要旨

① 事業所内保育施設は、認可外保育施設に該当し、企業等が従業員の子どもを対象として、事業所内または隣接地に設置する保育施設のことである。そのため、自社の勤務時間に合わせて、一般の認可保育所では対応できない深夜や休日等にも対応した保育運営を行ったり、産後休暇や育児休業後にすぐに職場復帰できるような体制を整えているところが多いのが特徴である。

②実際に事業所内保育施設を利用して働いている母親に対して実施したアンケート調査結果によると、利用理由は、地元の認可保育所に入れなかったという次善の策としてでなく、勤務先の保育園だから、という積極的な理由で利用している人が多い。しかも具体的には、物理的な便利さよりも、子どもが近くにいるという安心感を強く意識して利用している人が多いようである。

③事業所内保育施設に対する要望としては、「利用時間の延長」や「子どもの病気への対応」といった項目への回答割合が高い。また、自由記述欄には「平日、自分(親自身)が休みの時も子どもを預かってほしい」といった意見が多く寄せられている。今後、事業所内保育施設は、従業員の就労を支える「就労支援」としてのみでなく、従業員のニーズに応え、「育児生活への支援」や「子どもの健全育成」という視点も視野に入れ、「次世代育成支援」をもっと意識した施設として機能強化させる余地があるのではないだろうか。

1.はじめに

 2003年7月に「次世代育成支援対策推進法」が成立した。これは、少子化の流れを変えるために、国、地方自治体、企業がともに次世代育成のために果たすべき役割を自覚し、その対策のために「行動計画」を策定・実施することを定めたものである。特に企業に対しては、仕事と家庭の両立が可能となるような雇用環境の整備のための 取り組みを、一層促進させることが求められることとなった。

 このような中、本稿では、企業による次世代育成支援策の一つである事業所内保育施設に着目し、その現状を踏まえた上で、実際に事業所内保育施設を利用している母親の意識や利用実態を明らかにする。このことにより、利用者からみた事業所内保育施設の運営上の課題等を抽出し、今後のあり方について考察したい。

2.事業所内保育施設とは

(1)事業所内保育施設の概況

 親の就労等の理由により、子どもを預かって保育を行う保育所は、児童福祉法に規定されており、大きく分けて、地方自治体が設置あるいは認可をしている認可保育所と、それ以外の認可外保育施設の2種類がある。

 事業所内保育施設は、後者の認可外保育施設に該当し、企業等が従業員の子どもを対象として、事業所内または隣接地に設置する保育施設のことである。ただし、「認可外」保育施設であっても、「認可外保育施設に対する指導監督の実施について」(2001年3月29日厚生労働省雇用均等・児童家庭局長通知)に基づき、その運営や保育内容等は、各都道府県、指定都市、中核市による指導監督の対象となっている。

 厚生労働省によれば、事業所内保育施設の数は、2003年10月1日現在、979施設である(図表1)。設置主体別の内訳を見ると、会社が約半数の500施設、その他(医療法人等)が約4割の416施設となっている。

事業所内保育施設の利用実態について
(画像=第一生命経済研究所)

(2)事業所内保育施設の特徴

 地域住民の子どもたちを受け入れる認可保育所とは異なり、事業所内保育施設は、主に自社に勤務している従業員の子どもを受け入れる保育施設である。このことから、事業所内保育施設の特徴の一つとして、自社の勤務日や勤務時間に合わせて、一般の認可保育所では対応できない休日や深夜等にも対応した保育運営を行うところもある

 ことが挙げられる。例えば、成田国際空港内にある保育施設は、空港内に勤務する従業員の勤務時間に合わせて、土日祝日も運営している。また、病院内の保育施設の中には、24時間対応をしているものもある。

 さらにもう一つの特徴として、3歳未満の子どもを受け入れやすくしていることが挙げられる。主に都市部では、3歳未満児は待機児童が多く、地元の認可保育所には入所しにくい状況がある。このことが、出産後の就業継続をしにくくさせてしまっている一つの要因となっている。しかしながら、事業所内保育施設において3歳未満児を受け入れる体制を整えることにより、産後休暇や育児休業後の職場復帰が円滑にできるようになる。例えば、(株)新生銀行が都心に設置している保育施設は、3歳未満児のみを対象としている。その狙いは、従業員の職場復帰をしやすくし、3歳になるまでに地元の認可保育所等に入る準備をしてもらうことであるという。いわば、地元の認可保育所に入所するまでの「つなぎ」としての施設という位置づけである。

 以上のように、事業所内保育施設は、従業員が育児との両立生活が可能となるよう、様々な運営上の工夫をしている。他方、こうした事業所内保育施設に対して、実際に子どもを預けている母親は、どのような評価をしているのであろうか。次に、事業所内保育施設を利用しながら働いている母親の利用実態と意識をみてみよう。

