○ 2019 年の春闘賃上げ率を2.21%と予測する(厚生労働省「民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」ベース)。18 年の春闘賃上げ率は2.26%と、17 年の2.11%から伸びを高めたが、19 年は若干鈍化する可能性が高い。また、賃上げのうち定期昇給部分(1.8%程度)を除いたベースアップでは0.41%になるとみられる。物価上昇や労働需給の逼迫、政府による賃上げ要請等を背景に6年連続でベースアップは実施されるだろうが、景気の先行き不透明感の強まりから大幅な賃上げには至らず、伸びは18 年(0.46%)をやや下回るだろう。
○ 賃上げ率の押し上げ要因としては、物価上昇、労働需給の逼迫、政府からの要請の3つがある。まず、消費者物価指数(コア)は18 年度に前年比+0.9%程度が見込まれており、17 年度の+0.7%から若干上昇率が高まっている。また、失業率の低下が続くなど労働需給は逼迫しており、人手不足感は一段と強まっている。政府からの圧力も引き続き強い。今回はまだ数値目標を打ち出していない(18 年春闘では3%の賃上げを要請)が、19 年10 月に消費税引き上げが予定されていることを踏まえれば、少なくとも政府からのプレッシャーが弱まることはない。
○ 一方、終わりの見えない貿易戦争や世界景気の減速等を背景として、景気の先行き不透明感は18 年春闘時と比べて強まっている。企業業績についても、好調だった17 年度と比較すると、原材料費や人件費等のコスト負担の増加もあって増益率は足元で鈍化している。経営側としては、景気の先行き不透明感が強いなかで固定費の最たるものである基本給の大幅な引き上げには踏み切りにくく、前年を上回る賃上げには慎重になるだろう。
○ 賃上げを求める側である労働組合サイドからも強気な声は聞かれない。11 月1日に連合が開催した中央討論集会では「2%程度を基準」としたベースアップを要求する方針案が傘下労組に示された。この数字は16 年春闘以降4年連続で同じであり、少なくとも昨年以上の賃上げを求めようという姿勢は見えてこない。人手不足が社会問題化している上、政府が度々賃上げの重要性を強調し、賃金引上げを強く求めている割には控えめな要求に見える。このように、春闘における交渉当事者である労使双方において、賃上げムードは醸成されていない。こうした状況を踏まえると、19 年春闘において18 年を上回る賃上げ率が実現することは難しいと思われる。
○ 春闘では、月例給与に加え、ボーナスについても交渉が行われることが多い。17 年度の好調な企業業績を反映して18 年のボーナスは夏・冬とも高い伸びになったとみられるが、18 年度の企業業績が鈍化していることを受けて、19 年のボーナスは伸びが鈍化する形で妥結する可能性が高い。19 年度も一人当たり賃金は上昇が見込まれるが、18 年度と比べると伸びはやや低下しそうだ。消費主導の景気回復実現へのハードルは、引き続き高い。
(提供:第一生命経済研究所)
第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部 主席エコノミスト 新家 義貴