<待機児童の増加>

 少子化対策の一環として、仕事と育児の両立を支援するため、2002年度から「待機児童ゼロ作戦」がスタートし、保育所の受け入れ児童数の増大が図られてきた。しかしながら未だ、保育所の入所待ちをしている「待機児童」の解消にまでは至っていない。厚生労働省が2008年8月に発表した「保育所の状況(平成20年4月1日)等について」によれば、2008年4月1日時点で待機児童数は19,550人となっている。しかも、これまでの減少傾向から一転し、前年の17,926人より1,624人の増加となった。

 このように、待機児童が解消されない理由はなぜだろうか。厚生労働省が2008年4月1日現在で待機児童がいる370市区町村に対して実施した調査によると、待機児童が解消されない要因(複数回答)として、「女性の就業率の上昇による保育需要の増大」(312市区町村)と回答した自治体が最も多く、8割以上を占めている。女性の就業意欲の高まりに応え、企業等も仕事と育児の両立支援策を講じるようになりつつあるが、その受け皿として期待されている保育サービスの供給が追いつかない状況といえる。次いで「マンション建設等による急激な需要増に一時的に供給が追いつかない」(140市区町村)、「人口増加・流入に伴う就学前児童数の急激な増加」(79市区町村)、「その他」(102市区町村)となっている。ちなみに、「その他」の中には「ひとり親の増大」、「核家族化の進行」、「大型店舗の建設に伴う雇用創出」等がある。

<待機児童解消に向けて実施した取組>

 こうした事態に対し、自治体は待機児童の解消に向け、どのような取組を行っているのだろうか。

 同上の自治体を対象としたアンケート調査によれば、認可の「私立保育所の新設」と回答した自治体が最も多く、次いで「私立保育所の施設整備を伴う定員増」、「私立保育所の施設整備を伴わない定員増」といった回答が上位を占めている(図表1)。私立保育所の新設や定員増によって対応を図っている自治体が多いことがわかる。また、「幼稚園の預かり保育*1の実施の勧奨」や「家庭的保育(保育ママ)事業*2の強化」、「事業所内保育施設の設置の奨励」というように、認可保育所のみでなく、多様な保育サービスを普及・促進させることで、待機児童の解消を図っている自治体もある。

 一方、厚生労働省ではすでに、保育施策の質・量双方のさらなる充実・強化を図るため、2008年2月から「新待機児童ゼロ作戦」を展開しており、その特徴の一つは「保育の提供手段の多様化」である。すなわち、これまでの保育施策のように認可保育所の設置促進のみに重点を置くのではなく、幼稚園や家庭的保育制度、事業所内保育施設等、提供手段の多様化を図ることにより、保育サービスの受け皿を確保しようとしているのである。

 このような中、本稿では、保育サービスの一つの受け皿として、近年、設置が進められている「事業所内保育施設」に注目し、その供給実態を踏まえた上で、企業との協働による保育施策の充実という観点から、保育所待機児童の解消のための課題について考えたい。

事業所内保育施設の設置促進に向けて
(画像=第一生命経済研究所)

<事業所内保育施設の供給実態>

 事業所内保育施設は、事業主が従業員のために事業所内または隣接地に設置している保育施設であり、認可外保育施設に該当する。ただし、認可保育所と同様、児童福祉法に規定されており、その運営や保育内容等は、都道府県、政令指定都市、中核市による指導監督の対象となっている。厚生労働省の調査によると、市町村等に届出された事業所内保育施設は、全国に1,007施設である(厚生労働省「平成18年地域児童福祉事業等調査結果の概況」2007年9月)。

 事業所内保育施設の在所児童20,866人について、その年齢構成をみると0~2歳までが47.8%と約半数を占めている。認可保育所(22,720施設)における在所児童(2,118,352人)の年齢構成は0~2歳までが26.4%(厚生労働省「平成18年社会福祉施設等調査」)であることと比較すると、事業所内保育施設のほうが3歳未満児を受け入れている割合が高いことがわかる。前述の「保育所の状況(平成20年4月1日)等について」(厚生労働省)によれば、特に3歳未満児の待機児童が多いのが現状*3である中、主に従業員の子どもを受け入れる事業所内保育施設は3歳未満児を受け入れる体制を整えることにより、従業員の職場復帰が円滑にできるようにしていることが一つの特徴である。

<事業所内保育施設の設置促進策>

 また、もうひとつの特徴として、事業所内保育施設の運営にあたって、事業主の設立及び運営費用の負担が大きいということも挙げられる。このような事業主負担の軽減を図るために、国による助成制度があるが、最近では自治体による助成制度も増えてきた。その主な事例をまとめたものが図表2である。

 国による助成制度(21世紀職業財団による助成制度)は定員が10名以上の施設が対象となっているが、自治体による助成制度は小規模施設でも助成対象とする等、国の助成要件にかなわない施設への助成を行う点が特徴といえる。また。国の助成制度でも中小企業に対する助成を手厚くしている(助成率を設置費、運営費ともに大企業は2分の1であるのに対し、2009年度までの限定措置ではあるが中小企業は3分の2としている)が、横浜市の助成制度においては、従業員数300名以下の中小企業に限定し、中小企業における事業所内保育施設の設置支援を図っている。さらに、埼玉県のように、地域児童を受け入れる場合、一定の条件を満たせば、その地域児童分の運営費を助成する制度もある。このように事業所内保育施設に対する助成制度は、設置主体である企業にとって負担軽減になるのみでなく、自治体にとっても、企業の力を借りながら保育サービスの底上げが期待できるものであり、保育施策の充実のために寄与するものと思われる。これからも、女性の就業意欲の高まりとともに保育需要もますます増大することが見込まれる。企業との協働による保育施策の強化という視点も踏まえ、その一つの具体的施策として事業所内保育施設に対する助成制度の充実を行い、その設置促進を図ることにより、保育サービスの受け皿を増やしていくことも重要であると思われる。(提供:第一生命経済研究所

事業所内保育施設の設置促進に向けて
(画像=第一生命経済研究所)

【注釈】
*1  幼稚園において、保護者の就労等により、教育時間終了後、概ね18時位まで子どもを預かる事業を「幼稚園預かり保育」としており、2007年6月1日現在、全幼稚園(1万4千か所)の約7割に相当する9,809か所が実施している(第7回社会保障審議会少子化対策特別部会(2008年4月21日)資料)。
*2  家庭的保育事業は、保育士または看護師の資格を有する家庭的保育者(保育ママ)によって自宅等で、主に3歳未満の乳幼児3人程度を対象に、小規模に行われる保育制度のことである。同事業は国庫補助事業として実施されている他、地方自治体によっては、自治体単独事業として実施されたり、自治体単独事業と国庫補助事業との併用で実施されたりして展開されている。第2回社会保障審議会少子化対策特別部会(2008年1月28日)の資料によると、2006年度の保育ママ数は全国で105人、利用した児童数は319人である。自治体単独事業(国庫補助対象も含む)でも、保育ママ数は926人、利用した児童数は1,405人である。
*3  待機児童の年齢別内訳をみると、0歳児は2,404人(待機児童数全体の12.3%)、1~2歳児は12,460人(同63.7%)、3歳以上児は4,686人(同24.0%)であり、3歳未満児の待機児童数が7割以上を占めている。

研究開発室 的場 康子