(本記事は、星﨑尚彦氏の著書『0秒経営 組織の機動力を限界まで高める「超高速PDCA」の回し方』=KADOKAWA、2018年10月5日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

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多数決が実行力を鈍らせる

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(画像=g-stockstudio/Shutterstock.com)

多数決も、私は嫌いである。皆が「○○すれば勝てる」と納得し、理解していれば、どんな施策もすぐに実行できるという話をしてきた。それはスポーツでも会社でも同じである。しかし、だからといって、皆の自主性を尊重するために、多数決という手段に頼るのは、間違いだ。

多数決がなぜいけないか。というより、そこにいる少数派の意見を封じ込めず、100対0になるまでとことん議論するのが筋なのだ。異議があれば、そこで全部吐き出してもらい、議論しなければいけない。賛成と反対が6対4の割合などもってのほか。9対1でも許さない。1の意見を押し込めたまま進むと、結果として実行力が落ちるからだ。それはそうだろう。納得していない1人は、残り9人に「押し切られた」形なのである。多数決の結果が腹落ちしていない。だからいざというとき動けない者が出てくる。スピードが落ちる可能性が高い。スピードを落とす要素は私にとってはすべて悪なのである。

議論を面倒に思うと、多数決に頼りたくなるのかもしれない。だが、多数派の意見が間違っている可能性だってあるのだ。むしろ、多数派のカウンターとなる意見を必ず出すよう、私からはいい続けている。多数決をするなら、そこにいるメンバー全員の判断力が一定以上のレベルであることが大前提。そこまでの能力も覚悟も、リスクを取る勇気もない多数決に、会社の戦略を委ねることは、私にはできない。

それでは、9対1で賛成と反対が分かれているとき、1の反対意見にどう向き合うか。私は、真正面からいく。「あなたはどこが腹落ちしていないのか」「あなたがそう思う理由を、教えてほしい」と問いかける。

ある新店舗のスタッフが、「オープン記念で検査無料、という広告を出してほしい」と声をあげた。私は反対した。普段、「高い分充実した検査です、効く薬です」と謳っているのに、オープン記念とはいえタダにしたら、それがウソのように聞こえるからだ。「3000円の検査を2000円にするのはいいけれど、タダは反対。タダほど付加価値ビジネスを壊すものはない」

そのスタッフは、話の途中で理解してくれたようだ。しかし、それでも腹落ちせず「?」という顔をする人間もいる。たとえば、「お客さまに寄り添おうとするなら、値段を下げるのはいいこと」と考える者だ。お客さまのためを思うこと自体は素晴らしいが、私はこう反論した。「安くすればいい、というものではない。質の高いもの、正しいものを売るのに安くするのは、むしろお客さまに失礼なことだ」

「たとえば、伊勢丹メンズ館にいってメガネを値切ろうとは誰も思わない。商品力が高く、スタッフにも知識がある。高い値段を払うだけの付加価値を感じるからだ」「それだけの付加価値を身につけるのがわれわれの仕事であって、単に値段を下げようとするのは、お客さまに失礼だ」

こうした手のかかる議論が、逆説的だが、0秒経営の土壌を作り出している。議論さえ尽くしておけば、あとは猛スピード。合宿を経て、アクション会議でさらに広くシェアしたら、バンバン動いていく。もっとも、「値段を安くするのは、相手に失礼だ」という話は、自分でも高付加価値のサービスを受ける体験をしていないとわからないものかもしれない。

余談になるが、昨年、ハイレベルなサービスを体験しようと、「フェーズ3(次世代型店舗)」の主要メンバーや店舗のスタッフたちを連れて、高級ホテルのレストランやラウンジを視察したことがある。経営が厳しい時代が長く、上司に食事を奢ってもらったことのない社員たちには、新鮮だったのだろう。みんなガンガン注文するので、会計時に大変な目にあった。とはいえこれも、アイケアカンパニー宣言を掲げ続けるにあたって、必要な投資である。

きれいなプレゼンを疑え

提案があれば、「なぜならば」の説明を必ず求める。メールだけ送ってきて、「A案、B案、C案からご判断ください。すべて予算内です」と求めてくるのは、メガネスーパーの、ありたい姿ではない。

