2018年7月に「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」が成立し、同年7月13日に公布されました。民法のうち相続法に関する改正が行われたのですが、その改正の中の一つで遺留分制度に関する見直しが行われました。今回は、この内容がどのようなものなのか、改正後のメリットや問題点などについて解説します。

遺留分とは?制度のおさらい

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(写真=Freedomz/Shutterstock.com)

まずは、遺留分(いりゅうぶん)制度について簡単におさらいをしておきます。例えば、父親が「すべての財産を長男に相続させる」という遺言書を遺して亡くなった場合、遺留分がなければほかの相続人は財産を一切相続できないことになってしまいます。そこで、このような不公平な遺言があった場合にも、相続人となった人には被相続人が遺した財産の一定割合を取得する権利を民法で定めているのです。

この権利の割合を遺留分といいます。遺留分の割合は、法定相続分の2分の1となり、相続人が直系尊属(父母など)のみの場合には法定相続分の3分の1です。また、配偶者・子・直系尊属に遺留分はありますが、兄弟姉妹には遺留分はありません。なお、子の「代襲相続人」には遺留分があります。

例えば、「妻に自宅と現金をあわせて6,000万円、長男に自社株式8,000万円、次男に現金と有価証券1,000万円を相続させる」旨の遺言を夫が遺した場合、財産の総額1億5,000万円の2分の1である7,500万円が遺留分となり、各人の遺留分は、妻がこの2分の1の3,750万円、長男と次男がそれぞれ4分の1の1,875万円となり、次男が遺留分を「侵害」されていることになります。この場合、次男は「遺留分減殺請求権」を行使して、侵害された金額分を請求することが可能です。

現行制度の問題点

ただし、現行ではこの「遺留分減殺請求権」が行使されると、すべての相続財産が相続人全員の「共有財産」となり、これによってさまざまな問題が発生していました。例えば、自社株式が共有状態になることによって、事業承継を円滑に行うことができないケースや、不動産が共有状態になることによって、本来は売却して現金化する予定だった不動産が、反対する相続人がいて売却できなかったケースなどです。

また、遺留分の減殺請求をされた相続人は、請求をした相続人に対して「請求額相当分を金銭で支払うか」「不動産などの現物で渡すか」のどちらかで弁済を行います。しかし、金銭で弁済することができずに、自社株式や事業用不動産の一部で弁済した場合には、自社株式や事業用資産が分散することになり、経営に影響が出てしまうリスクもあるでしょう。

逆もまた然りです。減殺請求をした相続人にとっては、金銭で弁済をして欲しいと思ってもどのように弁済をするかの決定権は弁済する側にあります。そのため、経営に興味がなく現金化もできない自社株式を相続したとしても何のメリットもないことになるのです。

改正後はどうなる?メリットと注意点

そこで、改正後は遺留分を請求する際は「減殺請求」ではなく「侵害額請求」をすることとし、遺留分を「金銭債権化」することで相続財産が共有状態にならないように改められています。これによって、事業承継や相続財産の処分がスムーズとなり、遺言者の遺志を反映した相続がスムーズに行われるケースが現状よりも増えることが想定されるでしょう。

ただし、遺留分侵害額は金銭で弁済することが必要です。そのため、手元に現金がない場合など、すぐに弁済が困難な場合には、「受遺者などの請求により、裁判所が金銭債務の全部または一部の支払について一定の期限を与えることができるようにする」とされています。
また、現行では遺留分の算定にあたっての財産の範囲は、過去に行われたすべての贈与も含まれていました。そのため、例えば長期間にわたって自社株式や事業用資産を後継者に贈与していた場合にも、その額すべてが相続財産として持ち戻しの対象となっていました。このようなケースで遺留分減殺請求が行われると、後継者が相続する事業用財産が減殺されるケースもあり、この場合にも事業承継に影響が出る場合がありました。

そこで、改正後は、遺留分の算定にあたっての贈与財産の範囲を、相続開始前の10年間、さらに「婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与」に限定することとしました。これによって上記のようなリスクも軽減され、事業用資産の分散も回避することができます。現行よりもスムーズな事業承継が行われることが期待できるでしょう。

このように、今回の改正は相続財産の共有状態の回避や、よりスムーズな事業承継が実現できるような内容となっています。また、遺留分を侵害された相続人にとっても金銭での請求ができるようになるという点が大きなメリットです。ただし、遺留分を侵害された相続人にとっては、ほかの相続人よりも受け取る相続財産が少なくなることに変わりはありません。そのため、財産を残す側はこの点も考慮して遺産分割対策を考えておく必要があります。(提供:相続MEMO

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