株主も社長も自分だけという一人会社は気楽なものだ。一方、会社に他の株主が入ってくると何かと意見の相違なども生まれやすい。複数の株主で会社を運営するつもりがなかったとしても、事業承継をきっかけに複数の相続人が株主になってしまうこともある。
このような場合、他の株主にうまく会社から出て行ってもらう方法を考えるかたちになりやすい。そこで本稿では、少数株主の排除を意味する「スクイーズ・アウト」の手法に注目してみたい。
少数株主がいると不都合なことも
世の中、多数決だけで物事を決めていくと、マイノリティ、すなわち少数派の権利が侵害されることもある。そのため、マイノリティの意見も最大限尊重することが求められるのは言うまでもない。これは株式会社の運営においても同じである。そのため、会社法には少数株主の権利を保護するためのさまざまなルールが定められている。
具体的には、もっとも多く株主を保有する大株主であっても、株式を1株しか保有していない単独株主であっても、等しく株主総会における議案を提案したり、株主総会に出席して質問したりすることができる。議決権の1%以上を保有する株主であれば、株主総会における議題を提案する権利も与えられている。
また、議決権の3%以上を保有する株主であれば、会社の会計帳簿を閲覧する権利が認められている。会計帳簿といえば、会社の活動が事細かに記録されているものである。このような会計帳簿を株主に見られるのは経営陣にとってやりにくいことだ。
ほかにも、議決権の10%以上を保有する株主には会社解散請求権がある。このようにもし、気心の知れない株主が会社の存続にかかわる権利を持っているとすれば、経営者としては落ち着いて会社運営もできなくなりかねない。
スクイーズ・アウトの手法
少数株主を排除して安定した経営を目指す方法に、スクイーズ・アウトが活用できる。スクイーズ・アウトは既存の制度を活用して行われることもあれば、もともとスクイーズ・アウトを行いやすくするために作られた制度を活用することもある。主要な方法には以下のようなものがある。
①合併や株式交換 合併や株式交換では、株主に新たな株式が割り当てられるが、その比率を調整することで少数株主の保有する株式を1株未満にすることができる。また、合併や株式交換の対価としては株式以外にも現金などを交付することも可能だ。つまり、現金を支払って少数株主には会社から立ち去ってもらうこともできる。
②株式併合 株式併合とは、たとえば10株を1株にするなど、複数の株式を少数の株式に統合する制度である。少数株主が保有していた株式を1株未満にすることで、それまで株主として有していた種々の権利が行使できなくなるという算段だ。
③全部取得条項付種類株式の活用 株式会社では普通の株式以外にも諸々の条件を付けた「種類株式」というものを発行できる。たとえば、全部取得条項を付けた種類株式であれば、会社の決定にもとづき、すべての株式を会社が没収できる。そのため、スクイーズ・アウトの手法としても活用されている。
④特別支配株主による株式売渡請求 議決権の90%以上を保有する株主を「特別支配株主」と呼ぶ。会社法では、特別支配株主が少数株主に対して株式の売渡を請求することができる権利を認めている。金銭的な保障に配慮しながらも、まさに少数株主を排除するための制度となっている。
制度の改正などに気をつける
上述の手法のうち、特に株式併合や全部取得条項付種類株式は、少数株主にとってみると、自分の株式が否応なく奪われるようなものである。そのため、会社法改正により平成27年5月 からは情報開示の充実や差止請求などの制度が導入され、少数株主の保護が強化されることとなった。
また逆に、株式併合や全部取得条項付種類株式では株主総会の手続が必要であり、機動性に欠ける面もある。そのため、特別支配株主が少数株主に対して、ダイレクトに株式の売渡を請求できる制度が創設されたという経緯もある。
これらの手法は、ともすれば株主の権利を制限するものである。そのため、制度上も絶えず利便性と権利保護の微調整が図られ続けるものといえよう。