トークイベント「ブロックチェーンから考える ゲームとアートで<価値>を創る方法」が1月23日夜、東京・ヤフー社内にあるコワーキングスペースLODGEで行われ、メタップスのブロックチェーン事業責任者、青木宏文氏(Metaps Crypto Gateway)と、アートの民主化と市場の活性化をブロックチェーンの活用でめざすスタートバーン代表取締役、施井泰平氏が登壇。題名通り、ゲームやアートの分野におけるブロックチェーンの可能性などについて議論を交わした。約80人の来場者からも鋭い質問が投げかけられた。(取材:濱田 優 ZUU online編集長)

ブロックチェーンとインターネットの違い/ファンジブルとはどういうことか

イベントを主催したのはヤフー100%子会社のZコーポレーション。同社はこれまでにもブロックチェーンの可能性や課題について議論しあうイベント「Zblock(ゼットブロック)」を開催している。Zコーポレーションは昨年11月、子会社としてブロックチェーンメディア事業会社であるN.Avenueを設立。同社は3月にCoinDeskの日本語版メディアを開設する。

トークセッションに先立ち、CoinDesk Japan編集部の久保田大海氏が基本的な情報や考え方を整理。セッションで想定される内容を理解するために「ファンジブル」という概念を説明した。ファンジブルとは代替可能という意味で、たとえば金(ゴールド)はファンジブルだがダイヤモンドはノンファンジブルとされる。なぜなら1gの金は別の1gの金と代替できるが、ダイヤモンドはそれぞれにカラットやクラリティ、カットの違いがあり代替できるとは限らないからだ。そのうえでお金(マネー)もファンジブルであると説明された。

さらにブロックチェーンの特徴をインターネットとの比較で分かりやすく解説。いわくインターネットが取り扱うのは複製可能なデータであり、その量は潤沢で「フリーになりたがる」特性を持つ。一方のブロックチェーンは複製不可能なデータであり、希少で「保有に向かう」特性を持っているとした。

メタップスはゲーム「DIG STAR」運営、スタートバーンは絵画管理ブロックチェーン開発

Zblock
(左から)久保田、施井、青木の3氏(写真=ZUU online編集部)

久保田氏のプレゼン後、セッション前に登壇者がそれぞれ事業について説明。メタップスの青木氏は同社のブロックチェーン関連事業の全体像について触れた後、韓国で運営している取引所「UPXIDE」や宇宙旅行をテーマにしたソーシャルネットワークゲーム「DIG STAR」を紹介した。

DIG STARはイーサリアムベースのブロックチェーンを活用しており、鉱物を探索しながら宇宙を飛び回る。クリーチャーと呼ばれるキャラクターは理論上は50万通り存在するという。また同社ではブロックチェーンを活用した デジタルアセット取引プラットフォーム「TEMX」を発表しており、2月にリリースする予定という。

スタートバーンの施井氏はアート業界の現状と課題についてプレゼン。1948年に制作され、150万円の値が付いたジャクソン・ポロックの絵画「Number 17A」が2013年に226億円で売れるなど、70年で1万倍以上になったことを例示。「アート市場は8兆円規模だが1000人くらいしか関わっていない寡占的な市場」としたうえで、その課題は「全体の1%未満しか来歴証明ができない現状」と指摘した。

そこで同社が取り組んでいる「プロブナンス(来歴)の管理」「アートの分割所有、アート投資の民主化」「限定販売やデジタルアートの管理」を紹介した。

同社では作品の流通・管理を2種類のオークションと再分配システムで後押ししている。2種類のオークションとはオリジナルをアーティスト(作者)本人が販売するオークション(プライマリー)と、一度他人の手に渡った作品を再度販売するオークション(セカンダリー)だ。

ポイントとしては、セカンダリーオークションで取引(転売)が行われるたびに、作者は繰り返し分配金を受け取れる仕組みにしたこと。そのかわりにプライマリーでの価格を抑えて流通しやすくする狙いがある。

イーサリアムのスケーラビリティ問題は?

会場からはFacebookメッセンジャーのイベント参加者グループで盛んに質問が投げかけられ、モデレーターの久保田氏が2人にぶつけた。

最初に寄せられたのはイーサリアムのスケーラビリティ問題についての質問だ。これは、イーサリアムベースのブロックチェーンでトランザクションが増えると処理が滞ってしまう問題のこと。イーサリアムのブロックチェーンでは処理の手数料として「ガス」が必要になる。これはマイナーにとってのマイニング手数料にあたるため、ガスが高いほど優先的に処理される。つまりトランザクションが増えればガスを高く設定しなければ、なかなか処理してもらえないということになる。

この点について青木氏は「ゲームプレー中はトランザクションが発生しない。発生するのは売買の時だけなのでゲームプレーには制約がないし、売買時だけなのであまり影響ないと考えている」と回答。施井氏もプロジェクトでも、トランザクションが発生するのは作品登録と転売時のみといい、これも頻度が高くなりすぎるという事態は想定していないようだった。

ゲームが終わったらアセットはどうなるのか?

