<放課後児童クラブとは>
共働きなどにより、親が留守の家庭の子ども(おおむね10歳未満)が放課後に過ごす居場所が「放課後児童クラブ」(「学童保育」と呼ばれることもある)である。それは、子どもの放課後に「適切な遊び及び生活の場を与えて、健全な育成を図る」ものとして、1997年の児童福祉法改正により法定化された。
女性の就業継続のためには、保育所と同様、放課後児童クラブの整備充実も必要である。そのため政府は「子ども・子育てビジョン」(2010年1月策定)において、放課後児童クラブの利用児童を今後の5年間で30万人増やすこと等を掲げている。
本稿では、放課後児童クラブの現状を紹介した上で、その充実のための課題を考える。
<放課後児童クラブの現状>
2010年5月1日現在、放課後児童クラブの数は1万9,946か所であり、前年よりも1,467か所増えた(図表1)。利用登録している児童数(以下「利用児童数」)は81万4,439人であり、前年よりも6,582人増加した。施設数、利用児童数ともに増加傾向である。しかし、対前年増加率の推移をみると、施設数の伸び率は2006年以降、緩やかに上昇しているのと対照的に、利用児童数の伸び率は2005年以降、鈍化傾向が続いており、利用児童数はそれほど増えていないということがわかる(図表2)。むしろ、放課後児童クラブに利用申し込みをしながら利用できなかった児童(待機児童)が2010年でも8,021人おり、待機児童の解消にまで至っていない(図表省略)。
<規模の適正化による影響>
なぜ、施設数は増えたのに、利用児童数はそれほど増えていないのか。
放課後児童クラブ数の増加は、共働き等の家庭の増加に伴う利用ニーズの高まりに対応した結果である。しかも、児童の受け入れ能力の高い大規模な施設が設置されることも多かった。こうして利用ニーズに応えようとしたものの、次第に、大規模施設では児童一人ひとりに目配りができないために、子どもの安全確保や情緒安定の確保の面で十分な対応ができず、子どもが放課後を安心して生活できないという「大規模化への弊害」が指摘されるようになった。これを受けて、厚生労働省では規模の適正化のために「71人以上」の大規模施設に対する補助金を減額することで、大規模施設の分割促進を図り、子どもが安心して生活できる環境を整えることとした。その結果、2007年以降「71人以上」の施設割合が減少している(図表3)。利用児童数の伸び率が鈍化したのは、こうした規模の「適正化」措置の影響によると思われる。
<依然として厳しい年齢による入所制限>
また、利用者数の伸び率の鈍化は厳しい入所制限の影響も受けているとの見方もできる。例えば、厚生労働省「放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)の実施状況」によると、放課後児童クラブの利用者は小学3年生以下が2010年で89.4%を占めており、その傾向は比較可能な5年前からあまり変わっていない。これは、先に紹介した児童福祉法によって、放課後児童クラブが「おおむね10歳未満の児童」を対象とすると規定されているためであろう。
しかしながら、小学4年生以上の子どもの母親も利用ニーズがないわけではない。子どもが放課後児童クラブ等の「放課後を過ごすための施設」を利用していない母親に、その利用意向をたずねた調査結果によると、子どもが小学3年生の母親と同様に4年生、5年生の母親も利用希望割合が約3割を占め、小学3年生と同じくらいの割合で4年生、5年生の母親も利用を希望している(図表4)。現行のように実質4年生以上の利用が難しいことは、必ずしも保護者のニーズに対応できていないといえる。
このようなことから、待機児童が現在8,021人とされているが、実際には、施設の受け入れ能力の低下に加え、子どもの学年による利用制限等の入所要件も依然として厳しい状況であるため、利用を断念し申し込みもしなかった「潜在的な」待機児童が増えている可能性も考慮する必要があると思われる。
<放課後児童クラブの整備推進のために>
こうした需要に対応し、また今後5年間に30万人増という目標達成のために、規模の適正化を図りつつ、希望するすべての児童が利用できるよう放課後児童クラブの整備推進が必要である。そのためにはどうしたらよいか。
まずは国が放課後児童クラブに対する運営費や整備費の補助額の拡充を図ることである。その上で、放課後児童クラブの多様なあり方を推進していくことが必要と思われる。これについては、次のような、需要が高い地域における自治体独自の取組も参考になるだろう。例えば東京都では、都が定めた要件を満たすことを条件に、株式会社やNPO法人などが運営する放課後児童クラブに運営費の補助を行う「都型学童クラブ事業」を実施している。多様な運営主体の参入を促進し、放課後児童クラブを増やすことがねらいである。また横浜市では、1年生から6年生までの全児童を対象として「放課後キッズクラブ事業」等を実施している。同事業はNPO法人などが運営する学校内の施設に、登録した当該学校の児童であれば17時までは誰でも無料で、17時以降は留守家庭の児童のみが有料で利用できる。子どもの安全な遊び場を提供するとともに、留守家庭の子どもに放課後の生活の場を保障している。
現在、政府は次世代育成支援のための包括的・一元的な「子ども・子育て新システム」を検討中である。放課後児童クラブについても、「放課後児童給付(仮称)」の創設により、これを抜本的に拡充し、小学4年生以上でも必要な子どもが利用できるような仕組みの導入が図られている。
今後、「子ども・子育て新システム」による展開が期待されるが、その際、子どもの健全育成という視点が何よりも重要である。まずは親の就労の有無、子どもの学年を問わず、必要とする子どもすべてに放課後の居場所を提供することが必要である。そして多様な事業主体の参入を促進しつつ、利用を希望する児童すべてを対象とした事業展開を図ることが求められる。
また、子どもにとっては、友だちと遊んだりして過ごす放課後も、心身の成長にとって重要な時間である。したがって、まずは量的拡大が必要ではあるが、その上で、子どもの健全な育ちを支えるための放課後児童クラブはどうあるべきかという質的向上のための議論も今後は必要であると思われる。(提供:第一生命経済研究所)
研究開発室 的場 康子