シンカー:長期金利のどの程度の水準をファンダメンタルズに基づいた動きであると日銀が許容するのかを示す反応関数によると、これまで日銀のスタンスに大きなブレはないことが確認できる。長期金利はあくまでファンダメンタルズに反応していると考えられ、国債買い入れオペなどから日銀の意図を深読みして水準の感覚を得ようとするのは、適切ではないと考えられる。実際の長期金利とファンダメンタルズが示す水準に乖離があった場合、日銀の動きが予期されるという因果関係の方向感を持つべきだろう。日銀が現行の金融緩和策の副作用を強く懸念し、長短金利差を意図的に拡大する意図は持っていないと考えられる。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

日銀が現行の金融緩和政策の下で、長期金利の動きに対してどのように反応してくるのかについて、分かっていることは二つある。一つ目は、長期金利の0%程度の誘導目標に対して20bp程度の変動を許容することである。二つ目は、あくまでグローバルな金利の上昇や日本の物価上昇を含めたファンダメンタルズの好転を反映する形のみ許容し、緩和の早期出口の思惑などでのテクニカルな上昇は抑制するということだ。

長期金利のどの程度の水準をファンダメンタルズに基づいた動きであると日銀が許容するのかを示す反応関数のできるだけ単純な一つの例を考えた。グローバルな金利の代理変数として米国の10年金利(LN(US)、%、自然対数値)、日本のファンダメンタルズを反映する代理変数として日本の10-20年金利スプレッド(Spread、%)を使う。日銀のこれらの要因に対する反応係数をAとし、許容する長期金利の推測水準をXとする。更に、グローバルなリスクオフ時に、既に水準がかなり低い日本の長期金利への影響が限定的であることを織り込むため、リスクオフ定数をB(低下はリスクオフ)とする。

X=A(LN(US)+Spread)-B

Bは8月上旬までが1.00、9月中旬まで0.99に低下、9月下旬から上昇に転じ、12月中旬まで1.02へ上昇し、グローバルなリスクオンとオフによって変動してきた。12月中旬から急激な株価下落をともなうリスクオフの局面となり、1月上旬には0.99まで低下した。そして、1月中旬からは株価の持ち直しとともにマーケット心理が落ち着き、Bは1.01まで上昇しているようだ。

Aは10月までは0.70で不変であり、日銀のファンダメンタルズに対する反応度合いは一貫していた。しかし、11月以降に米国の長期金利が急落する局面では、国債買い入れオペの大きな減額で日本の長期金利の低下の速度調整をせず、日銀のファンダメンタルズに対する反応度合いは一時的に低下し、Aは0.69となった。その後のグローバルなリスクオフの局面を経て、1月中旬には0.70に戻ったようだ。

米国の10年金利と日本の10-20年金利スプレッドを前提に、日銀が許容する長期金利の推測水準のマトリクスを作ることができる。この推測水準を大きく上回ると、日銀は国債買い入れオペの実施や増額などの反応を示すと考えられる。マトリクス上で、0.2%を超えている場合は、日銀は指値オペなどで実際の長期金利を0.2%程度に抑制することになろう。一方、この水準を大きく下回り、ファンダメンタルズに対してマーケットの反応が鈍いと判断すると、日銀は国債買い入れオペを減額し、ファンダメンタルズに基づく相場形成を促進しようとすることになろう。

長期金利はあくまでファンダメンタルズに反応していると考えられ、国債買い入れオペなどから日銀の意図を深読みして水準の感覚を得ようとするのは、適切ではないと考えられる。実際の長期金利とファンダメンタルズが示す水準に乖離があった場合、日銀の動きが予期されるという因果関係の方向感を持つべきだろう。これまで日銀のスタンスに大きなブレはないことが確認できる。日銀が現行の金融緩和策の副作用を強く懸念し、長短金利差を意図的に拡大する意図は持っていないと考えられる。

この反応関数は一例であり、今後の実際の日銀の長期金利に対する反応や、その他の要因の変化を織り込みながら、修正を加えなければならないだろうが、今のところは日銀の動きを説明する上で、しっかり機能しているようだ。

図)日銀が許容する長期金利の推測水準のマトリクスの一例

日銀が許容する長期金利の推測水準のマトリクスの一例
(画像=ブルームバーグ、SG)

図)日銀が許容する長期金利の推測水準と長期金利の動き

日銀が許容する長期金利の推測水準と長期金利の動き
(画像=ブルームバーグ、SG)

図)7月以降のA(日銀の反応係数)とB(リスクオフ定数)の動き

7月以降のA(日銀の反応係数)とB(リスクオフ定数)の動き
(画像=SG)

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司