海外景気の減速や消費増税により回復ペースは減速するものの、緩やかな回復は継続

要旨

●民間調査機関22 社の経済見通しが出揃った。実質GDP成長率の平均値は、2018 年度が前年度比+0.5%(11 月時点見通し:同+0.9%)、2019 年度が同+0.7%(11 月時点見通し:同+0.7%)、2020 年度が同+0.5%(11 月時点見通し:同+0.6%)となった。18 年10-12 月期のGDPを受けて、設備投資や輸出等の予測が引き下げられたことから、18 年度の予測は11 月時点から下方修正された。

●2019 年度は、良好な雇用環境を受けた個人消費の増加やオリンピック関連工事等の公共投資の増加によって、景気回復が続くとの見方が多い。消費税率の引き上げについては、政府による各種対策によって悪影響は限定的なものにとどまるとみられている。

●2020 年度は、景気の回復は続くものの、オリンピック終了に伴う需要の反動減や消費税対策の剥落、世界景気減速による設備投資や輸出の停滞により、回復ペースは鈍化していくとみられている。

●消費者物価指数(生鮮食品を除く(消費税・教育無償化要因除く))の見通しは、18 年度は同+0.8%、19 年度は同+0.5%、、20 年度は同+0.6%となった。物価上昇圧力が鈍い中、原油価格の変動にラグを伴うエネルギー価格がプラス幅を縮小していくことで、消費者物価は伸びが鈍化していくことがみられている。そのため、日銀が目指す2%の物価上昇の達成は困難との見方が多い。

コンセンサスは2018 年度:+0.5%、2019 年度:+0.7%、2020 年度:+0.5%

民間調査機関による経済見通しが出揃った。本稿では、2 月26 日までに集計した民間調査機関22 社の見通しの動向を概観する。民間調査機関の実質GDP成長率予測の平均値は、2018 年度は前年度比+0.5%(11 月時点見通し:同+0.9%)、2019 年度は同+0.7%(11 月時点見通し:同+0.7%)、2020 年度は前年度比+0.5%(11 月時点見通し:同+0.6%)である。18 年10-12 月期の結果が下振れたことを受けて、設備投資や輸出等の予測が引き下げられ、成長率予測は11 月時点から下方修正された。

民間調査機関の経済見通し(2019 年2月)
(画像=第一生命経済研究所)
民間調査機関の経済見通し(2019 年2月)
(画像=第一生命経済研究所)

18 年10-12 月期は前期比年率+1.4%とプラス成長となるも、7-9月期の落ち込みは取り戻せず

 2月14日に発表された2018年10-12月期実質GDP成長率(1次速報)は、前期比年率+1.4%(前期比+0.3%)となった。7-9月期に自然災害の影響により下押しされた反動から、個人消費が前期比+0.6%(7-9月期:同▲0.2%)、設備投資が前期比+2.4%(7-9月期:同▲2.7%)とそれぞれ高い伸びとなった。しかし、外需は海外景気の減速を受けて前期比▲0.3%(7-9月期:同▲0.1%)とマイナス寄与が続き、実質GDP成長率は全体としてはプラス成長となるも、7-9月期の落ち込み分は取り戻せなかった。

 個人消費については「夏場の自然災害の影響が一服したほか、良好な雇用環境を受けたことが持ち直しに繋がった」(みずほ総合研究所)とみられている。設備投資については、「情報化投資や自動化・省力化投資などを中心に、企業の投資に対する積極姿勢が続いている」(三菱総合研究所)との見方がコンセンサスだ。一方で、外需については「中国・NIES向けの半導体製造装置やIT(情報技術)関連部品などの輸出が減少したことが輸出全体の足を引っ張った」(日本経済研究センター)ことから、前期比▲0.3%(7-9月期:同▲0.1%)と前期に続きマイナス寄与となった。

個人消費や輸出の弱さを受けて、成長率予想は下方修正

 2018 年度成長率予想は前年度比+0.5%(11 月見通し:同+0.9%)となった。10-12 月期の結果を受けて、設備投資や輸出、公共投資の予測値が引き下げられ、成長率予想は、前回から下方修正された。日本経済は回復を続けているものの、「米中貿易摩擦が中国経済の減速につながり、半導体やスマートフォンなどの分野で調整が深まっている」(日本経済研究センター)ことから、2019 年1-3月期も足踏み感が強まる可能性が高いとみられている。

 2019 年度成長率予想は、同+0.7%(11月時点見通し:同+0.7%)と前回から変わらない結果となった。「個人消費は良好な雇用環境を受け堅調な推移が続く」(みずほ総合研究所)や「公共投資は、慢性的な人手不足の解消にはなお時間を要するとみられるものの、オリンピック関連工事や被災地復旧工事等が下支えすることで、底堅く推移する」(明治安田生命)といったコメントが示すように、緩やかな回復が続くことが予想されている。19 年度は消費増税が予定されているが、「大規模な消費増税対策によって消費税率引き上げによる景気への影響は限定的にとどまる」(ニッセイ基礎研究所)との見方がコンセンサスだ。

