シンカー: 米国の中間選挙を受けてリスク・センチメントが改善し、債券利回りを押し上げた。英国の欧州連合(EU)離脱交渉やイタリアの財政問題の先行きに明るさが見え始め、世界の債券市場は弱気相場への傾斜を保ち続けると予想される。やはり気になるのは、米国の金利上昇を起因とするここまでの株安が、景気センチメントを著しく悪化させ、目先の景気後退につながるリスクである。米国の資金循環統計を見ると、家計の貯蓄率は2017年4-6月期の3.6%から2018年4-6月期の5.9%へ上昇していることが確認できる。賃金上昇が強くなり始めていることと、減税の効果が徐々に出てきていることが、家計の可処分所得を支出対比で押し上げているとみられる。言い換えれば、米国の家計にはペントアップ需要がまだ大きいことを意味する。株安が長期間継続しないかぎり、家計のファンダメンタルズは堅調であり、米国が景気後退になるにはまだ時間がかかるとみられる。

最新のSGグローバル・レポートと要約

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

●米国経済(11/8):10月の関税収入は前年同月の2倍近くに

米国では10月に関税収入が60億ドル近くに増加、2017年10月のほぼ2倍になった。このように関税収入が前年同月比で100%近く増加する状況になったが、米国経済の足元は固まっている。弊社が追跡している範囲では、関税を原因とする影響は小さい。下方リスクは依然として、2019年とそれ以降に対するものだ。

●イタリア経済(11/8):委員会ではなく市場がイタリアの財政戦略にとって重要に

たとえ駆け込みで2019年度イタリア予算案に修正が加えられたとしても、欧州委員会は9月21日に、イタリアに対して過剰赤字是正手続き(EDP:EXCESSIVE DEFICIT PROCEDURE)を1月中旬に発動するための延々とした手続きを始める可能性が高い。さらにこれは制裁によって補われるかもしれない。

しかし、2015年のギリシャの場合とは違って、コストは上昇しているとはいってもイタリア政府が市場にアクセスできる限り、委員会にイタリア政府に引き返させる力はない。たとえ財政赤字の増加とQEの終了を考慮したとしても、イタリアの2019年の総資金需要は長期的にみて急上昇しているわけではなく、おおむねQE以前の水準に沿っている。

それに加えて、政府は膨大な国内貯蓄、特に一般投資家を公式にターゲットにするとしている。この戦略は、ここ10年間、家計によるイタリア国債への直接的なエクスポージャーが大きく減少しているという調査に基づいている。しかし、これは大部分正しいが、家計はいまだミューチュアル・ファンド、年金と保険プロダクトを通してBTPに対する大きなエクスポージャーを有している。イタリア政府による財政・債務発行の計画は、いまだ主に銀行といった他の国内投資家に依存したままで、外国投資家の懸念再発に対して脆弱な状況は続くだろう。

●中国経済(11/7):対米関税戦争で市場シェアを失うなら、どの国に移るか

米国と中国の間の貿易を巡る緊張の先行きは、依然として非常に不確実だ。とはいえ米国が、追加関税対象とした中国製品の代替品を調達することが難しいことは明らかだ。2,000億ドルの輸入をカバーする米国の追加関税対象リストの半分以上の品目で中国からの輸入が50%以上を占める。また代替が難しい商品の3分の1が、米国の消費者向けだ。しかも追加関税対象がさらに拡大すれば、代替品を見つける困難さは指数関数的に高まる(跳ね上がる)だろう。

だが、一部は代替品の発見が可能で、一部の貿易では相手国が変わり、(米中間の)関税戦争の恩恵を比較的早く受ける輸出国が出ることも考えられる。メキシコとカナダは、こうした形で超短期的な利益を得る上で最も良い位置を占めており、一部のアジア輸出国がそれに続く。

中国にとっては、短期的に市場シェアの一部を失うことより、グローバル・バリューチェーン(GVC)に関連する海外からの直接投資の減少が懸念される。中国のGVC生産での優位が今後数年で大きく損なわれることは無いかも知れないが、アジア新興国の一部(とくにベトナムとインド)での GVC生産は、勢いが強まる可能性がある。

