インサイダー取引と聞くと、巨額のお金が闇で動く自分とはまるで関わりのない世界の事件という印象があるかもしれない。しかし、自分でも意識しないままインサイダー取引を行ってしまったというケースもある。将来上場を目指す起業家なら知っておきたい、インサイダー取引の基本を確認してみよう。

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(写真=PIXTA)

インサイダー取引規制はフェアな取引を目指す為にある

まずはインサイダー取引の典型的な例を紹介しよう。例えば自分の会社が近い将来ライバル会社と合併することを知り、それが世間に公表される前に自社の株式を購入したというケースだ。公表後には合併への期待から株価が上昇し、安く買った株式を売却すれば利益が得られるというパターンである。

こうした会社内部の人しか知らない情報をもとに株式の取引が行われることを許してしまうと、一般の株主が不利益を被ることになり、フェアな取引とは言えなくなる。そこで、このような不公正な取引ができないよう、金融商品取引法により禁止されているのである。

インサイダーに当たる人、当たらない人

日本取引所のホームページによると、インサイダー取引とは「上場会社の関係者等が、その職務や地位により知り得た、投資者の投資判断に重大な影響を与える未公表の会社情報を利用して、自社の株式等を売買する行為」とされる。

会社の関係者には役員や正社員だけでなく、パートやアルバイトなども含まれる。また、一定の議決権を持つ株主や会社と契約関係にある公認会計士、コンサルタントなども対象となる。こうした会社関係者に加え、会社関係者から情報を受けて違法に株式の売買を行った者も処罰の対象となる。つまり、完全に部外者だからといって、インサイダー取引と無関係とはいえないのである。

2014年の法改正によって対象者が更に増えた

2014年に金融商品取引法が改正され、自分で利益を得ようとして株式を購入していなくても、インサイダー取引に該当するケースが出てきた。例えば、親族などに利益を得させる目的で非公開の情報を伝達するようなケースだ。「うちの会社は次の決算発表で利益が大幅アップするから株を買っておくといいよ」などの指南はこれに当たる。

また、必ずしも非公開の情報自体を伝えていなくても、処罰の対象となることがある。例えば、「詳しくは言えないが、今週中にうちの株を買っておくと良いことがあるかもよ」というような言動だ。友人などにうっかりこのようなことを言ってしまわないように注意したい。

「重要事実」にはどのようなものがある?

インサイダー取引の対象となる未公表の情報は「重要事実」と呼ばれる。これには、決算情報のほか、配当、業務提携、増資などの決定事実、災害の発生や株主の異動などの発生事実が含まれる。

重要事実の範囲は広いため、どのような情報が重要事実に当たるのか判断に迷うこともあるだろう。そのような場合には会社の総務部に相談したり、売買自体を控えたりするなど、慎重な行動が望まれる。

特に、バスケット条項の存在には気をつけなければならない。一般に、バスケット条項とは、法律などにおいて他の条項でカバーし切れなかったものを一挙に引き受ける条項をいう。金融商品取引法のインサイダー取引規制においても、そうした条項が存在する。

つまり、上述した決算情報や決定事実、発生事実にぴったりと当てはまらなくても、このバスケット条項が適用されてインサイダー取引の対象になることが十分考えられるのである。

インサイダー取引の罰則は厳しい

以上のように、インサイダー取引では会社関係者や重要事実の範囲がキーポイントとなる。疑念を持たれるような取引は極力控えることも大切だ。

このようなインサイダー取引を個人が行った場合、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金という厳しい沙汰が待っている。これらの罰則は併科される場合もある。お酒の席などで気が緩み、うっかりということが起こらないように気を引き締めたいところだ。