シンカー:企業の人手不足感は深刻で、積極的な採用活動が続いている。賃金を含めた労働条件が大きく改善してきているため、よりよい条件を求めた労働者の動きが大きくなってきているとみられる。労働者の動きが激しくなれば、職の移行期間などもあり、摩擦的な失業率には上昇圧力がかかることになる。このような動きは、労働市場が悪化しているのではなく、企業の雇用者の獲得競争がかなり激しくなっていることを意味すると考える。これらの労働者が順調に職を得て、就業者は増加に転じ、失業率も緩やかに低下していくだろう。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

1月の失業率は2.5 %と、12月の2.4%から若干上昇した。

8月に2.4%をつけてから、11月には2.5%となり、若干水準が上振れてきている。

企業の人手不足感は深刻で、積極的な採用活動が続いている。

賃金を含めた労働条件が大きく改善してきているため、よりよい条件を求めた労働者の動きが大きくなってきているとみられる。

労働者の動きが激しくなれば、職の移行期間などもあり、摩擦的な失業率には上昇圧力がかかることになる。

新たに求職を始めた労働者も増加したようだ。

1月の有効求人倍率は1.63倍と、12月から変化はなかった。

これまで有効求人数と求職者はともに増加トレンドにあり、そのような労働者の動きが強いことを示している。

2月からはこれらの労働者が順調に職を得て、就業者は12月と1月の前月比-0.3%・-0.5%から増加に転じ、失業率も緩やかに低下していくだろう。

1月は正月休みの曜日並びがかなりよく、一時的に労働市場から退出した労働者も多かったとみられるが、休日の増加は消費支出を支えた可能性がある。

このような動きは、労働市場が悪化しているのではなく、企業の雇用者の獲得競争がかなり激しくなっていることを意味すると考える。

賃金上昇が加速していく以上に、企業行動に変化がみられる。

獲得競争で劣勢なのは中小企業であり、人手不足感が異常に強くなり、ITなどの生産性を上げる投資が拡大する動きにつながるからだ。

日本では、中小企業のIT・ソフトウェア投資が遅れていて、生産性の向上の足かせとなってきたとみらえる。

日銀短観の設備投資計画では、2019年度の中小企業全産業のソフトウェア投資は前年比+12.6%と、2018年度の同+1.9%から拡大が急加速している。

経済ファンダメンタルズの改善と民間投資を喚起する成長戦略が徐々に効果を発揮し、ようやく企業貯蓄率を左右する投資サイクルもようやく天井を打ち破った。

実質設備投資の実質GDP比率は16%を上回り、バブル崩壊後の最高水準までようやく上昇した。

16%の天井をなかなか打ち破れなかったことが、過剰貯蓄として総需要を破壊する力となっているプラスの企業貯蓄率の低下を妨げる要因となっていた。

確かに、これまでのサイクルで考えれば既にピークアウトが懸念される水準になる。

しかし、人手不足が生産性を向上させる投資を生み、しかもAI、IoT、ロボティクスなどdの産業の変化が急激に起こっていることを考えれば、サイクルは新たなレンジに上振れても不思議ではない。

バブル崩壊後の過去のサイクルの天井を打ち破り、更に上昇を続けて新しいレンジに上振れていけば、これまで弱かった企業の成長期待がようやく上昇し、プラスのマクロ的な需給ギャップが拡大し、デフレ完全脱却に向かっていくというシナリオになると考えられる。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司