(本記事は、倉石灯氏の著書『なぜ、トヨタはテキサスに拠点を移したのか?』日本実業出版社、2018年12月20日刊の中から一部を抜粋・編集しています)

空飛ぶクルマが飛び交う?テキサス・ダラス

なぜ、トヨタはテキサスに拠点を移したのか?
(画像=BalkansCat / Shutterstock.com)

人類の夢の一つともされる「空飛ぶ車」。その夢がダラスで実現しようとしています。

米ウーバーテクノロジーズは、2020年に向けて実用化を目指す「空飛ぶタクシー」の最新コンセプト機「eCRM」を2018年に公開しました。垂直離着陸が可能な小型の飛行体です。

・離着陸時は水平に回転する4組の電動プロペラが駆動
・一定の高度に達すると尾部のプロペラが前方への推力を生み出す
・巡航速度は時速240~320キロメートルを想定
・1回の充電で97キロメートルを飛行できる性能がある

注目すべきは、この「空飛ぶタクシー(車)」について、ウーバーは2020年にダラス近郊などで試験飛行を実施すると発表していることです。そして2023年には「空飛ぶタクシー」を使ったサービスである「ウーバーエア」を米国内で実施する計画を明確にしています。

2020年の試験飛行は、当初の計画ではダラス(フォートワース)とロサンゼルス、ドバイの3ヵ所で試験運転実施を予定していましたが、ドバイとの契約がなくなりましたので、結局、米国内のダラスとロサンゼルスに絞られました。

「空飛ぶタクシー」は発着点であるスカイポート間を飛行します。スカイポートのデザイン案はウーバーのほかダラスの設計事務所などからも発表されていますが、それを見るとまるで宇宙ステーションのようで未来感にあふれています。

こんな建物が空港や街中にできて渋滞なく移動できる日がそう遠くない日に実現する。そんな新しい暮らし方の実験の舞台がここテキサス・ダラスにはあります。

ウーバーとテキサス大学オースティン校とのタッグ

これまでにない新しい技術を実現させるためには、それ相応の“頭脳”が必要です。ここで注目したいのは、ウーバーは空飛ぶタクシーを実現するための研究開発パートナーに「テキサス大学オースティン校」を新たに選出したことです。

地元の大学が同プロジェクトのパートナーに選ばれるということは、高い確率で、ダラスがスタートアップの地となると私はにらんでいます。きっと近い将来、ダラスの空には、世界の最先端の技術としての「空飛ぶ車」が走っている(飛んでいる?)ことを期待してなりません。

一番肝心な、航空管制システムの、ドローンを含めた航空機の急増にどう対応するのかという課題に関しても、関係者によると、ダラスとフォートワースを結ぶ路線については専用空域を設ける構想があると説明していることからも、ダラスでの実現は現実味を帯びてきていると感じます。

※専用空域とは従来の飛行機などは関係ない、「空飛ぶタクシーの専用路」を作ること。ウーバーが交通管制を担う計画だとされる。

都市の成長は交通手段の発達に左右される!

私がなぜ空飛ぶタクシーの話題を取り上げたのか。それはウーバーのような企業が都市の成長性を左右する、そんな時代になると考えているからです。

都市は成長するとともに数々の問題を抱えていきます。

例えば、ヒト・モノの移動時間です。混雑・渋滞によるタイムロスは軽視できません。車社会のアメリカでは、大都市の渋滞は社会問題でもあります。

拡大途上のテキサスのダラスでもこの数年、クルマの渋滞が激しくなってきましたから、いずれ社会問題化していくでしょう。ウーバーのような企業にはこうした課題を解決できる技術があります。

ヒトやモノを効率よく動かしていくことは、都市自体の生産性を高めることにつながります。

例えば東京。東京都の人口は約1300万人、神奈川、埼玉、千葉をふくむ広域の東京圏で考えれば3000万人規模の巨大都市です。その経済規模は米国のシンクタンクによれば(2016年の数値比較)、東京圏1兆5369億ドル(169兆円)、これは同1兆3342億ドルのニューヨークを超える規模です。

多くの上場企業が本社を構え、大消費地となっていることが東京圏のGDPを押し上げている要因ですが、それもヒトとモノの移動を支える交通網があってこその話です。

特にこんな過密都市で正確に運行するJRや私鉄、地下鉄などの鉄道網の存在は大きいです。大量のヒトの移動をこれほどスムーズにこなしている都市は、ほかに見当たりません。

今日ある東京圏の世界的経済規模の実現は、こうした交通網の量と質の充実にあるといえ、それは未来の都市も同じだと思うのです。

都市の成長を支えるイノベーション企業、ウーバー

世界を牽引しているGAFAを分析した本、『the four GAFA 四騎士が創り変えた世界』(スコット・ギャロウェイ著 東洋経済新報社)の中でこんなことが語られています。

「世界のGDPの80パーセントは都市で生まれ、大都市の78パーセントは、成長率でその国全体を上回っている。毎年、大都市に移動するGDPの割合は増加している。その傾向は今後も続くだろう。世界の大規模経済圏上位100都市のうち、36はアメリカの大都市圏だ。2012年には雇用の92パーセント、そしてGDP成長の89パーセントはそれらの都市で生み出されていた。」(同書374ページ)

GDPは都市に集中し、都市の成長とともにGDPも拡大していくのです。そして著者のギャロウェイ氏はこう続けます。

「すべての都市が同等というわけではない。世界的な経済中心地はスーパーシティとなる。」(同書375ページ)

GAFAが世界に与えたイノベーションが世界の都市を新しく生まれ変わらせる可能性があります。その基盤はITであり、ITの人と技術が、そしてIT企業が集結する都市にこそ「スーパーシティ」になる資格が与えられるのだと思います。

ウーバーのような10年前だったら突拍子もない絵に描いた餅のような(実現不可能なという意味ですよ)「空飛ぶタクシー」という発想は、今では実現可能な技術として都市交通を目に見える形で変えていくはずです。

ウーバーのアプリ一つで、空飛ぶタクシーがやってきて、そしてライドシェアで中距離の動線は一つにつながる。それも自動運転などIT技術があってこそ。

ウーバーを受け入れることができる都市こそ未来都市へ羽ばたくことができる。テキサス・ダラスはその最先端にいるのです。

なぜ、トヨタはテキサスに拠点を移したのか?
倉石灯(くらいし・あかり)
ルーク倉石。和魂リアルティ株式会社CEO。防衛大学校管理学部卒業。1984年、渡米。ダラス大経営大学院卒業(MBA取得)。1987年、米国三井不動産販売株式会社入社。同社副社長兼ブローカーオフィサーを務める。1997年、米国最高峰の認定不動産投資顧問資格CCIM取得。同社退職後、日米で十数社の役員を務め、自らが代表取締役を務める会社を株式公開。テキサスで不動産のアセットマネジメント等、商業不動産投資専門家として活躍し、和の心(和魂)を伝える。
中野博(なかの・ひろし)
作家兼実業家。愛知県出身。早稲田大学商学部卒業。デンソー入社後、ジャーナリストとして活躍。1997年にてエコライフ研究所設立。その後、ゴクー、未来生活研究所を設立し、代表取締役に就任。現在も3社の経営に当たる。2011年から「信和義塾大學校」を創設し、アメリカ、カナダ、タイなど世界各地で和魂洋才を教える。テキサスにも5年ほど前から注目して取材を開始、2年前に開校した。

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