タイの大手銀行サイアム商業銀行(SCB)では、2018年から1,161店だった支店数を400店に、約2万7,000人の行員を1万5,000人に削減する計画を策定しました。同時にコスト削減が見込まれるなかで振込手数料を無料化しており、他の銀行も追随しています。2018年、タイでは「キャッシュレス社会元年」を迎えています。

銀行口座保有率が高く、現金志向が高いタイ

デジタル大国,タイ,フィンテック
(写真=J.Score Style編集部)

「環太平洋ビジネス情報」によるとタイの銀行口座保有率は、シンガポール、タイ、マレーシアに続いて78.1%となっています。しかし、企業間取引で代金を支払う場合にもメッセンジャーが小切手や現金を届けるのが主流となっているのが実情です。また、消費者が最も頻繁に使う支払い手段は約70%が現金という状況です。

そのような中、キャッシュレス社会の実現を目指して、ここ数年タイ政府が取り組んでいるのが「ナショナルeペイメント」です。現金受け渡しの商習慣が根強く残るなかで、企業・銀行間の電子マネー決済の普及を官民一体で進めた結果、2014年から2016年までに23%増加しました。

これまでタイはフィンテックという文脈で取り上げられることがあまりありませんでしたが、バンコクでは日本の「Suica」のような公共交通機関での電子マネーがなくてはならないものとなっています。また、マクドナルドではタッチパネルで注文した商品をクレジットカード決済する店舗も出てくるなど、日本よりも進んでいる一面もあります。

政府の強いリーダーシップで推進されるタイのフィンテック事情

タイのキャッシュレス決済の核となるモバイル決済では、「トゥルーマネー」が広く普及しています。トゥルーマネーはEC 決済に強い通信キャリア系CP グループの電子マネーで、中国アリババグループの親会社アント・フィナンシャルが出資しています。

CPグループ傘下にはコンビニエンスストア大手のCP オールがあり、トゥルーマネーだけでなく、中国からの観光客をターゲットとして、中国のモバイル決済サービスでは2強となっている「Alipay(アリペイ)」「WeChatPay(ウィーチャットペイ)」も使えるようになっています。

さらに2017年には、タイ政府と銀行協会が手動してモバイル送金・決済サービス「Prompt Pay」を開始。個人のIDと銀行口座を連携し、個人間送金であれば携帯電話の番号や国民番号を使えますし、銀行口座を開示する必要がないのがポイントです。

なお、5,000タイバーツ(約16,500円)までは送金手数料が無料ですから、手軽に使うことができるのが特徴です。開始当初は消費者間の送金サービスから始まりましたが、ビジネス決済・送金へ広がり、クレジットカード会社まで巻き込んだ統一QRコードを実現し、店舗やECでの決済まで範囲を拡大しました。

導入1年で登録者は4,000万人を超えています。1人で複数登録する人もいるものの、人口の半分以上が登録している計算になります。タイに遅れること数ヵ月でシンガポールが始めた「PayNow(ペイナウ)」との相互接続に取り組んでいます。

PayPalのタイ版「Omise Payment」も注目のフィンテックサービスです。Omise社は日本人実業家・長谷川潤氏がCEOを務める企業で、2,000社にクレジット決済サービスを提供しています。PayPalがタイの金融機関との提携が遅れる中でシェアを伸ばしており、今後は東南アジアを中心に事業拡大を見込んでいます。

日本を上回るSNS嗜好性にも注目

「環日本海経済ジャーナル」によると、タイのインターネットの普及率は40%程度にです。日本が90%を超えている現状を踏まえると未だ途上だとも言えます。それにもかかわらず、LINE利用率やFacebook利用率は日本を上回っており、SNSをプラットフォームとしたフィンテックサービスが今後盛んになる可能性が高まるでしょう。

LINEでは、バンコクの公共交通機関でBTSスカイトレインの電子決済サービスを提供しているRabbit社と資本提携し、LINEの決済機能「LINE Pay」の普及に取り組んでいます。Rabbit社はマクドナルドやタイの大手スーパーを展開するテスコ・ロータスグループとも提携関係にありますから、タイを訪れる日本人にとっても決済の利便性が向上するでしょう。

タイのインターネット普及率から考えると、今後はさらにフィンテックサービスの可能性が広がります。タイがデジタル大国を目指してどのように進化を遂げるのか、注目です。(提供:J.Score Style

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