(本記事は、倉石灯氏の著書『なぜ、トヨタはテキサスに拠点を移したのか?』日本実業出版社、2018年12月20日刊の中から一部を抜粋・編集しています)

アメリカ初の高速鉄道計画が意味すること

なぜ、トヨタはテキサスに拠点を移したのか?
(画像=tackune / Shutterstock.com)

アメリカのテキサス州で高速鉄道計画が進んでいます。

テキサス新幹線は全米の高速鉄道構想の中でも唯一の民間主導プロジェクトです。

民間の事業開発主体であるテキサス・セントラル・パートナーズ(Texas Central Partners,LLC)が2015年に7500万ドルを調達し、日本の官民ファンド海外交通・都市開発事業支援機構(通称JOIN)が4000万ドルの出資を決定し、国土交通大臣の許可を得ました。

2016年には日本側から技術協力を行うためのコンサルティング会社として、JR東海の子会社ハイスピード・レイルウェイ・コンサルティング・コーポレーション(HTeC)がダラスに設立されました。

テキサス・セントラル・パートナーズと業務提携し、日本の新幹線を作ろうとしているのです。2017年12月、米運輸省から環境評価でゴーサインが出たことを受け、2022年開業に向け本格始動しています。

沿線住民によるレビュー段階へと入り、新幹線の開通で、米国で都市間高速鉄道時代の幕がいよいよ開かれます。ダラス―ヒューストンの二大都市を結ぶことで90分都市圏(巨大商圏)が誕生します。

クルマ社会のアメリカで、はじめて高速鉄道で巨大都市が一つになる。このインパクトにアメリカ社会が気づいたとき、全米各地で近距離都市が結ばれることによる都市圏拡大(=都市圏革命)が起きると私は考えています。

複数の都市が高速鉄道で結合することで巨大都市圏を生み、一つの都市から生まれるGDPが相乗効果でより高いGDPを生む。そんなストーリーです。

新幹線が北アメリカ初の高速鉄道に

2018年1月17日付の日本経済新聞を見てみましょう。

以下、日経新聞より。

「チャオ米運輸長官は16日、ワシントンを訪れた石井啓一国土交通相と会談した。日本側によると、チャオ氏はJR東海が技術支援する南部テキサス州の新幹線計画について高く評価した。安全性などの面で日本の新幹線には米国の関心も高い。石井氏も『日米のインフラ協力の象徴的な計画としてしっかり支援していきたい』と述べた。

テキサス州の新幹線はヒューストンとダラスを結ぶ民間主導の計画。米運輸省が2017年12月に環境評価でゴーサインを出し、計画主体の企業が資金調達を経て19年の着工をめざしている。

一方、国交省は同日、ワシントンでインフラ開発について産官学で話し合う「日米インフラフォーラム」を開いた。石井氏は演説で『インフラの老朽化は日米共通の課題で両国の知見を生かしたい』と強調した。チャオ氏は『日米で対話を続けていきたい』と語った。

トランプ政権は官民で今後10年で1兆ドル(約110兆円)を投じるインフラ計画を掲げている。近く具体策を公表する見通しで、日本企業にも商機が広がるとの期待がある。」

次に、2018年9月4日付の読売新聞によると、こう書かれています。

「米テキサス州の高速鉄道計画(テキサス新幹線)を巡り、JR東海は3日、日立製作所や三菱重工業など計5社で作る日本企業連合で、車両や電力・信号設備といった中核システムの受注を目指すと発表した。

日本連合には日本電気(NEC)と東芝子会社の東芝インフラシステムズも参加し、受注に向けた協議をすでに始めている。JR東海は8月29日付で、走行試験や要員養成などを担う子会社「HInC(エイチインク)」をダラスに設立した。

(中略)

テキサス新幹線はダラス―ヒューストン間(約385キロ・メートル)を東海道新幹線の主力車両の海外仕様『N700系』を走らせ1時間半以内で結ぶ計画。米事業主体は19年着工を目指している。」

トランプ米大統領が公約として打ち出したインフラ投資。

その計画について「実際にはおそらく、1兆7000億ドル程度になるだろう」と語っています。ロイターによると500億ドルは高速列車を含む「変革」プロジェクトなどに拠出されるとのこと。こういった話を聞くと、いよいよテキサス新幹線が実現へと具体性を増してきたと感じるのです。

