前日については、ECBからの声明が予想以上にハト派よりに傾いていたこともあり、ユーロが急落しました。今回の焦点は、ユーロ圏の経済見通しがどの程度の悪化になるのかという点と、貸出条件付きの流動性供給オペ(TLTRO)第3弾の発表があるのかどうか、そしてその時期が重要でした。
経済見通しについては、2019年のGDP見通しを前年比+1.1%(12月時点では+1.7%)とし、また、2019年コアCPI見通しも前年比+1.4%から+1.2%に下方修正するなど、大幅に下方修正を行いました。フォワードガイダンスについては、前回までは政策金利を少なくとも「夏頃まで(through summer)」維持するとしていましたが、今回は「2019年末まで(through the end of 2019)」据え置くとの姿勢を示し、2019年での利上げは事実上断念したことになります。
そして、注目の貸出条件付きの流動性供給オペ(TLTRO)第3弾については、今回の声明で発表するかどうかが本来の注目点でしたが、蓋を開けてみると「9月から開始」という市場予想を大きく覆すほどに早い段階での着手となりました。これだけ早期に着手するということは、ユーロ圏の景気の悪化を如実に表しているということだと考えられるため、ユーロの上値は当面重いと考えた方がよさそうです。
ドル円については、ユーロ急落の影響でドル買いユーロ売りが入り、一時ドル円は111.854円の前日高値を更新しましたが、その後は、米10年金利は2.69%→2.65%にまで低下し、NYダウについても320ドル超下落するなど、全般的にリスク回避の動きが強まりました。
エマージング通貨に目を向けても、トルコリラについては、米国の反対がありながらもロシアから最新鋭地対空ミサイルシステム「S400」の購入を決定したことによる対米関係悪化が強まったことで、一時トルコ円は20.341円まで下げ足を早め、南アランドについては、ラマポーザ南ア大統領が「中銀の国有化を推進する」と発言したことを受けて、中銀の独立性が脅かされるとの懸念からランド売りが強まり、一時7.674円まで下値を拡大しました。BOC(加中銀)より急遽景気悪化が伝えられた加ドルでは、パターソンBOC副総裁がカナダ経済の先行きについて悲観的な発言を繰り返したため、こちらも大きく下落する動きになりました。
今後の見通し
本日の注目材料としては、米・雇用統計が挙げられます。米・新規失業保険申請件数については、22.3万件の水準まで低下しており、米国の労働市場の強さを示しています。本日の非農業部門雇用者数についても、18.0万人増が市場コンセンサスですが、20.0万人増を挟んだ市場コンセンサスに近い水準の内容になりそうです。雇用統計の結果次第では、下値は111円下抜け、上値は112円上抜けという動きが一時的にあるかもしれませんが、どちらにしてもドル中心の動きにはなっていないため、111円台に回帰する動きを想定しています。
今後、ユーロの動きが軟調になることを想定すると、やはり注目すべきはポンドでしょうか。ここにきて、一部英紙が「英労働党は、ソフトな離脱実現ならば再国民党票を支持しない方針」との見出しを出したことでポンド売りが小休止しています。英紙の早刷については、東京時間でこそあまり影響はないものの、欧州時間に入るとマーケットが反応する傾向があります。米・雇用統計前で本来であれば様子見の動きになりそうですが、あるとすればユーロ売りポンド買いのユーロポンドの下落の動きがあるかもしれません。
やはりECB理事会はユーロ売りイベントだった
決してポンドの地合いが改善したわけではないですが、やはりECB理事会はユーロ売りイベントになりました。今後も、ユーロを買い進める材料が希薄ではありますが、週末の調整懸念もあり、持ち値の0.8590ポンドに逆指値を設定します。0.8590ポンドでのショート、利食いについては変わらず、2017年4月安値の0.83ポンド前半を目指すものの、ポンドのボラティリティが低下するようであれば、0.85ポンド前半での利食いも検討します。
海外時間からの流れ
リスク資産通貨が総じて下落するなど、典型的なリスクオフの動きとなりました。切っ掛けは欧州圏の経済見通しの悪化ですが、どのリスク資産通貨にも買い進めるには難がでてきており、消去法で円が買われる動きが強まりそうです。まだ、本格的なリスク回避の動きには至っていませんが、米中首脳会談での通商合意がこじれるようだと、一気にリスクオフの動きへ傾斜する可能性が高そうです。
今日の予定
本日は、米・雇用統計、加・雇用統計などの経済指標が予定されています。要人発言としては、ノボトニー・オーストリア中銀総裁の講演が注目されそうです。
(提供:FXプライムbyGMO)
FXプライムbyGMO情報分析チーム
為替のみならず、株式、商品相場の経験者が多角的な目線でマーケットを分析します。執筆者は営業推進部マーケッツグループ長、稲井有紀、グループ長代行、崔 敏樹。