昨年2018年は様々な異業種企業の証券業参入が話題となった。証券業界はオンライン化以来の進化をまさに遂げようとしている。2019年は、新たな証券会社が多様なライフスタイルにマッチした証券サービスを提供する”証券3.0”の時代に突入する年となるだろう。

異業種から参入した企業・サービスの共通点

SNS,証券3.0
(画像=PIXTA)

LINEや丸井など異業種から参入した企業は、投資未経験である顧客に対し、自社の強みを生かしたサービスを提供してシェアを獲得する戦略を取っていると考えられる。共通点は、プロ投資家が使うような多機能・高スペックなツールではなく、初心者でも理解しやすく投資を始めやすいツールを提供している点だ。

金融庁が公表している「金融商品取引業者登録一覧」によれば、2016年から2018年までの3年間で、 第一種金融商品取引業に登録した会社は25社であった。内訳としては、ベンチャー証券会社や異業種企業の子会社がメーンだ。11年から13年の登録数は13社で、その8割近くが金融業界の子会社や外資系金融機関だった。このことと比べると、証券業界をめぐる環境が変化していることが分かる。

手数料体系や注文執行の種類などといった、既に競争され尽くしたサービスでは既存企業と差別化が図れない。そのため、新興の証券会社達は個人のニーズにフィットするサービスを提供することで差別化を図ろうとしているのだ。

証券3.0の先駆けとして2019年はSNSが台頭する?

SNSが普及して以降、SNSを通じて共通のライフスタイルを持つ、見知らぬ人と容易につながれるようになった。2019年は、このSNSを活用した取引が証券3.0時代の先駆けとして出てくるとみている。

SNSを利用した取引といえば、政府要人のツイートに市場が反応するといった状況を利用する手法が考えられるだろう。SNSを使いこなしていない投資家は、市場に影響を与えうる投稿について、それがニュースとして再構成されるまで市場の変動についていくことができなくなってしまう。

そのため投資家の中には、情報の正確性がある程度信頼でき、発言自体に影響があるユーザーをフォローする人も少なくない。マネックス証券が投資家に提供している日本株取引ツール「トレードステーション」には「SNSビューア」という機能がある。これは有名な金融・投資関連のSNSアカウントの書き込みを自社取引ツールで表示できるものだ。SNSでの発信を見て即座に株取引できるわけだ。

しかしSNSで発信された情報のみを基準に投資判断をするのではなく、取得した情報を多面的に分析するための材料の一つとする手法もある。

例えば、「増収増益」という決算を出した直後に、株価が急落したような銘柄を見たことはないだろうか。経験が浅い投資家は、増収増益なら安心とばかりにその情報だけで投資してしまう人も少なくないだろう。

しかしながら、仮に購入前にその決算に対して「市場の期待にはこたえられなかった」という旨の見解を目していれば、初心者でも慎重な投資判断をしていたかもしれない。

若年層のSNS利用者が投資で強みを発揮

こうしたSNSを活用した取引は、すでに若年層を中心に広がりを見せつつある。新興証券会社のスマートプラス社は自社の取引ツールにSNSを統合したが、同社の年代別口座比率をみると、およそ51%が20〜30代である。

2018年12月18日に日本証券業協会が公表した「インターネット取引に関する調査結果について」における同世代の全世代に対する口座比率は15.9%であった。これを踏まえると、SNSと投資という組み合わせは若年層から特に共感を得られているといえるのではないだろうか。

取引口座を保有し(スマートプラス社の)コミュニティに実際にコメントを投稿したことのある”コミュニティ投資家”比率は9.7%にのぼり、徐々に広がりを見せつつある。

昨今では、投資家自身がSNSを通じて、投資判断の材料になる情報に触れられるようになった。伝達スピードは速くなったかもしれないが、真偽の確認が不十分で誤った情報をつかんだり、独自の解釈で情報を分析して投資判断を誤ったりしてしまう危険性は高い。

このようなリスクに対しては、日頃からSNSの利用を通じて情報感度と情報の取捨選択能力を磨いた若年層のSNS利用者に優位性があるだろう。

「証券3.0」の流れが本格化するにつれて、チャートのパターン分析や板読みといった従来の売買技法以外の知見が活かされる時代が到来する可能性があると考える。

今後は従来の金融取引にはなかった、新しいタイプのスキルを持つ投資初心者が、ベテラン投資家と肩を並べるかもしれない。(古田拓也、Finatextグループ 1級ファイナンシャル・プランニング技能士)