はじめに

日本の医療
(画像=PIXTA)

2018年5月、世界の五大医学誌の1つランセット(Lancet)に「ヘルスケア・アクセス・アンド・クオリティー・インデックス(HAQインデックス)」の世界195か国ランキング(2016年版)が掲載されました。このインデックスは、「適切な医療を受ければ予防や効果的な治療が可能」と考えられる死因を32種類(1)リストアップし、それぞれについて「防ぎ得る死をどれぐらいちゃんと防げているか?」を調べ、総合的に評価、指数化したものです。マイクロソフト会長のビル・ゲイツ夫妻が創設者で、著名な投資家バフェット氏も運営に関わっている世界最大の慈善基金団体「ビル&メリンダ・ゲイツ財団」がスポンサーになっていることでも知られています。

図表1は、その上位30ヵ国を一覧にしたものです。

日本の医療
(画像=ニッセイ基礎研究所)

第1位アイスランド、第2位ノルウェー、第3位オランダと、ヨーロッパの中規模国が上位に名を連ねています。G7の7ヵ国に着目してみると、イタリアが第9位でG7中の最高位にランクされ、次いで、日本がG7中の第2位(全体順位第12位)に位置づけられています。その他のG7国は、カナダ(第14位)、ドイツ(第18位)、フランス(第20位)、英国(第23位)、米国(第29位)の順になっています。

G7各国については総じて、世界の主要国を名のるには少し寂しい順位のような気もします。しかし、「当たり前の医療が当たり前に受けられるかどうか」に絞った調査結果ということなので、人口が少なくてきめ細かく国民の医療ケアができる国が上位にくるということも納得できない訳ではありません。そこで以下では、日本と、人口、経済の規模と発展段階、社会状況等の面で近しい状況にある、英国、ドイツ、フランス、米国を取り上げて、さまざまな医療に関する計数の状況を見、日本の医療制度が世界の中でどのようなポジションにつけているのか、見ていきたいと思います。

使用するデータは、OECD(経済協力開発機構)が公表している「Health Statistics 2018」(2)と「Health at a Glance2017」(3)です。基本的には「Health Statistics 2018」からとれる2016年のデータを使いますが、データが「Health at a Glance2017」からしかとれない場合には2015年の数値を使います。

またOECDは、ホームページ上に、OECD平均値や最優良国の数値等と各国の医療パフォーマンス数値を比較できるページも設けています。その中には、日本を対象とする、「Health at a Glance2017:OECD Indicators How does Japan compare?日本の医療制度パフォーマンスの概観」(4)も掲載されています。以下、日本に関する記述部分には「日本の医療制度パフォーマンスの概観」中の評価コメントも活用させていただきます。

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(1)感染症(結核・はしか等)、がん(大腸がん・子宮頸がん等)、循環器疾患(心臓病や脳卒中等)など、適切な医療を受ければ予防や効果的な治療が可能と考えられる死因。
(2)OECD「Health Statistics 2018」 http://www.oecd.org/els/health-systems/health-data.htm
(3)OECD「Health at a Glance2017」https://www.health.gov.il/publicationsfiles/healthataglance2017.pdf
(4)https://www.oecd.org/japan/Health-at-a-Glance-2017-Key-Findings-JAPAN-in%20Japanese.pdf

国民の健康状態

わが国の平均余命が世界最高水準であることはよく知られています。

「日本の医療制度パフォーマンスの概観」は、「日本の出生時平均余命はOECD加盟国の中で最も長く、医療アウトカムの向上が進展し続けている。健康的な生活スタイル、医療アクセスの良さ、概して質の高い医療が、こうした良好な医療アウトカムを生み出しており、これらは全て、医療費支出がOECD平均水準を大きく上回ることなく達成された。」と、日本の医療制度の全体的な成功が平均余命の高さにつながったとの総括的な認識を示しています。

「虚血性心疾患による死亡数(10万人あたり)」を見ても日本は他国に比べて良好な数値となっています。

しかし認知症罹患率は他国よりかなり高いです。OECDは、「日本の医療制度パフォーマンスの概観」の中で、「平均余命の伸びは、人口の高齢化と新たな課題をもたらしている。例えば、日本の認知症有病率はOECD加盟国で最も高く、2017年は人口比2.3%であったが、2037年には3.8%に上昇すると推定されている。」と問題指摘しています。

日本の医療
(画像=ニッセイ基礎研究所)

健康に関するリスク要素の状況

日本の肥満率はOECD加盟国の中で最低レベルです。アルコール消費量もOECD平均を下回っています。しかし喫煙率はOECD平均を若干上回っています。また、大気汚染(pm2.5)はOECD平均よりも低いですが、本レポートの比較対象5ヵ国の中では中位に位置します。

日本の医療
(画像=ニッセイ基礎研究所)

