(本記事は、倉石灯氏の著書『なぜ、トヨタはテキサスに拠点を移したのか?』日本実業出版社、2018年12月20日刊の中から一部を抜粋・編集しています)
トヨタが選んだ新興都市「プレイノ」
米国トヨタが移転したプレイノという街を見てみましょう。
場所としては、ダラスの北に位置します。
人口28万人ほどの新興住宅地であり、テキサス州では9番目に多い人口です。白人が多く、市内の公立高校は学校評価10段階中「8~9」というハイレベルな学生たちが集結しています。
ダウンタウンまで車で約20分、空港までも30分あれば行けるという立地も素晴らしいです。トヨタが移転した「レガシー・ウエスト」(プレイノ市の北西部)といわれる地域は開発がものすごい勢いで進んでおり、巨大モールなどの商業施設も充実してきています。
プレイノ市のハリー・ラロジリエール市長と2018年9月に面談する機会があり、お話を聞いたところ、次のように教えていただきました。
「プレイノ市は昨年(2017年)、全米で一番安全な都市に選ばれたほど、安全な街であり、さらには、全米で4番目に優秀な学校区があるなどQOL(Quality of Life)の高さ、つまり生活の質の豊かさを感じられることも良いところです。
この理由としては、例えば、パーク・システムがあります。どの家からも歩いて15分以内に行けるところに公園があります。
さらには、ビジネス・フレンドリーとしても評価されています。
ビジネスとはマネーではなく、人間力にあります。プレイノ市には人間力のある、心優しい人が多いのも素敵な点です。あなた方のような素晴らしい日本人も多く、日本の企業はトヨタを含めて46社あります」
プレイノの市長は、とてもフレンドリーな方で、日本や日本人が大好きだと断言され、どんどん日本の人たちや日本企業がプレイノ市に来てほしいといってくれたことが印象的でした。
もう少しプレイノ市について紹介しましょう。
土地も家賃も物価も税金も、なにもかもが高すぎるカリフォルニア州とくらべると、テキサス州は土地も広く、物価も安く、企業や社員の「生活の質」向上もトヨタの移転先がテキサス州になった理由の一つです。
プレイノ市は、トヨタ本社があったロサンゼルス郊外のトーランス市とくらべ、生活費は約31%安く、税率も低い。テキサス州の平均世帯年収は5万ドルですが、プレイノ市では8万ドルほどであり、全体的に住民が裕福な暮らしをしているエリアなのです。まさに、QOLの実現ともいえます。
全米で最も安全な都市に選ばれたプレイノ
市長の話にもあったように、2017年、米国で最も安全な都市ランキングにてトヨタの北米本社移転先であるテキサス州プレイノが1位に選ばれました。
旅行情報サイトのRewardExpert調査レポートによるものですが、同レポートは、FBIの犯罪統計データを元に、各都市の安全性を審査して順位を決めています。
審査基準は犯罪率、死亡率、拳銃などの武器保有率、交通事故発生率、人工的環境破壊、自然災害、経済や金融に関するリスク、健康危険性などの8項目からなります。
レポートには、「国内の最も安全な都市(人口25万人以上)はプレイノ市で、同市には多くの全米規模で展開する企業本部のビジネスハブがある。プレイノは自然災害による若年死亡率や損失の割合が非常に低く、居住者は高い生活資金保障とヘルスケアを享受できる。当地での所得格差は低い」とあり、その安全性は近年特に高いとされます。
そしてテキサス州には、同調査ベスト10ランクインの常連であるオースティン市もあり、高い評価を受けています。
テキサスを一国とみなすと「GDP世界10位」
テキサス州ダラスは西部劇のカウボーイから始まり、カントリーミュージックや歴史的な建造物が数多くあります。ダラスと聞くと、「ダラスの熱い日」という映画を思い出す方もいるかもしれません。第35代アメリカ大統領、ジョン・F・ケネディが暗殺されたのもこのダラスです。
この地は、ダラス・フォートワース都市圏(DFW:ダラスと周辺都市を含むテキサス北部の広域都市圏)として全米4位、テキサス州最大の740万人(2015年推定)の人口を擁します。IT関連企業も多数集結しており、ハイテク産業の地としても有名です(トヨタの北米本社が移転したのは、ダラスの北に位置する都市プレイノ)。
仮にテキサス州を一国とみなした場合、世界における名目GDPランキングは驚くことに、カナダ、韓国、ロシア、オーストラリアを抜いて全世界で10番目という位置づけになります。
アメリカの一つの州のGDPが世界10位に入るのです。全米広しといえども、このような州はカリフォルニアとテキサスしかありません。一つの州でありながら、なぜ、世界10番目のGDPを誇っているのでしょうか。この巨大なGDPの底支えをしている大きな要因の一つは、メキシコ湾岸のシェールガス・シェールオイルをはじめとする活発な資源開発です。
豊富な資源は産業の源であり、ヒト・モノ・カネを生み出す源泉です。テキサス州はこうした資源開発から長期的な経済的メリットを得ているのです。
ビジネスフレンドリー──企業に優しいテキサス
テキサス州は、企業に対しても理想的で優しい環境が整っています。テキサスには「Right-to-work法」という法律があります。これは、労働者に労働組合への加入を強制しないようにするもので、アメリカの企業にとっては非常に助かるものです。
日本人の感覚ではイメージしにくいかもしれませんが、アメリカという国には、人種や人権などを理由にして企業に強気な態度をとる労働組合が存在します。この法律はそういった主張を激減させ、経営を円滑に進められるのです。
また、皆さんご存知だと思いますがアメリカは訴訟大国です。
「コーヒーをこぼしただけで、裁判で3億円もの賠償金判決が下された」と日本でも報道されたことがあります。テキサスは企業活動をするにあたって、こうした訴訟面で他州よりも安心できる要因があります。
それは、テキサスは裁判所判事の多くが、合衆国憲法を公明正大にきちんと遵守しているということです。判事が、感情や人情に影響されて法を解釈しません。
例えば、一般人からなる陪審員たちが原告に同情して、被告企業に対して多額の賠償金を支払うような判決が下されたとします。テキサスでは、そのような判決が2審、3審で覆される確率が非常に高いのです。
一方、カリフォルニアは合衆国憲法の解釈は時代ごとの社会情勢に応じて進化するべきだと考えているリベラルな判事が圧倒的に多いので、被告の企業にとって厳しい判決が下される確率が高いのです。
住宅価格はカリフォルニアの半分
私はテキサス州プレイノとカリフォルニア州ロサンゼルスに住居があるため、テキサスとカリフォルニアの違いがはっきりとわかります。
カリフォルニアの住宅販売価格の中央値は49万9900ドルです。一方、テキサスは26万9900ドルなので、カリフォルニアの半分程度の金額で住宅が購入できます。この価格はあくまでも各州の中央値です。
例えば、カリフォルニアでもシリコンバレーあたりの中央値は127万ドルもします。ちなみに全米の中央値は24万7800ドルなので、テキサスはほぼ全米の中央値並みだといえます。
過去30年間人口が増え続けており、アメリカの都市圏中、第4位(ダラス)と第5位(ヒューストン)の人口を有するテキサスですが、カリフォルニアなど他の州とくらべてもテキサスの不動産価格はまだまだ圧倒的に安いのです。
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