「セットバック」という言葉をお聞きになったことはあるでしょうか?不動産・建築関係のお仕事をされている方にはおなじみですが、それ以外の方には聞き慣れない言葉かもしれません。今回はこのセットバックがどのようなものか、所有している・あるいは相続する不動産等にどのような影響があるのか、ということについてお伝えしていきます。

セットバックを行う目的

資産価値,セットバック
(写真=rawmn/Shutterstock.com)

セットバックは、土地とその土地に面している道路が大きく関係してきます。ある土地に建物を建てる場合には、その土地は「建築基準法」の道路に2m以上接していなくてはなりません。ちなみに接道している部分が2m未満の場合「接道義務」に違反している土地となり、更地の場合には新しく建物を建てることができませんし、例えば古い既存の建物がある場合にも、取り壊して新しい建物を建てることができません。この接道義務は、該当の土地と道路との「接道幅員」つまり間口が2m以上あれば良いという話になります。

それに対して「セットバック」は「道路幅員」が4m未満の道路に接している土地に建物が建っている場合、その建物を取り壊して新しい建物を建てる際は、その道路の中心線から2m後退した部分を道路と土地との新たな境界線とすることを言います。

セットバックを行う目的は建築基準法と都市の防災に関連があります。現在の建築基準法第42条1項では道路を「幅員四メートル以上のもの」と定めています。ただ建築基準法が施行されたのが昭和25年と戦後間もない頃で、当時4m未満の道路が多数存在し、これを道路と認めないとなると建て替え等ができなくなるという不都合が生じてしまう懸念がありました。

そこで、建築基準法の施行時に幅員4m未満の道路で既に建物が建っている場合には、その道路を建築基準法の道路とみなすこととなりました。これを建築基準法第42条2項道路(みなし道路)と言います。この2項道路に接している土地に建つ建物の建て替えが進み、その度に「セットバック」が行われれば、いずれ2項道路も幅員が4mになるという考えです。

またこの幅員4mというのは、車2台がすれ違うことができる幅、さらに言えば消防車が通行できる幅員となります。幅員4m未満の地域で火災が発生した場合、消防車が現場まで行きつくことができずに近隣に延焼し災害が大きくなることも想定されます。街づくり・防災の面からもセットバックを進めていこうという目的もあります。

今よりも自宅が狭くなる?

ただ、2項道路に接道している土地の既存建物に住んでいる所有者側から見たらどうでしょうか。自宅が老朽化し建て直す場合には、セットバック部分は道路として自治体に無償提供(市区町村によって違いがあります)することになり、結果自分の土地がその分狭くなりますので、建て直し後は現在よりも自宅が狭くなってしまう可能性もあります。このような理由で自宅を建て直すのではなくリフォームをして新しくするケースもあり、この場合にはセットバックの必要が無く道路幅員も広くなりません。建築基準法が施行から70年近く経った現在でも2項道路が無くならないのはこのような事情が各地であることも考えられます。

セットバックが相続に与える影響

2項道路に接している土地を相続した場合には、相続した時点ではセットバックをする必要がありませんが、セットバックを必要とする面積について評価額の70%を控除することができます(30%評価)。例えば100㎡の土地の相続税評価額が2,000万円で、セットバックを必要とする面積が10㎡の場合、セットバック部分の評価額は2,000万円×10㎡/100㎡=200万円となります。この200万円部分の評価額が30%となり、土地全体の評価額は2,000万円-200万円×70%=1,860万円となります。2項道路に接している土地の相続税評価額を算出する際は、セットバック部分の面積も正しく算出した上で計算をしないと、評価額が大きいまま申告をしてしまうことになってしまいます。特に路線価の高い地域ではセットバックの面積自体は小さくても控除できる額が大きくなるケースもありますので、セットバック部分の評価は必須となります。

このように、2項道路に接している土地は、建て替え時や相続時の他、売買時にも影響してきます。セットバックが必要な土地(物件)を購入する際は、どれくらいセットバックをする必要があるのか、建物を新築・建て替える際にどのような影響があるのかを考慮する必要がありますし、売却をする場合には、周辺の相場よりも価格が割安になることも考えられます。面積自体は大きくなくても、様々な場面で時には大きな影響が出る可能性があるのがセットバックとなります。(提供:相続MEMO

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