要旨

韓国,貧富の格差
(画像=PIXTA)
  • 韓国の5大財閥グループが保有している土地の帳簿価格は2007年の23.9兆ウォンから2017年には67.5兆ウォンに43.6兆ウォンも増加している。
  • 5大グループが保有している土地資産の帳簿価格は10年間に2.8倍も上昇し、同期間における売上高の増加倍数2.1倍を上回っている。物価上昇等を反映した公示地価と実際の取引価格が帳簿価格を大きく上回っていることを考慮すると、土地の取得により企業が得られる利益はさらに大きいと考えられる。
  • 一方、2月21日に統計庁が発表した「2018年第4四半期家計動向調査」によると、所得下位20%世帯(全世帯を所得金額により5等分した際に所得が最も低い第1階級世帯)の1か月名目所得は123万8200ウォンで1年前と比べて17.7%も減少したことが明らかになった。
  • 所得下位20%世帯の所得が減少したことに比べて、所得上位 20%世帯の所得は増加したことにより、所得上位 20%世帯の所得が所得最下位20%よりどのぐらい高いかを示す所得5分位倍率(均等化処分可能所得)は5.47倍に拡大した。
  • 持てる者と持たざる者の間に広がる格差をどのように縮めるか、韓国政府は所得主導成長政策の修正等慎重な対策を講じる必要があるだろう。

5大財閥グループの土地資産は急増

韓国の経済正義実践市民連合(以下、経実連)は、2月26日に行われた記者会見で、サムスン、現代自動車、SK、LG、ロッテという、いわゆる5大財閥グループ(以下、5大グループ)が保有している土地の帳簿価格を発表した。経実連がこの日発表した帳簿価格は、金融監督院の「電子公示システム」が公示した「年度別事業報告書」と「監査報告書」、そして公正取引委員会の「公示対象企業集団」の発表資料に基づいて分析されたものである(1)。

記者会見で発表された調査結果によると、5大グループが保有している土地の帳簿価格は2007年の23.9兆ウォンから2017年には67.5兆ウォンに43.6兆ウォンも増加していることが明らかになった。10年間の増加額を財閥グループ別に見ると、現在自動車が19.4兆ウォンで最も多く、次いでサムスン(8.4兆ウォン)、SK(7.1兆ウォン)、LG(4.8兆ウォン)、ロッテ(4.0兆ウォン)の順であった。

経実連は、「5大グループが不動産投機による不労所得を狙って業務及び事業向けの土地ではない、非業務用土地を保有しているにも関わらず、韓国政府がこれを放置した結果、不動産バブルが大きくなりマンションの価格と賃料の上昇につながっている。過去90年代の元盧泰愚大統領(2)、元金泳三大統領(3)時代には非業務用の不動産に対して高い税率を適用する措置と、非業無用土地などの不動産を強制的に売却させる措置等を行うことにより財閥を中心とした企業の不動産投機を防いだものの、2000年と2007年に不動産関連規制を緩和したことにより、過去の規制は効力を失うことになった」ためであると説明した。また、「韓国社会の不平等や格差を減らすためには、公共財である土地を利潤追求の手段として利用する行為を防ぎ、不労所得を返還させる制度が必要である」と主張した。

韓国,貧富の格差
(画像=ニッセイ基礎研究所)

5大グループが保有している土地資産の帳簿価格は10年間に2.8倍も上昇し、同期間における売上高の増加倍数2.1倍を上回っている。物価上昇等を反映した公示地価と実際の取引価格が帳簿価格を大きく上回っていることを考慮すると、土地の取得により企業が得られる利益はさらに大きいと考えられる。

経実連は、「財閥企業の土地取得とそれによる不労所得の発生を最大限抑制するためには、会計基準を変更し、すべての外部監査法の対象企業に適用する必要がある」と主張した。また、優先的に「公示対象企業集団(2018年現在、資産総額が5兆ウォン以上である60大企業(所属会社2,083社))が保有している不動産(土地と建物)の住所、面積、帳簿価額、公示地価などを義務的に公示させ、株主や投資家の国民が財閥企業の土地と不動産の保有実態を把握できるシステムを構築しなければならない」と提案した。

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(1)本稿は、金 明中(2019)「曲がり角の韓国経済(41)5大財閥グループの土地資産が急増」東洋経済日報 2019年3月1日3面を加筆・修正したものである。
(2)大統領任期: 1988年2月25日 - 1993年2月25日
(3)大統領任期: 1993年2月25日 - 1998年2月25日

所得下位20%世帯の所得は大きく減少

一方、2月21日に統計庁が発表した「2018年第4四半期家計動向調査」によると、所得下位20%世帯(全世帯を所得金額により5等分した際に所得が最も低い第1階級世帯)の1か月名目所得は123万8200ウォンで1年前と比べて17.7%も減少したことが明らかになった。所得下位20%世帯の所得が大きく減少したのは勤労所得と事業所得が減少したのが最も大きな理由である。実際に、所得下位20%世帯の勤労所得は1年前に比べて36.8%、そして事業所得は8.6%も減少しており、世帯の就業者数も1年前の0.81人から0.64人に21%も減った。所得下位20%世帯のうち、世帯主が無職である世帯は前年同期の43.6%より12.1ポイントも高い55.7%まで上昇している。2019年1月の失業率は4.5%で前年同月の3.7%を大きく上回っている(図表2)。

韓国,貧富の格差
(画像=ニッセイ基礎研究所)

所得下位20%世帯とは対照的に、所得上位 20%世帯(全世帯を所得金額により5等分した際に所得が最も高い第5階級世帯)の所得は、 932万4300ウォンで1年前に比べて10.4%も増加した。また、所得上位 20%世帯の就業者数は2017年の2.02人から 2.07人に増加した。これは所得下位20%世帯の就業者数0.64人を3倍も上回る数値である。

このように所得下位20%世帯の所得が減少したことに比べて、所得上位 20%世帯の所得は増加したことにより、所得上位 20%世帯の所得が所得最下位20%よりどのぐらい高いかを示す所得5分位倍率(均等化処分可能所得)は5.47倍に拡大した。2003年に関連統計が作成された以降、第4四半期基準では最大値だそうだ。

結びに代えて

文在寅政府は最低賃金を引き上げると、所得が増えることにより消費が増加し、経済が活性化するという所得主導成長政策を継続的に推進してきたものの、最近の調査結果はその効果を表していない。最低賃金が2年間で29.1%(図表3)も引き上げられたことにより、非熟練労働者が多い卸・小売業、飲食業、宿泊業の雇用量が減っている。さらに、最低賃金の大幅引き上げが影響なのか、最低賃金の未満率(最低賃金未満の時給で働いている労働者の割合)も毎年上昇傾向にある。

持てる者と持たざる者の間に広がる格差をどのように縮めるか、韓国政府は所得主導成長政策の修正等慎重な対策を講じる必要があるだろう。

韓国,貧富の格差
(画像=ニッセイ基礎研究所)

金 明中(きむ みょんじゅん)
ニッセイ基礎研究所 生活研究部 准主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

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