●インドネシア経済(11/6):双子の赤字が景気拡大のハードルに

インドネシアの2018年第3四半期(Q3)GDP成長率は、Q2の前年同期比5.3%から同5.2%に減速した(これは弊社や市場の見込み通りだった)。2018年1-9月平均のGDP成長率は同5.2%となった。国内消費は少し弱含んだが良く持ちこたえた。国内資本形成は、ジャカルタ・アジア大会関連の投資活動に後押しされて、力強くなる兆しが見えた。だが資本投資全体は、公共投資の弱さを反映して引続き低調だった。公共投資が弱かった背景には、政府の財政状態が悪いことや、経常赤字の急増を防ぐために投資主導の景気拡大を過度に追求しないことを、政策上決定したことが挙げられる。

●HEDGE FUND WATCH(11/6): 強気派は大人しくなったのか?MARIによると全くそうではない

ヘッジファンドのポジションはロングであれショートであれ、金融市場のトレンドについて有益な洞察を与えてくれることが多い。弊社は資産クラスごとのヘッジファンドの動向、パフォーマンス、及びヘッジファンドが選好する戦略を追跡している。

10月の株価反落を経て、弊社が直近のMulti Asset Portfolioで述べた慎重なメッセージを理解することがはるかに容易になっている。10月4日にHedge Fund Watchの前号”Seven sings of exuberant expectations”を発行して以降、株式市場は年初来の上昇を帳消しにしており、それよりはるかに大きく下げる場面もあった。しかし、良好なモメンタムがこれほど長く続き、強気派がこれほど支配的になっていただけに、「10年近く続いてきた株式の強気相場は本当に終焉を迎えるのか?」との疑問は依然残る。

株式のポジションがショートに急転換:弊社の全体的な株式ポジショニング指数(SG EPI)は、株式に対するポジションがここ2年半で最も大幅なネットショートに転じていることを示唆しているが、同指数がこの水準から反発(ロングに転換)したことは2008年以降で少なくとも4度ある。これには意外にもネットロングにとどまっているS&P 500のポジションも含まれる。要するに、強気派が大人しくなったことを示す非常に確かなサインは見られない。

米国債のポジションは依然過去最大に近いネットショート:弊社の全体的な金利ポジショニング指数(SG RPI)は依然過去最低に近い水準にあり、債券利回りの大幅上昇と経済成長の急加速が見込まれていることを示唆しているが、そのどちらも現実的ではないと弊社は考える。

MARIの紹介:弊社は初めて、株式、金利、為替、およびコモディティに対するヘッジファンドのポジショニングを1つの指数に統合した。この新たなマルチ・アセット・リスク指数(MARI)は、ポジショニングがリスクオンかリスクオフかを判定するのに役立つよう設計されている。

ポジショニングは依然概ねリスクオン、従って一段のダウンサイドが見込まれる:ヘッジファンドのリスクオン的なポジショニングはあまりに楽観的過ぎると弊社は考える。従って、一段のダウンサイドを見込んでいる。

●GLOBAL STRATEGY WEEKLY(11/9): 米国の財政刺激策という甘味がはがれ落ちた後は…

米国国民の多くは、トランプ大統領が「大好き」か「大嫌い」かのどちらかだろう。トランプ大統領は、好みが別れる食品の「マーマイト(MARMITE)」のような人だとも言える。だが以前にバンカーだった筆者の知人の例から、マーマイトを口にする際には慎重になるべきだ(味が見かけと異なるかも知れない)。これと同じことが、(見かけと実態が違う可能性がある)足元の米国経済の力強さにも言える。

●債券市場(11/12):楽観ムードの再燃

米国の中間選挙を受けてリスク・センチメントが改善し、債券利回りを押し上げた。英国の欧州連合(EU)離脱交渉やイタリアの財政問題の先行きに明るさが見え始め、世界の債券市場は弱気相場への傾斜を保ち続けると予想される。グローバル債券に対するデュレーション・ショートの投資スタンスを維持していくが、これは米国ではイールドカーブのフラット化を、ユーロ圏や英国ではスティープ化を想定したポジションに該当する。また、財政赤字の拡大や供給圧力の高まりは、債券市場の需要動向に悪影響を及ぼし続ける可能性が高い。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司