「予算内」といわれると私は怒る。やるべきだからやるのではなくて、予算内だからやるのか? 予算内であれば使ってもいいのか? と突っ込みを入れまくる。社長に判断を委ねるのではなく、自分で考えを突き詰めて、正しいと思うものを提案するべきだ。それができると、議論を深められる。

あるダイレクトメール施策では「予算以上に使いたい。なぜならば~~」という稟議があがってきた。私は最初、「君の説明では、なぜならば、の理由がまったくわからない」といった。横で聞いている者には、私が反対しているように聞こえるかもしれないが、実際はただ「わからない」「納得できないからもう一度」といっているだけだ。

普通の会社なら、ここは社員が社長の意見を忖度し、合わせにいくところではないだろうか。しかしメガネスーパーの社員たちは合わせず、腹を割ってくれる。一生懸命説明しようとしてくれる。これがありがたいのだ。彼らの話を聞いているうち、私にも新しい情報がインプットされる。するとDMの文言が変わったり、ターゲットが変わったりして、「それなら、もっとやったほうがいいね」と、私も意見を変えることは多い。

そんなことだから、破綻のないきれいなプレゼンを聞くと、逆に心配になるのだ。「こうしたほうが社長は喜ぶから」と、社員たちに忖度されているのではないか、どこかに罠があるのではないか。私のような凡人に、そんな都合のいい話が降ってくるはずがない。そう疑ってしまう。だから社員には、腹を割った話をしてほしいと、いつも話している。

ある赤字店舗の賃貸契約を更新するかしないか、という答申があったときのことだ。店舗を管理しているストアディレクターがいった。「経費を削って黒字にします。だから続けさせてください」仮に、パートさんを1人、別の店に移せば、月15万の経費を削れるかもしれない。売上が伸びなくても、これで黒字になる、だからもう1年待ってください。そういう話だ。

私はそれを聞いて「現実を直視していない」と感じた。じゃあ半年後、黒字を達成できなければストアディレクターは罰せられるのか? 店長は誰かに叱られるのか? この場だけキレイごとをならべて、契約更新したら終わりじゃないのか? だいたいどうして店長ではなくストアディレクターが来ているんだ? 店長をかばう気持ちもわかるが、できていないことができるようになる魔法があるのか?そのストアディレクターは、店長思いの、やさしい人間なのだ。

しかし会社全体の利益を考えるなら、ストアディレクターは別の店の黒字を大きくすることにエネルギーを使うほうが絶対的に正しい。一歩間違えると、一つの赤字店舗を生かすために、自分が抱えている別の黒字店舗を犠牲にする、ということになってしまう。そんなことなら、現実から目を背けず、たとえば、「この赤字店舗の人員を同じ地域の大型店に移すことで、赤字店舗の赤字はむしろ増える可能性があるが、大型店の黒字が増えることにより、地域全体の利益は増えます」といわれたほうが、よほど刺さる話になる。それなら、議論する価値がある。

私は、ストアディレクターがその店を続けさせてやりたいと思う気持ちもわかる。その店についていたお客さまをアイケア難民にしたくもない。だから戦略的に美しくなくても、赤字店舗を残すこと自体には賛成なのだ。でも頼むから、私を前に、できもしない魔法を口にしないでほしい。そんなことを聞いて喜ぶほどウブでもバカでないのだ。そんな都合のいい話はないよ。何度もそういって突き返しているうちに、腹を割ったプレゼンをしてくれるようになっていく。腹を割ったプレゼンから、次の一手は生まれる。耳に心地いいプレゼンを聞いて、喜んでいる場合ではないのだ。

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(画像=『0秒経営』(※クリックするとAmazonに飛びます))

星﨑尚彦
1966年生まれ。早稲田大学法学部卒業後、三井物産(株)に入社。主に繊維事業、ファッション事業に携わった後、スイスのビジネススクールIMDへ留学。MBA取得後の2000年、スイスの宝飾メーカー「フラー・ジャコー」日本法人の経営者に就任、短期間で同社業績の飛躍的向上に成功。2013年6月、メガネスーパーの再建を任され、2016年に同社9年ぶりの黒字化を果たす。2017年11月には株式会社ビジョナリーホールディングスの代表取締役社長に就任。アイケアの啓発・普及を旗印に、先進アイケアサービス・店舗の拡大や積極的なM&Aといった成長戦略を加速させ、2018年には3期連続の黒字を実現。

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