医療へのアクセスの状況

医療保障の人口カバー率は100%で英国(100%)、ドイツ(100%)、フランス(99.9%)とともに 皆保険状態にあります。

自己負担医療費の最終世帯消費に対する割合もOECD平均を下回っていますが、本レポートでの比較対象5ヵ国の中では最も高い比率となっています。分母となる最終世帯消費の額に各国間での相違があるとも考えられますが。

人口一人当たり外来診察回数はOECD加盟国の間では、韓国(16.0回)についで2番目に多い国となっています。

入院日数も他国に比べ長いことが目立っています。この点、OECDの「日本の医療制度パフォーマンスの概観」は、「入院日数の短縮に大きな進展は見られているものの、依然として日本は入院日数がOECD加盟国で最長の国の一つである。 この理由の一部には、在宅で治療できるはずの患者が、医療ニーズではなく社会的ニーズのために病院に入ってしまうということがある。他のOECD加盟国に比べ、多くの長期ケアが依然として病院で行われている(病院での医療費支出における割合はOECD平均4%に対して日本は11%)。」との指摘を行っています。

日本の医療
(画像=ニッセイ基礎研究所)

提供される医療の質の状況

「大腸がん患者の術後5年生存率」、「乳がん患者の術後5年生存率とも」ともに、比較対象5ヵ国の中でもトップないし第2位の地位にあり、「喘息及び慢性閉塞性肺疾患(COPD)による入院率」も比較対象5ヵ国の中では極めて良好です。わが国の医療の質は高いと考えられます。

ただし、「急性心筋梗塞に基づく入院後の30日間の死亡率」だけは他国に加えて高く、OECDは「日本の医療制度パフォーマンスの概観」の中で、「喘息及び慢性閉塞性肺疾患(COPD)による入院率の低さが示すように、プライマリケアの質は概して高く、がん生存率も高い。他国に比べて心臓病の罹患率は低いものの、急性心筋梗塞(心臓発作)発症後の致死率の低下のためには更なる努力が可能だろう。 」との指摘を行っています。

日本の医療
(画像=ニッセイ基礎研究所)

医療に活用される資源の状況

●医療費の状況

日本の人口1人当たりの平均医療費は4、717ドル(各国の物価水準調整後)で、OECD平均3,992ドルを若干上回ります。ただし、本レポートの比較対象国と比べたところでは、米国の10,209ドル、ドイツの5,728ドル、フランスの4,902ドルよりも低い水準で、英国の4,246ドルを上回っているのみです。

医療費の近年の伸びは激しく、OECDは「日本の医療制度パフォーマンスの概観」の中で、「医療費支出(人口1人あたり)の年平均増加率伸びは近年、他国よりも比較的急である。経済成長が控えめなこともあり、医療費のGDP比は現在10.9%で、OECD加盟国中6位となっている。」と警鐘を鳴らしています。

日本の医療
(画像=ニッセイ基礎研究所)

●医師数、看護師数、病床数、検査機器数の状況

日本の人口当たりの臨床医数はOECD平均より少なく、本レポートの比較対象5ヵ国の中でも最低となっています。医師のうちの女性医師の比率も際だって低いです。

一方、人口当たりの看護師数では、OECD平均を上回り、本レポートの比較対象5ヵ国の中でも中位に位置します。

また病床数、検査機器(CTスキャナー、MRI)の数が、OECD平均、本レポートの比較対象国を大きく上回っていることは日本の医療現場の特徴です。これにつきOECDは「日本の医療制度パフォーマンスの概観」の中で、「日本の患者一人当たり病床数は多く、長期ケアが必要な高齢者による利用が多い傾向にある。」、「医療への需要が高まり、新たな技術が導入される中で、医療費の増加圧力は今後さらに強くなるだろう。日本の医療における設備投資の割合は、すでに対GDP比で1.1%と最大レベルで、OECD平均0.5%の2倍以上である。このような医療への多くの投資は、高まる需要に対応する努力を反映してはいるが、これらの投資が、サービスの対応能力を広げるだけでなく、生産性を高めるようにする視点も必要である。例えば、患者一人当たりのMRIやCTスキャンの機器数は非常に多く、使用回数も多くなっているが、機器単位あたりの利用率は低く、高額な機器の使用効率が低い結果となっている。」と記述しています。

日本の医療
(画像=ニッセイ基礎研究所)

さいごに

各国の医療の仕組みには、それぞれの歴史、制度設計の考え方等があり、それらを背景として、各国の医療パフォーマンスがありますから、各国の医療を数値だけで比較するのは難しいことです。

ただし以上見てきたことからは、日本の医療が基本的には良好なパフォーマンスで提供されていることはわかります。計数的な面からも、私達は恵まれていると言えるのではないかと思います。

しかし医療費の伸びが急であるように、少子高齢化が進行するわが国では、一定の痛みを伴う改革を行わないと、現在の良好な状況を維持できないことも明らかになっています。利用者、サービス提供者、国や県、それぞれのバランスをとりながら最適な対応策を見つけることが必要になっています。

松岡博司(まつおか ひろし)
ニッセイ基礎研究所 保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

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