「将来、女性の母親はこう言うでしょう。『うちの娘と付き合いたいなら、君の信用スコアの点数を見せてごらん』と。」
これは中国の代表的なIT企業アリババグループを率いるジャック・マー会長の言葉だ。
日常生活において、自分自身の社会的な信用を認識させられた瞬間をどれだけ記憶しているだろうか。これまでは、住宅ローンの融資を受ける際に、年収や勤務先、勤続年数で融資の可否が判断されたり、クレジットカードの申し込みで申請が通らなかったりといった場面が一般的だった。しかし中国ではAI技術の発達によって、あらゆる場面、それこそ恋愛の場面ですら「自分の信用力(信用スコア)」を意識しはじめているという。
通販最大手アリババが主導
先日、NHKのクローズアップ現代でも話題になったのが、中国で拡大する「ゴマ信用」と呼ばれるシステムだ。開発を進めたのは、中国ネット通販最大手のアリババグループ。同グループが保有する買い物履歴や金融ローンの返済状況、さらには学歴などの個人情報を含めたゴマ粒のような情報をAIが分析してスコア化する。
これまで、個人の信用度を測るバロメーターとして、例えばクレジットカードのブラックカードが挙げられた。一定以上の収入と社会的地位が認められた人のみが入会審査を通過し、カード保有者となってきたからだ。ブラックカードを保有していれば、それだけで社会的な信用度が示すことができたと言えるだろう。
ゴマ信用は、中国におけるアリババのサービス利用者の約7億人をカバーしている。つまり、ブラックカードのような限られた人の世界ではなく、信用スコアが一般人の間にも広がったといえる。実際に中国では、信用スコアを基準としてビジネスの商談相手を探したり、あるいは結婚相手を探すときの参考にされたりと、社会の中で1つの指標として浸透しはじめている。
中国では習近平国家主席の下、腐敗や汚職防止に注力しているが、裏を返せば、コネがなければビジネスがうまく展開できず、コネのために裏金が動くことも多かったようだ。しかし、AIによる信用スコアが急速に拡大したことで、コネよりもその人自身のスコアに注目し、より公平で透明性の高い社会への転換が期待できるという。
日本でも広がる信用スコア
日本国内でもAIを用いたスコアリングのサービスが広がりを見せている。みずほ銀行とソフトバンク によって設立された「J.Score」は、顧客から提供される情報に基づいて、信用力や将来の可能性をスコア化する日本初のサービスを提供している。アリババのゴマ信用システムが、これまでの商品の購入履歴や借り入れの返済状況などでスコアリングするのに対し、J.Scoreは利用者が150を超える様々な質問に回答し、その回答結果を加味してスコアリングするのが特徴だ。
このAIスコアは様々な場面で活用が期待されており、例えばAIスコアをベースにしたランクに応じて、アライアンス企業から様々なリワード(特典)が受けられる「AIスコア・リワード」を提供している。またAIスコアを基に適切な融資条件を提示する個人向けレンディングサービス「AIスコア・レンディング」も展開している。
スコアに応じて特典を受けることができたり、融資条件が変化したりすると聞くと「日本でも信用スコアが人々の生活を支配するようになるではないか」と感じてしまうかもしれない。その点に関して、J.Scoreの大森社長は「今のところ就職・転職・結婚といった人生に関わるサービスには広げる予定はない。信用スコアがある意味で格付け的に使われてしまう懸念があり、日本において信用スコアが変な方向に進まないよう気をつけている」旨の発言をしている。
信用スコアの功罪は
著書『AIと憲法』(日本経済新聞出版社)などで知られる慶應義塾大学法科大学院の山本龍彦教授は2月23日に開催された「NEXT GENERATION BANK and BEYOND お金が変わると社会が変わる 次世代銀行から見える、次世代社会の設計図」において、スコアそれ自体には基本的に賛成としたうえで、ポジティブな側面として、(1)効率化(それによる余暇の増大)、(2)取引の安全の向上、(3)社会の安全の向上(規範の内面化)――を挙げた。
その一方、ネガティブな側面として、(1)過去の差別の再生産(人種、ジェンダー、特定地域の居住者等へのバイアスなどが入り込む危険)、(2)超監視社会の出現(AI社会とはより多くの情報を必要とする「モアデータ社会」であり、監視社会を加速化させうる)、(3)バーチャル・スラムの誕生(ロースコアの者が社会の下層に固定化される問題)、(4)スコアに遺伝情報などが使われることによる、生まれによる差別の復活などを挙げた。
現時点において信用スコアがもたらす功罪の比較は難しいが、今後もAIが進化を続けるのはほぼ間違いないだろう。望む望まないに関わらず、AIの発展によってスコア社会が訪れるのは時代の要請かもしれない。それであれば、今のうちからスコアアップに取り組むのも良計と言えるだろう。(ZUU online編集部)