<1.29ショック>

 2003年の合計特殊出生率*1が1.29と過去最低を更新した(厚生労働省「平成15年人口動態統計月報年計(概数)の概況」)。第一次ベビーブームの始まりである1947年は4.54だったものが、1955年には2.37、1975年には1.91と2.00を下回り、以降も低下傾向が続いている。また、このような出生率低下の背景の一つと考えられている「晩産化」にも拍車がかかっている。第1子出生時の母親の平均年齢が、1965年には25.7歳であったものが、2003年は28.6歳であり、上昇傾向にある(資料同上)。

 本稿では、このような少子社会における育児世代の生活状況を見て、働き方の見直しの必要性を指摘した上で、少子化の流れを変えるために、目下、多くの企業が取り組んでいる次世代育成支援のための雇用環境整備についての「行動計画」に注目し、それが企業並びに社会にとってどのような意味をもたらすものか考えてみよう。

<子どもがいる世帯の状況>

 まず、18歳未満の子どものいる世帯に暮らし向きをきいた意識調査によると、「苦しい」(大変苦しい26.4%、やや苦しい36.4%、普通33.9%、ややゆとりがある3.1%、大変ゆとりがある0.2%)という回答が6割以上を占めている(厚生労働省「平成15年国民生活基礎調査の概況」)。このことも反映してか、共働き世帯が増えている(図表1)。しかも、子ども数が増えるにつれて、共働きの割合が高くなる傾向がある。

企業にとっての次世代育成支援の意味
(画像=第一生命経済研究所)

 また、末子の年齢別に母親の就業割合をみると、末子が0歳で23.4%、1歳で30.9%、2歳で36.6%、3歳になると4割以上が働いている(資料は図表1に同じ)。このように、子どもの年齢が上がるにつれて就労割合も上昇するが、乳児がいる場合でも2割以上の母親が就労しているのが実態である。

<育児世代男女の長時間労働化>

 しかしながら、子育てには経済的ゆとりに加えて、家庭生活の中の時間的ゆとりも必要である。育児世代にとって共働きは、経済的な負担感を解消させるが、反面、家庭生活のゆとり時間が犠牲になるということもある。現に、社会的趨勢として労働時間の長時間化が進んでおり、特に男女雇用者(正規職員・従業員)において長時間労働が増えているという実態がある(図表2)。また全就業者について年齢別に見ると、長時間労働が最も顕著なのは、男性は30歳代(週49時間以上が約5割、うち週60時間以上が2割以上)、女性は20歳代から30歳代前半(週49時間以上が約2割)である (資料は図表2に同じ)。

 この年代のすべてに子どもがいるとは限らないが、少なくとも、このような育児世代男女の長時間労働化がこのまま進めば、これから子どもを持とうとするゆとりも、子育てをするゆとりも持てず、少子化傾向に歯止めがかかるどころか、拍車がかかることが必至である。このようなことから、育児世代男女の働き方を見直し、ゆとりを持って、子育てを含め家庭生活を過ごすことができるような働き方が志向されている。

企業にとっての次世代育成支援の意味
(画像=第一生命経済研究所)

<次世代育成支援対策――従業員の様々な生活ニーズに配慮した雇用環境の整備を>

 このようなことを背景に、育児世代男女の様々な負担感を軽減し、少子化の流れを変えるために、2003年7月、「次世代育成支援対策推進法」が成立した。これは、国、地方自治体とともに企業も次世代育成のために果たすべき役割を自覚し、その対策のために「行動計画」を策定・実施することを定めたものである。したがって、国、地方自治体、企業(従業員301人以上)は、それぞれ「行動計画」を来年4月1日までに策定し、都道府県労働局に策定した旨を届け出なければならないことになっている。

 「行動計画策定指針」は、「行動計画」に盛り込む内容として、以下のような取り組みを挙げている。

すなわち、
①主に育児をしている労働者を対象とし、仕事と家庭の両立を支援する雇用環境の整備
(例えば、妊娠中の配慮、育児休業制度、短時間勤務制度、事業所内保育施設、再雇用制度等)
②育児をしていない労働者も含めて対象とし、働き方の見直しに資する多様な労働条件の整備
(例えば、所定外労働の削減、多様就業型ワークシェアリング*2、テレワーク等)
③その他、対象を自社の労働者に限定しない、雇用環境の整備以外の次世代育成のための支援
(例えば、子育てバリアフリー*3、子育てに関する地域貢献活動の実施、インターンシップ等)
である。

 従業員には、子育て、介護、学習、ボランティア活動等、そのライフステージや趣向によって、様々な生活ニーズがある。「行動計画」策定の際には、そのような従業員のニーズに配慮した雇用環境の整備を行うことが求められている。すなわち、今、子育てをしている人のみでなく、子育て予備軍を含めた男女従業員をターゲットとした働き方の見直しを図ることによって、次世代育成への支援の底上げを図り、最終的に少子化の流れを変えることを目指しているのである。

<企業にとっての次世代育成支援対策の意味>

 しかし現実には、このような雇用環境の整備は、企業にとってはコスト面で負担となる。そのために消極的な企業も多いという。しかしながら、次世代育成支援策を戦略的な人材管理施策として位置づけ、企業の業績に結びつけることもできるということが指摘されている。実際に、多様な人材を活かし、雇用継続を図ることで、生産性を高めている企業もある。特に、教育投資が大きく、スキルが個人に蓄積される職種にあっては、人材の定着率が企業業績に影響する。そのような場合、両立支援策を含めた雇用環境の整備策は、積極的な人材管理策の延長線上にあるものと位置づけることもできる。

 今後、生産年齢人口が減少することが見込まれている中で、多くの企業にとっては、男女問わず優秀な人材の確保が自社の業績・競争力を高めることにおいて重要なポイントとなる。まさに「行動計画」策定の義務化は、自社の雇用環境を振り返り、人材戦略を練るための好機である。企業がそれぞれどのような「行動計画」を策定し、実行するのか、注目したいところである。(提供:第一生命経済研究所

*1  1人の女性が一生のうちに平均して何人の子どもを産むかを示す推計値で、15歳から49歳までの年齢別出生率をもとに算出する。
*2  雇用の維持・創出を図ることを目的として労働時間の短縮を行うものであり、雇用・賃金・労働時間の適切な配分を目指すものである。そのうち、多様就業型は、働き方の選択肢を増やすため、短時間勤務や隔日勤務等を取り入れることを示す。
*3  多数の来訪者の利用が想定される社屋等について、段差の解消等により利用者が円滑に移動できるようにするとともに、託児室・授乳コーナー及び乳幼児と一緒に安心して利用できるトイレ等の整備により、子どもを連れた来訪者が安心して利用できる環境を整備することを示す。

研究開発室 的場 康子