2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催は、日本が「すべての人にとってやさしい環境にある国」であるかどうかを問われる機会でもあります。世界中からさまざまな言語を話す人、文化的・社会的背景を持った人、体に障がいを持った人が集まるこの期間は、島国で単一民族の日本にとってはまたとない、世界の多様性に直面することでもあるのです。

2020年を目前に控え、急ピッチで準備が進められる中で、今後どのようなイノベーションが起こり得るのかにも注目が集まります。今回は、わたしたちが目指すべき社会構造をふまえながら、「すべての人にとってやさしい環境である国」の未来像を描きます。

インクルーシブ・ソサイエティの構築

福祉,インクルーシブデザイン
(写真=J.Score Style編集部)

高齢者や障がい者を含むすべての人々が共に安心して安全な環境で暮らせるような社会のありかた(社会的包摂)を表すソーシャル・インクルージョン(Social Inclusion)が意識されています。これは、差別や日常生活上の壁がない社会構築のためのキーワードとして、世界中で頻繁に使用されています。

目指すべきインクルーシブ(包括的な)社会の構築に向けて、近年進化し続けるICT(情報通信技術)を積極的に活用していく「スマート・インクルージョン」という考えをもとに、日本でも2018年に総務省よりその構想が発表されています。

国が描くビジョンは2030年を目標としているものの、2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催に向けて、ICTを活用したさまざまなイノベーション(技術革新)が生まれ、よりよい社会を導く原動力になる可能性があります。

日本で生まれたインクルーシブデザインの可能性

具体的に日本では福祉分野でどのようなイノベーションが起きているのでしょうか。1964年に日本で東京オリンピックが行われたときに、ピクトグラム(非常口などに使用されているデザインマーク)が世界中から注目を集めました。今や、ピクトグラムをみれば、それが何の場所・目的を表すのか世界中の人が認識できるデザインだといえます。

さらに50年の時を経て、2020年の東京オリンピック・パラリンピックを前に新しい点字が登場しています。それは、2018年3月に発表された点字と目に見える文字を重ね合わせた新しい書体Braille Neue(ブレイル・ノイエ)です。グラフィックデザイナーの高橋鴻介さんが、目の見える人も見えない人も同じ場所で同じ情報を共有できるようにという想いから開発したものです。

日本では公共施設を中心に点字は広まっていますが、ブレイル・ノイエは「盲目の人に困らないように配慮した表示」という対処療法的な考えからさらに先を行く「盲目の人と共生していく社会」というはっきりとしたビジョンがあります。これが世界共通のフォントとして広がると、すべての文字が目に見える人にも見えない人にも共有することができるようになると考え、改良を続けているといいます。

ブレイル・ノイエが発表された時、これで点字が分かるようになるといった書き込みをはじめ、SNS上でさまざまな反響が起こったこともあり、これから見る機会が増えるはずです。半世紀前のピクトグラムと同じようにブレイル・ノイエが世界中で実用的に使われる可能性が秘められています。

このようにこのインクルーシブなアイデアがテクノロジーと混ざり合うことで、さらに「すべての人にとってやさしい」社会へのイノベーションが起こるのです。

体の一部分を使用するだけで「ALL is accessible for ALL」な社会

近年、国連による社会問題解決への取り組みの中で、ブロックチェーン(分散型ネットワーク)の存在が目立っています。その中でもデジタルIDには、日本がすべての人にとって優しいインクルーシブな社会となるためのイノベーションの原石がたくさん見られます。世界食糧計画(WFP)が2018年にヨルダンのシリア難民キャンプにおいて、虹彩認証とブロックチェーンを組み合わせた食糧支援サービスを開始し、難民たちはキャッシュレスで買い物ができるようになりました。

また、国連開発計画(UNDP)へデジタルIDを使用した送金サービスを提供している、ダブリン発のスタートアップ、AID:techは、ブロックチェーンを活用したデジタルIDにより、通院履歴や補助金の支給資格などの情報を、医療機関や自治体と共有できるサービスも提供しています。

このように、体の一部分を使うことで、さまざまな個人情報にアクセスできる仕組みは、すべての人があらゆるものにアクセスできる社会を構築していくでしょう。そんなアクセシブルな社会にむけ、今後どのような変化が起こっていくのでしょうか。

交通の利便性の向上

虹彩などの生体認証によるキャッシュレスサービスが交通機関で導入された場合、改札で読み取り機に体の一部を触れる・かざすだけで利用できるようになります。これまで駅で路線図と券売機に悩まされていた外国人や障がい者も容易にアクセスできるようになるだけでなく、都心部における駅の混雑解消にも高い効果をあげることとなるでしょう。

アプリやデバイスを通して危険を回避

身体に障がいがある人はもちろん、言葉がわからない外国人や、一時的ではあれ、けがをしている人、妊婦など、行動が制限されてしまう人は、常に危険と隣り合わせで生活しています。

障がいのある人は自動車に使用されている危険察知センサーやGPSを活用したデバイスによって、障害物や電車、車の接近を知ることができるようになるでしょうし、デジタルIDに登録された情報と連動し、危険を察知したら振動する杖のようなものが生まれれば、高齢者や盲目の人が駅のホームから転落するといった事故も減らせるかもしれません。

そのような危険回避のデータを特定の企業などに提供することで、より安全性の高いサービスやデザインの誕生にもつながります。

五感をフル活用したアイデアがインクルーシブな社会を作り上げる

スティーブ・ジョブズは、すべてのひとが同じように使え楽しめるものは、人の本能的な部分に直接訴えかけるものであるということを熟知していました。国を超え、文化を超え、人々の生活に大きな影響を与えるイノベーションは、脳の認知機能をダイレクトに刺激するようなものなのではないでしょうか。この先、五感をフル活用して生まれたアイデアが、進化し続けるテクノロジーにより補完され、この多様で複雑な世界において、誰もが心地よく暮らせる社会が作られていくことに期待していきましょう。(提供:J.Score Style

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