シンカー: グローバルに中央銀行の金融政策の引き締めは景気状況と比較し遅れ始めている。政治不安も継続する中で中央銀行は「忍耐強い」姿勢を維持している。表面上はインフレが抑制されているため、中央銀行は辛抱することを美徳と捉えているようだ。中央銀行が辛抱に転じてから、過度の景気悲観論が後退し、株価も昨年の急落前の水準付近まで持ち直してきた。一方、中央銀行の引き締めが遅れれば、マクロ・ロジックとしては物価上昇率が加速すると考えるのが自然だ。実際に、コモディティ価格と長期インフレ期待は上昇してきている。しかし、長期インフレ期待の持ち直しは株価にはまだ遅れているようだ。ある程度の景気拡大と物価上昇の加速が確認できなければ、金融政策の引き締めを加速できないだろう。そう考えれば、長期インフレ期待が昨年の急落前の水準付近まで持ち直すことが必要条件であるように思われる。言い換えれば、そこまでは中央銀行が景気・マーケットに優しい状態となり、適温相場が継続することを助けるだろう。
グローバル・フォーカスの解説
●中国全人代
3月5日から15日まで約2週間全人代が開かれる。今回は、経済成長の安定と構造改革が注目されるだろう。これまでの全人代では、+6.5%程度の経済成長や、2020年までのGDP倍増目標などが掲げられてきたが、今回の全人代では、成長率目標が引き下げられる可能性が高い。また、中央政府はこれまでも経済の安定のために、緩和策を打ち出してきたが、さらに減税が推進される可能性がある。習政権がこの全人代で外交や経済・金融改革についてのリーダーシップを発揮することができるかが注目される。
●全人代とは?
全国人民代表大会(全人代)は中国の一院制議会のことである。全人代は中国の最高権力機関および立法機関であり、代表(議員に相当)は任期5年で毎年1回3月ごろに全人代に召集される。代表は地方で行われる人民代表大会と中国人民解放軍から選出され、その年の政策方針や予算案などを審議・採決する。さらに立法機能のほかに、国家主席を含む中国の行政府指導層の選出や、憲法改正の権限もある。代表のうち、70%程度は共産党員であり、残りは国民党を含む非共産党勢力が占めている。全人代の常設機関として、全人代代表から選出される全国人民代表大会常務委員会があり、全人代の閉会中は全人代の機能を代行する。5年に一回開催される中国共産党全国代表大会は共産党の最高意思決定機関であり、別物である。
グローバル・レポートの要約
●欧州経済(3/1):ECBプレビュー:TLTRO3を準備中
数週間前に発表したユーロ圏GDP成長率の最新弊社予測では(参照)、2019年を従来の1.7%(11月の世界経済見通し:GEOで示した)から1.3%に下方修正した。とはいえこの下方修正の大半は、昨年(特に年後半)みられたモメンタム低下の「持ち越し効果」を考慮した結果だ。この点に関して弊社にはご質問が相次いでおり、「持ち越し効果」のコンセプトを再確認して、2019年ユーロ圏景気見通しを理解する上でそれが重要なことを明確にしようと決めた。
重要ポイントは、2019年通年のGDP成長率は2018年通年を下回るとみられるが、四半期ベースの前期比GDP成長率は昨年より今年の方が力強くなる、と弊社では見込んでいることだ。言い換えると、弊社はニュースフローの改善を見込んでいる。2月PMIが上昇していたことは(2018年8月以降で初めて)は、トレンド上向きを示す最初の兆しかも知れない。
●中国経済(2/27):全人代を前に…緩和色が強まるが行き過ぎは無い
年初の限られた経済指標からではあるが、内需は依然として弱いと示されている。また1月には輸出伸び率が回復したが、外需の純粋な力強さよりも、休日の並びに影響された面の方が強い可能性がある。とはいえ、(経済活動の重要な先行指標の)信用伸び率は2カ月連続で安定しており、今年後半に景気拡大が安定する可能性が高まったと、一時的ではあるが示唆している。
このように強弱入り混じる中、中国の政策当局は3月5日に始まる全人代(全国人民代表大会)を迎える。経済政策の目標は、12月の中央経済工作会議と同じ、つまり経済成長の安定と構造改革の進展になるだろう。だが、それ以降に景気モメンタムがさらに弱まっているため、政策スタンスが緩和方向にシフトすることも考えられる。とはいえその場合も、(シフトは)緩やかで控えめになると弊社は考えている。理由は、①政府が信用の伸び率の回復を、緩和策がいまのところ機能している証拠とみなす可能性がある、②関税戦争のリスクが現在は大幅に低下したとみられる、の2点だ。
●債券市場(3/4):たくさんの辛抱
表面上はインフレが抑制されているため、中央銀行は辛抱することを美徳と捉えている。時が経てばわかるだろうが、これは債務のマネタイゼーションのように聞こえ、映り、そして感じられる。量的金融緩和に乗り出した中央銀行は、それを一時的な手段として利用し、いずれ巻き戻すつもりだった。ところが、我々が目の当たりにしているのは、国家債務の緩やかなマネタイゼーションである。このテーマについて、2019年2月25日号「THE GREAT RETREAT BY CENTRAL BANKS, MARKET CONSEQUENCES」では、より深く掘り下げた分析を提示している。投資戦略に関しては、債券相場に弱気な弊社の長期見通しが実現するまでの間、投資家も辛抱が求められよう。当面は短期の戦術的トレードが最も望ましい。
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司