、⑤既存企業間の敵対的関係、の5つの視点から競争環境を分析するためのフレームワークである。

ファイブフォース分析では、それぞれのファクターが大きいほど競争環境が熾烈であると考える。たとえばビジネス上において、行政による許認可が必要な事業や、また特許の存在が重要となるような分野では「新規参入の脅威」は低いといえるだろう。言い換えれば、競争環境は緩慢であるということだ。

バリューチェーン分析

バリューチェーン分析は、事業活動をプロセスに分解し、どの工程で価値が生み出されているかを分析するものである。製造業として大まかな例を挙げると、①購買、②製造、③出荷、④販売となる。

バリューチェーンを分解することにより、どこで差別化や低コスト化が行われていて、それが付加価値につながっているかを明確にすることができる。たとえば、出荷における物流費が大幅に削減されていて、製品価格の低下が実現できている場合、出荷物流プロセスが顧客に対して付加価値を提供していることになる。

VRIO分析

企業の競争優位性を掘り下げて評価する際にはVRIO分析が役立つ。VRIO分析は、①価値(Value)、②希少性(Rareness)、③模倣可能性(Imitability)、④組織(Organization)の観点から、企業の持つ経営資源を分析する方法である。

上述のバリューチェーンにおける各プロセスで生み出される価値をVRIO分析で評価するといった方法もある。たとえば、大学と共同で高度な開発を行える研究チームを構築している場合には、③模倣可能性(Imitability)や、④組織(Organization)の面で付加価値が高いといえるだろう。

どの事業を存続させるかの指針としても役立つ

以上のような分析ツール以外にもさまざまな指標やツールは存在する。ただし、分析ツールを扱うにも注意点がある。なんとなくアルファベットの略語に沿って事業を説明するだけでは自己満足の分析に終わるおそれがあるのだ。M&Aや事業承継では、顧客や従業員にとって付加価値を生み出している事業を存続させていくという目的意識を常に持たねばならない。

会社オーナーの創業者利益を確保するという視点は確かに重要だ。だが同時に、事業を存続することで地域社会や我が国全体の経済成長にとっても好影響を与えるという視点でも、事業の取捨選択を行いたいものである。