3.事業所内保育施設の利用者に対するアンケート調査結果

(1)調査概要

 当研究所では、事業所内保育施設の利用者の意識や利用実態等について明らかにし、運営上の課題を抽出するため、実際に事業所内保育施設を利用して働いている母親に対してアンケート調査を実施した。調査の実施概要は、図表2の通りである。

事業所内保育施設の利用実態について
(画像=第一生命経済研究所)

(2)調査対象者の属性

 調査対象者の属性をみると、年齢は30歳代が約7割を占めている(図表3)。就業形態は、正社員・正職員が最も多く、7割近くを占めており、パート・アルバイトは約3割となっている*1(図表4)。

事業所内保育施設の利用実態について
(画像=第一生命経済研究所)

(3)事業所内保育施設利用の経路

 事業所内保育施設利用の経路としては、大きく2つのパターンがある。一つは、もともと出産前から勤務しており、産後休暇や育児休業を取得した後、勤務先の事業所内保育施設を利用しているパターンである。もう一つは、いったん家庭に入っていたが、事業所内保育施設を設置している会社に再就職し、その保育施設を利用しながら勤務をしているパターンである。調査結果によれば、前者が約6割、後者が4割弱となっている(図表4)。就業形態別にみると、正社員・正職員は、前者のパターンが多く、パート・アルバイトは後者のパターンが多い。

事業所内保育施設の利用実態について
(画像=第一生命経済研究所)

(4)事業所内保育施設と育児休業制度との関係

 ちなみに、前者のパターンの利用者(すなわち、出産前から勤務している者)について、育児休業の取得状況をたずねたところ、「上限まで取得できた」者(育休1年間が最も多い)と「上限より短い」者(育休半年以上1年未満が多い)が約半数ずつに分かれた(図表割愛)。上限よりも早く職場復帰をした者に対して、その理由をたずねたところ、「経済上の理由」が最も多い。次いで多いのが、「事業所に保育園があって、安心して子どもを預けることができる」と「早く復帰する方が望ましいような職場の雰囲気を察したから」という項目であり、それぞれ同じ位の割合となっている。

 このことにより、事業所にとって育児休業制度と保育施設は、代替関係にあることがうかがえる。そのため、保育施設が整備されていることで、従業員は育児休業制度の柔軟な利用が可能となる。他方、事業所にとっては「働かせ方」の選択肢を広げることが可能となる。しかしながら、従業員のための両立支援策として機能するためには、少なくとも従業員の意向に基づいて、これら支援策が活用できることが望ましいと思われる。

(5)事業所内保育施設の利用理由

 事業所内保育施設の利用理由は、「勤務している会社(病院等)の保育園だから」への回答が9割以上となっている(図表5)。次いで、「子どもが近くにいるので安心できるため」といった精神的な理由が約5割、「勤務時間に合わせて、預けることができるため」や「勤務先のそばにあり、送迎や通勤に便利だから」といった物理的な理由が約3割となっている。

 このことから、どちらかというと、地元の認可保育所に入れなかったという次善の策としてでなく、勤務先の保育園だから、という積極的な理由で利用している人が多いことがわかる。しかも具体的には、物理的な便利さよりも、子どもが近くにいるという安心感を強く意識して利用している人が多いようである。

事業所内保育施設の利用実態について
(画像=第一生命経済研究所)

(6)事業所内保育施設の利用評価

 事業所内保育施設を利用して、どのように感じているかをたずねたところ、「子どもを預けながら働くことができてよかった」への回答割合が8割以上を占めている(図表6)。次いで、「子どもがそばにいるので安心である」と「子どもの遊び友達が増えてよかった」が、それぞれ5割となっている。概して、事業所内保育施設が、育児と仕事との両立支援に寄与し、働く親にとっても、また、子どもにとっても、安心して利用できるものとして評価されていることがうかがえる。

 しかしながら、「軽い病気の時も預かってもらえるので助かる」「保育園の先生などに気軽に子育ての相談事ができてよかった」への回答割合は4割弱である。病児対応や育児相談等、付加価値的な機能に対する評価は、相対的にみると限定的であるといえる。

事業所内保育施設の利用実態について
(画像=第一生命経済研究所)

(7)勤務先や事業所内保育施設等への要望

 最後に、勤務先や事業所内保育施設、社会全体に対する要望をたずねたところ、「子どもの看護のための休暇制度を充実してほしい」への回答割合が最も多く、約5割を占めている(図表7)。次いで、「保育園を利用できる時間を長くしてほしい」「保育園の利用料金を安くしてほしい」への回答割合が約3割、「子どもが軽い病気の時でも預かってほしい」が約2割となっている。

