近年では、預金金利の低下や年金への不安が原因で、富裕層のみならず、サラリーマン世帯でも将来のリスクに備えて、資産形成をする必要に迫られている。例えば、不動産で資産形成をすることになれば、現金での一括購入は難しく、不動産融資を利用するのが一般的な手法である。しかし、「借金=リスク」と考える人も少なくない。資産形成において、リスクとリターンにどう向き合うべきか、不動産投資など身近な事例から考えてみた。

不動産投資で見るリスクとリターンの関係

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(画像=Sasin Paraksa/Shutterstock.com)

投資のリスクとリターンを考える上で、分かりやすいのが不動産投資だろう。ご存じの通り、不動産は購入額が大きい。そのため、自己資金だけでは大きな投資が行えず、有効な資産形成は難しいだろう。不動産投資では、金融機関からの融資という「借金」を利用することで、資産を増やしていくことになる。なぜ借金をして返済リスクを負うことで、資産が増やせるのだろうか。

一般的に、自己資金よりも大きな金額で運用して、資産形成を行う手法を「レバレッジ」という。レバレッジとは「テコの原理」という意味で、テコを使って自分の力以上の物を持ち上げることを表している。

例えば、自己資金1,000万円で、年間実質利回り6%の投資物件を購入したと仮定する。ここで得られるリターンは、1,000万円×6%=60万円だ。

では、レバレッジ効果を見込んで、年間実質利回り5%で3,000万円の投資物件を、1,000万円の自己資金と2,000万円の融資(金利3%)で購入した場合のリターンはどうなるか。

1,000万円×5%=50万円
2,000万円×(5%-3%)=40万円

となり、リターンは50万円+40万円=90万円となる。利回りは後者が1%低かったにもかかわらず、リターンは1.5倍に増加していることが分かるだろう。一見すると、借金というリスクが増えて、損をしそうに思える。だが結果的に、より多くのリターンが得られている。これが不動産投資の魅力でもある。

レバレッジ効果を判断する指標「K%」

上述はあくまで一例だ。実際に、レバレッジが有効なのかを判断する指標として「K%」というものがある。K%とはお金を借りるときの調達コストを表すもので、「年間の返済額÷ローン残高×100(%)」で算出する。

例えば、ある投資物件を購入し、年間の返済額300万円、ローン残高5,000万円の融資を受けていたと仮定すると、K%は、300万円÷5,000万円×100=6.0%だ。この物件の実質利回りが5%であった場合、K%の差は5%-6%=▲1%、実質利回りが7%だった場合は7%-6%=1%となる。

一般的に、実質利回りがK%を上回っている(差がプラス)場合、投資は適格だ。反対に、実質利回りが下回っている(差がマイナス)場合は、不適格という判断になる。ただ、無計画に借金するのでなく、将来のリターンに見合った融資(リスク)であるかどうかを、十分に検討しておく必要がある。

法人化により融資額を増やしてリターンを高める

さらにレバレッジ効果を高めるために、不動産投資では法人を設立するという方法もある。個人で受けられる融資額と、会社で受けられる融資額には違いがある。不動産投資の実績を積んできた人は、法人化することによって、金融機関から、さらなる融資を引き出すことも不可能ではない。受けられる融資額が多いほど、多くの投資物件を運用することが可能となり、資産を増やすチャンスは増える。その際、複数の物件に分散投資するなどのリスク対策は必要だ。

不動産投資で備えておくべきその他のリスク

不動産投資のリスクはローン返済だけではない。不動産投資における一番のリスクは空室だ。空室が多いと家賃収入(リターン)が目減りし、想定していた利回りを得ることができない。いくら利回りが高いとされる物件でも、安定的に利回りが得られているかどうかは、必ず注目しておかねばならない。あわせて、運営費用や建物の修繕計画も考えておく必要がある。想定外の出費や突然の改修工事で大きな金額を負担し、実質利回りが下がってしまうリスクに備えて、計画的に修繕費用を積み立てるなどの対策をあらかじめ講じておこう。

資産形成に必要なリスクとリターンの関係を、不動産投資を例に解説してみた。投資である以上、必ずリスクとリターンが存在する。銀行預金や国債のようにリスクの低い金融商品は、リターンも少ない。投資信託、株式と高いリターンが期待できるにつれて、リスクも大きくなる。中にはFXのようにレバレッジをかけて、投資できるものもある。

そうした中で不動産投資は、借金というレバレッジが利用できるものの、長期にわたって安定的な収入が得られる可能性が高い、他の金融商品にはない性質を持っている。安直に取り組めるものではないが、決して難しいものでもない。発生するリスクと得られるリターンをきちんと把握しておけば、安定した資産形成にはもってこいの投資手法ではないだろうか。