Airbnb創業者の一人、ネイサン・ブレチャジックが中国最大のかき入れ時である国慶節休暇を前に訪中し、さまざまな発信を行った。試行錯誤のさなかにあった2017年までと違い、自信に満ちた表情で「我々は“中国決戦”を挑む」と締めくくった。

シェアエコノミーの発展目覚ましい中国だが、民泊に関しては出遅れていた。近未来の中国民泊市場は、どう発展していくのだろうか。

中国市場攻略のカギはローカライズ

Airbnb,中国
(画像=BigTunaOnline / Shuttterstock)

2018年9月下旬、Airbnb共同創業者、首席戦略官兼中国区主席、ネイサン・ブレチャジックは、上海で開催された「2018環球旅訊峰会&数字(デジタル)旅游展」の席上で中国市場の重視を再三強調した。

戦略の柱は、中国業務の自主発展と、Airbnb世界標準とのバランスである。つまりローカライズしなければ、中国市場は攻略できない、と認めている。

Airbnbは、中国版ウエブサイトの設計や管理にあたり、ホワイトハッカーたちを採用した。すでに100名以上を迎え入れ、エンジニアや管理職の地位に就いている。今では総計200名体制である。こうした研究開発部隊は、本部所在地のサンフランシスコ以外にはない。これはさらに強化する方向だ。

ローカライズ商品の開発には、新鮮な血液が必要である。7月には、中国観光業界を熟知した出色の企業家、彭稲を総裁に迎えた。しかし彼は、2年間で6人目の中国人現地トップである。これこそ中国に研究開発組織を作り、ローカライズ戦略を打ち出さざるを得なかった理由だ。誰もが世界標準の運営方式は中国には不適と思っていた。

中国市場での独自の取組み

中国人にとって、短期の間借り、民泊という概念は比較的新しい。Airbnbは、これを中国人顧客に浸透させるには、大変な労力を必要とすることを認識させられた。そこで中国市場における各海外ブランド発展の軌跡についても、綿密な研究を行った。

そして新しい旅行スタイルの提案として「故事集(Stories)」を用意した。それぞれの好みに合わせた個性的な旅行へ、顧客を導く手引きである。このような提案書は、中国地区以外にはどこにも準備していない。

これらは、Airbnbアプリと一体化体験が可能だ。体験の集積をブランドの確立と差別化に結びつける。その一助としてAI巨頭との提携も模索している。

過去1年から1年半の間、Airbnb中国は、バイドゥ/百度(検索エンジン)滴滴出行(配車アプリ)などと交流を深め、新しい理念に基づく商品設計を急いでいる。彭総裁は、異なるネットシステム文化の融合により、どのような新商品が登場するか、ワクワクしていると述べた。

Airbnbは世界各地の旅行パターンに変更を加えて来た革新者という自負を持つ。その経験は中国市場でもアドバンテージを持つ、と考えている。しかしここまで手こずるとは思っていなかったろう。しかし状況は勝手に好転を始めた。

海外をテコにうまく上昇気流に乗っただけ?

Airbnbは全世界に約500万の房源(ホスト)を持っている。これら世界のホストたちは、各地で中国人旅行客を歓迎した。この体験は、自然に中国人をAirbnbに引き寄せた。国内でも利用してみたいというゲストを増やし、ホスト増加を促した。海外ホスト数は、中国発祥の同業「途家」に対する大きなアドバンテージである。

2018年の夏季には“業務総量”が50%増加、宿泊単価も10%増加した。国内宿泊者数、200%増、国内ホスト数250%増、フィリピン、ベトナム、タイ、マレーシア等からの中国旅行客80%増、などの野心的目標を掲げた。

ブレチャジックは、ここ2年半、中国事業は“長足の発展”を遂げた、と胸を張った。しかし実態は、海外をテコにうまく上昇気流に乗ったというのが正しく、策定中の中国ローカライズ戦略の効果は、まだ顕在化したわけではない。ブランドが勝手に成熟を始めた。予約の60%以上を占める80后(1980年代生まれ)90后(1990年代生まれ)の若い世代にじわじわと浸透していったのだ。

ブレチャジックは、これまでの成果(民泊文化の浸透)は目標の半分に過ぎない。真に顧客の共感を得られるパートナーとなることが重要だという。僥倖とはいえ、中国市場でのブランド確立には、自信を深めているようだ。

Airbnbの浸透は、若い世代を中心に中国人が世界標準に近付いていく文化現象の一つとして、捉えてよいだろう。これは中国と国際社会の縮図ともいえる。一帯一路構想やアフリカ重視は、あくまで経済的進出に限られている。文化的にはむしろ押し込まれているのかもしれない。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)