 子どもが病気の時の対応については、自由回答欄にも多くの意見が寄せられた。子どもが病気の時には、「気兼ねなく休めるようにしてほしい」、その上で、回復期には「病児保育をしてほしい」といった意見である。子どもの看護のための休暇制度については、育児・介護休業法の改正により、今年4月から義務化されるので、今後は多くの事業所においてその対応が図られると思われる。しかしながら、たとえ「看護休暇」が用意されても、仕事の都合上、そう長くは休めないこともある。そのために、集団保育がまだ無理な、病気回復期にある子どもを預かる「病児保育」への対応も望まれていると思われる。

 また、図表5にあるように「勤務時間に合わせて預けることができる」ことを評価して利用している人も少なからずいるものの、「保育時間の延長」を要望する回答も約3割となっており、施設によって運営内容にばらつきがあることが指摘できる。また、自由回答欄には、「同僚への仕事のしわ寄せに気兼ねして」保育時間の延長を望む意見も多い。このようなことから、保育施設の運営内容のみでなく、職場における育児中の従業員に対する理解、職場の雰囲気、「働かせ方」等、事業所全体にかかわる問題として捉えることも必要だ。

 その他、自由回答欄で特に目立った意見は、「平日、自分(親自身)が休みの時でも保育園で子どもを預かってほしい」「自分のための自由な時間がほしい」「仕事と育児の両立は大変である」というものである。事業所内保育施設においても、親の出勤とは独立した、「集団保育による子どもの健全育成の場」という視点をもっと意識した運営が望まれているようである。それによって、親自身が自分の時間を取り戻し、精神的に余裕を持つことができれば、仕事面でもプラスに影響するものと思われる。

事業所内保育施設の利用実態について
(画像=第一生命経済研究所)

4.まとめ-利用者からみた事業所内保育施設の意義と課題

 以上、本調査結果から、事業所内保育施設は概して、多くの利用者から「小さな子どもがいても働くことができる」という母親の就労意欲を満たすものとして高く評価をされていることがわかった。と同時に、子どもが小さいからこそ、「子どものそばで安心して働くことができる」という精神的な充足感を満たすものとしても評価されている。したがって、「就労意欲のある母親が安心して子どもを預けて働くことができる」という点で、まずは、事業所内保育施設は両立支援策として大きく貢献していることが指摘できる。

 しかし一方、その運営面において、利用者のニーズに応えきれていない施設もあるようだ。例えば、「利用時間の延長」や「子どもの病気への対応」といった要望が多くの利用者から寄せられている。確かに、一部の利用者の中には「勤務時間に合わせて働くことができる」点や、「軽い病気の時も預かってもらえる」点を評価する意見もあり、そのような体制を整備している施設もある。しかしながら、事業所内保育施設によってその運営内容にばらつきがあるのが実態のようだ。従業員は事業所内保育施設を選べない。選択肢がない中で、勤務先にあるから、その保育施設に子どもを預けて、多くは保育料を支払って利用している。このような状況の中で、従業員としては、ある程度の利用満足感が保育施設から得られないと、業務に対する士気にも影響すると思われる。

 確かに、事業所にとって、保育施設の設置・運営は大きな費用負担を要するものであり、保育施設の運営にあたっては、できるだけ効率的に行いたいところである。しかし他方、利用満足度を高めるという視点も、重要なポイントの一つであると思われる。つまり、保育士の人件費等、直接的なコストに関してのみを考えるよりも、利用満足度を高め、従業員のストレスを緩和して、持てる力を業務に傾けさせることで、事業所全体の生産性を向上させ、結果的に保育施設の運営を支えるという考え方である。そのように生産性の向上に寄与することが、事業所内保育施設の本来的な目的であり、意義であると思われる。

 このように考えると、今後、多くの事業所内保育施設は、従業員の就労を支える「就労支援」としてのみでなく、従業員のニーズに応え、「育児生活への支援」や「子どもの健全育成」という視点も視野に入れ、「次世代育成支援」をもっと意識した施設として機能強化させる余地があるのではないだろうか。

 最後に、本稿は、あくまでも利用者からみた事業所内保育施設に対する評価及び要望等を紹介したものである。事業所内保育施設の設置者側からみた運営実態や課題等を含め、今後の事業所内保育施設のあり方全般についての考察は、次の機会に譲りたい。

【謝辞】
 事業所内保育施設の利用者に対するアンケート調査にご協力下さいました事業所内保育施設の皆様に、心より感謝申し上げます。

【注釈】
*1 就業形態別に仕事内容をみると、正社員・正職員については、医師・看護師が50.0%、事務職が15.7%、生産・技能職が10.0%等である。 パート・アルバイトについては、営業・サービス職が41.4%、生産・技能職が24.1%、医師・看護師が13.8%となっている。

【参考文献】
・的場康子,2004,「事業所内保育所の現状と課題」『Life Design Report(2004年3月号)』第一生命経済研究所:16‐23.

研究開発室 副主任研究員 的場 康子