別の質問で「ゲームのアセット(キャラやアイテムなど)の価値はゲーム自体の人気に依存してしまうのでは。ゲームが終わっても所有しているアセットがアートと同じように価値を上げる可能性はあるのか」というものもあった。

この論点に対し施井氏は「まさにブロックチェーンの今後のキモ」と評価し、2つの見方を提示した。それは、アートは普遍的な価値を問うメディアであるということ、2人欲しい人がいればいくらでも値段が上がるということ――だ。

言い替えれば、ゲーム内のアセットでもアートとして評価されるものはゲームが終わっても価値が認められ続ける(逆に言えば、価値が認められ続けるものこそがアートともいえる)ということだろう。そしてゲーム参加者ほどの数がいなくても、「欲しい」という人が“2人”以上いれば値はつくということだ。

青木氏は「一口にゲームといっても種類が分かれる」としたうえで、クリプトキティーズ(CryptoKitties。ブロックチェーン上で動く分散型アプリケーションDAppsの一種で、ブロックチェーンを活用したゲームのはしり。ブロックチェーン上でネコを集めたり、売買したり交配させたりして楽しめる)のようにゲーム内のアセットが収集品として面白がられているものの存在を指摘。また最近の動きとして、クリプトキティーズの猫を使ってゲームをつくる人を募集しているというキティーバース(KittyVerse)の事例を報告。ゲーム横断のアセットづくりについてはゲームデベロッパーがチャレンジするべきところだとの認識を示した。

また青木氏はゲーム間のアイテム共有について、ゲームデベロッパーでも議論や挑戦が行われているが「パラメータなどを共有しないといけないなど標準化と手順のプロトコル化が必要」などと説明した。

施井氏が「ゲーム横断で使える剣とかが出ると固有性が出てくると思う」といい、スタートバーンCTOの「ブロックチェーンはデジタル世界に実存を与える」という発言を紹介。青木氏も「有名なプレイヤーが使った剣とかいいですね」とこたえ、「ブロックチェーンはデジタルにリアリティを与えると思う」と話していた。

アセットが増えてもトップの価値が下がるわけではない

このほかにも、「バーチャルの世界含め、ゲームやアートがよりリアリティを増すことは望まれていることなのか?」「人々とゲームやアートとの今後の関わり方についての展望は?」という問いが投げかけられた。

施井氏はリアルとバーチャルの境界について、映画「レディ・プレイヤー1」(スティーブン・スピルバーグ監督、2018年公開。VR世界に没入する若者が主人公のSF作品)などを紹介、「より現実に近いほど人間は面白いと感じるのではないか」と指摘した。青木氏は「バーチャル空間では現実世界ではできないことをすべき。かけ離れた体験ができるのがバーチャルの良さ」と回答した。

また別の質問では「ゲームアセットが売買できるとなると、既存の人気ゲームのキャラ(マリオやポケモンなど)が参入すると、そのアセットの価値がかなり上がるのでは。そうなるとなかなか新しいキャラクターなどに価値がつきにくくなり、新陳代謝があまり起こらないのでは」との懸念を表明する参加者もいた。

青木氏は「そうしたキャラがあふれかえるのを防ぐためには数量制限が必要で、誰が制限をするかというとアセットをつくる人たちだと思う」と回答した。また「(アセットの)背景にストーリーがあることが(価値が上がるうえで)大事。類似品がたくさん生まれてもそれには価値がなく、オリジナルにこそ価値が生まれやすくなる」と述べた。

施井氏は「アートの民主化」というと「数が増えたら価値下がるのではないか」という指摘をよく受けると話したうえで、1990年代以降にインターネットが誕生してeコマースが生まれ売買機会が増え、アートスクールが爆発的に増えた時に同じような質問を受けたと述べた。そして、あるギャラリストの「ピラミッドの頂点は変わらない」との発言を引用。つまりアセットの数が増えてピラミッド自体の大きさ、裾野の広さは広がっても、トップの値段(価値)も10~20倍と大きくなる(ため問題ない)ということだ。

施井氏はまた情報に触れることで理解と価値が生まれるとの考え方を披露。「(要は)私たちがモナリザを素晴らしいと思うのは、何度も目に触れる機会があるからかも」とし、「クリケットのやり方が分からない人が(競技の様子を)見ててもつまらない。価値が分からないから。そこで教育により情報が分かるようになれば価値が生まれるのでは」と話した。