日本の技術がテキサスと日本をつなぐ

このテキサス州の新幹線はヒューストンとダラスを結ぶ計画です。2022年の開業を目指し、全長約240マイル(約385キロメートル)を、わずか90分で新幹線がつなぐ、夢のプロジェクトが着々と進行しています。

このテキサス州の新幹線は日本の「JR東海」が技術支援します(2016年5月、ダラス市に子会社を設立)。車両については、東海道・山陽新幹線に投入されている「N700系」をベースにした「N700-IBullet」が導入される予定です。

「I」は「インターナショナル」の頭文字です。JR東海が「N700系」をベースに海外展開を行っていく車両の総称でもあるため、同車の新世代車両「N700S」の最新技術が、テキサス新幹線にも搭載されることになるでしょう。

こうした民間の動きに合わせて、2018年5月、大村秀章愛知県知事が米国のテキサス州を訪れました。

JR東海が技術支援する高速鉄道プロジェクトのターミナル予定地を視察し、北米トヨタ本社やダラスの商工会議所を訪問したと地元メディアで報じられました。さらに日本テキサス経済サミットにも出席。基調講演を行い、経済交流を後押ししたとのことです。

大村知事は「愛知県は輸出型の製造業が集積している。今回の渡航により交流のパイプを太くしたい」と話しています。

新幹線は都市と都市をつなぐだけでなく、日本とテキサスをつないでいくことになるのです。

高い「コスト対効果」はテキサスだからこそ可能に

時速330キロメートルの速度で、ダラスとヒューストンを90分で結ぶ同車両は30分間隔で8両編成の列車を走らせます。

経済成長著しいテキサス州ですから、この距離をわずか90分で行き来できるメリットはビジネス的な観点から見ても、とても大きなものとなるでしょう。安全性などの面でも日本の新幹線はアメリカから高い関心を得ており、石井啓一国土交通大臣も「日米のインフラ協力の象徴的な計画としてしっかり支援していきたい」と述べています。

また、シドニー大学社会学教授のサルバトーレ・バボネズ氏は、テキサスの地の利に注目しています。

日本は「東京─新大阪間」(552キロメートル)を最短2時間22分で運行していますが、これでも、日本は山が多いため、カーブやトンネルの影響で減速を強いられています。一方で、テキサス州は広大な大地が広がるため、減速によるロスが少ない利点があります。

アメリカではニューヨーク周辺でのリニア計画も存在しますが、過密した都市部を避けるためにトンネル掘削が必要となるため、コストがかかるのが難点です。こうして考えると、投資対効果もテキサス州が最高に高いといえましょう。

※JR東海では、「N700-IBullet」「SCMAGLEV」と称する高速鉄道システムを海外市場に提案しています。「N700-IBullet」は、N700系車両を中心とする東海道新幹線型のトータルシステムです。また、「SCMAGLEV」は、JR東海が500km/hという高速で営業運転ができる技術にまで完成させた超電導リニアシステムです。

現在、「N700-IBullet」については米国テキサス州ダラス―ヒューストン、「SCMAGLEV」については同国のワシントンD.C.―ニューヨーク間を結ぶ北東回廊を対象路線として積極的にマーケティング活動を進めています。

※出所:JR東海旅客鉄道株式会社

なぜ、トヨタはテキサスに拠点を移したのか?
倉石灯(くらいし・あかり)
ルーク倉石。和魂リアルティ株式会社CEO。防衛大学校管理学部卒業。1984年、渡米。ダラス大経営大学院卒業(MBA取得)。1987年、米国三井不動産販売株式会社入社。同社副社長兼ブローカーオフィサーを務める。1997年、米国最高峰の認定不動産投資顧問資格CCIM取得。同社退職後、日米で十数社の役員を務め、自らが代表取締役を務める会社を株式公開。テキサスで不動産のアセットマネジメント等、商業不動産投資専門家として活躍し、和の心(和魂)を伝える。
中野博(なかの・ひろし)
作家兼実業家。愛知県出身。早稲田大学商学部卒業。デンソー入社後、ジャーナリストとして活躍。1997年にてエコライフ研究所設立。その後、ゴクー、未来生活研究所を設立し、代表取締役に就任。現在も3社の経営に当たる。2011年から「信和義塾大學校」を創設し、アメリカ、カナダ、タイなど世界各地で和魂洋才を教える。テキサスにも5年ほど前から注目して取材を開始、2年前に開校した。

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