シンカー:昨年の原油価格の上昇の反動や特殊要因があるため、コア消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年同月比は伸び悩んでいるが、物価上昇圧力が弱くなっていると誤解してしまってはいけないだろう。家計の名目所得が拡大している中、実質所得の増加があり、他の需要が増加し、一般物価の基調への影響はそれほど大きくはならない可能性もある。そして、マクロの需要超過の形が継続しているのであれば、値下げによる販売促進も限界となり、特殊要因の影響が剥げ落ちた翌年に、前年比の物価上昇率は大きく跳ね上がることになろう。更に、企業の利益率がコストの増加などで伸び悩む中で、価格を引き上げて販売数量に下押し圧力がかかても、弾力性を考慮しながら、値上げで利益を確保する動きも加速するだろう。2019年の物価上昇率がテクニカルな理由で弱ければ弱いほど、2020年は逆に強くなり、1%を上回る水準に物価上昇率が加速する可能性は十分にあると考える。
2月のコア消費者物価指数(除く生鮮食品)は前年同月比+0.7%と、1月の同+0.8%から上昇幅が縮小した。
2月のコアコア消費者物価指数(除くエネルギーと生鮮食品)は前年同月比+0.4%と、1月から変化はなかった。
ただ、季節調整済前月比ではコア消費者物価指数は、1月の+0.2%に続き、2月も+0.1%と上昇を続けている。
コアコア消費者物価指数も、1月の+0.2%に続き、2月も+0.1%と上昇を続けている。
12月までは年末商戦に向けて、耐久消費財や被服で販売を促進する値下げが行われたとみられる。
一転して、1月からは価格を引き上げる動きが増えているようだ。
良好な雇用・所得環境と冬のボーナスの増加を背景に、企業の価格戦略は功を奏し、消費活動は堅調である。
在庫も払底し、企業は新商品の在庫積み上げの局面に入っているようだ。
一方、需給ギャップが需要超過で推移してきていることと、人手不足による賃金上昇により、コストの上昇が顕著になってきている。
10-12月期の法人企業統計では、売上高は前期比+0.7%と増加しているが、経常利益は前期比-5.1%と減少してしまっている。
売上高経常利益率は5.2%となり、昨年の5.8%から低下している。
アベノミクスが円安や短期的な需要対策だけではなく、日本経済の内需を含めた本格的な景気拡大に寄与してきたののは、非製造業を含めて企業の売上高経常利益率がしっかり上昇し、これまでの最高水準になっていることで説明できる。
ただ、規制改革や自律的な産業構造の変化などによる利益率の改善は、デフレ完全脱却にとって痛し痒しの面がある。
利益率が上昇しなければ、日本経済の状態が好転したとはいえないが、上昇し続ければ、物価上昇圧力は強くならない。
需要の拡大に対して供給余力の拡大を意味するため、物価上昇圧力を抑制する効果があるからだ。
しかし、需給ギャップが需要超過で推移してきていることを背景に、売上高経常利益率が伸び悩み始めてことは、企業の選択として、売上高を更に増加させるか、価格を引き上げる必要があることを意味する。
設備投資と研究・開発費を増加し、新商品・サービスを生み出す動きは加速するだろう。
一方、昨年の原油価格の上昇の反動や特殊要因があるため、コア消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年同月比は伸び悩んでいるが、物価上昇圧力が弱くなっていると誤解してしまってはいけないだろう。
確かに、携帯電話通信料や教育無償化などのテクニカルな下落圧力もある。
しかし、家計の名目所得が拡大している中、実質所得の増加があり、他の需要が増加し、一般物価の基調への影響はそれほど大きくはならない可能性もある。
そして、マクロの需要超過の形が継続しているのであれば、値下げによる販売促進も限界となり、特殊要因の影響が剥げ落ちた翌年に、前年比の物価上昇率は大きく跳ね上がることになろう。
更に、企業の利益率がコストの増加などで伸び悩む中で、価格を引き上げて販売数量に下押し圧力がかかても、弾力性を考慮しながら、値上げで利益を確保する動きも加速するだろう。
2019年の物価上昇率がテクニカルな理由で弱ければ弱いほど、2020年は逆に強くなり、1%を上回る水準に物価上昇率が加速する可能性は十分にあると考える。
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司