民間調査機関の経済見通し(2019 年2月)
(画像=第一生命経済研究所)

 2020年度成長率予想は同+0.5%(11月見通し:同+0.6%)と前回から小幅に引き下げられた。「2020年度は7~9月の東京オリンピック・パラリンピックに向けて個人消費、インバウンド需要が盛り上がることで一時的に景気は押し上げられるが、その反動やインフラ建設の需要の一巡、消費税対策効果の剥落などにより、その後は停滞」(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)や「世界経済の停滞感が強まる中、輸出と設備投資の伸びが一段と鈍化」(東レ経営研究所)など、景気回復の継続が見込まれるものの、そのペースは次第に鈍化していくとの見方が多かった。

 このように、景気回復基調が続くというシナリオは維持されたものの、回復ペースについては減速していくとの見方が多かった。緩やかながらも成長を続けるとの見方が多いが、多くの機関が貿易摩擦をリスク要因として挙げていた。米中貿易摩擦については、「米中間の摩擦は多面的に継続するとみられ、米中経済および周辺国経済への影響がさらに拡大する可能性には注意が必要」(三菱総合研究所)など、貿易摩擦による影響が拡大するリスクについて指摘するコメントが多くみられた。「米政権が自動車関連の関税引き上げや数量規制などの措置に踏み切れば大きな影響を及ぼすため、交渉の行方に留意する必要がある」(富国生命)など、特に日本経済への影響の大きい自動車に対する関税について指摘する機関も多かった。

 なお、消費増税についてはリスク要因であると認識されているものの、「2014年の増税時と比べて家計負担の増加度合いが小さいほか、腰折れ回避のための手厚い景気対策が実行される予定であるため、消費増税を契機に景気が失速する事態は回避される」(東レ経営研究所)との見方が多い。

以下では需要項目別に、エコノミストの見方を概観していく。

① 個人消費

民間調査機関の経済見通し(2019 年2月)
(画像=第一生命経済研究所)

 18年10-12月期の個人消費は前期比+0.6%となった。自然災害の発生による悪影響の剥落により、個人消費は反発した。

 先行きについては、「良好な雇用・所得環境を背景に個人消費は回復基調を維持する」(信金中央金庫)とみられている。2019年10月には消費増税の引き上げが予定されているが、消費増税の個人消費への影響については、各種負担軽減策の導入が予想されていることから、「家計の節約志向の高まりは相当程度緩和される」(浜銀総研)とみられており、「消費者マインドの悪化は軽微にとどまる」(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)との見方がコンセンサスだ。もっとも回復ペースについては、「所得環境の改善が限られることに加え、景気回復の恩恵を受けにくい年金受給者の割合が高まっていることもあり、基調としては、個人消費の増加ペースは緩やかにとどまり、景気をけん引する役目は期待しにくい」(富国生命)との見方が多い。

② 設備投資

民間調査機関の経済見通し(2019 年2月)
(画像=第一生命経済研究所)

 18 年10-12 月期の設備投資は前期比+2.4%となった。7-9月期の自然災害発生による供給制約が解消されたことに加え、人手不足に対応した省力化投資や研究開発投資の下支えにより、設備投資は反発した。

 先行きについては、「世界景気の拡大ペース鈍化を受けた投資計画の慎重化に向けた動きが出ているものの、国内の設備老朽化に伴う維持・補修への投資や、合理化・省力化投資への需要の高まりが下支えすると見込まれ、製造業の設備投資は、今後も底堅く推移する」(明治安田生命)とみられている。ただし、「19 年度以降は五輪特需の一服、世界経済・貿易の停滞などへの警戒の強まりから投資姿勢の慎重化が進み、鈍化が見込まれる」(農林中金総合研究所)との見方が多い。

③ 輸出

民間調査機関の経済見通し(2019 年2月)
(画像=第一生命経済研究所)

 18 年10-12 月期の輸出は前期比+0.9%となった。自然災害による供給制約解消によって反発したものの、海外の景気減速やIT関連需要の循環的な弱さを受けて、増加幅は限定的なものにとどまった。

 先行きについては、「当面は中国を中心に海外経済の減速が続くこと、IT 需要もピークアウトしていることから、輸出は当面弱い伸びに留まる」(みずほ総合研究所)とみられている。その後についても、「2020 年にかけて世界経済は減速傾向が継続し、輸出環境は厳しい状況が続く」(富国生命)との見方が多い。

④ 公共投資

民間調査機関の経済見通し(2019 年2月)
(画像=第一生命経済研究所)

 18 年10-12 月期の輸出は前期比▲1.2%と6四半期連続のマイナス推移となった。

 先行きについては、「防災・減災、国土強靭化のための3か年緊急対策」が策定されたことで、「被災地復旧工事等が下支えする」(明治安田生命)とみられている。なお、オリンピック終了後の公共投資については、「供給制約が幸いして、東京五輪前後の建設投資の山谷は小幅なものになる可能性が高く、五輪後の反動による深刻な景気の落ち込みは回避されよう」(浜銀総研)など、建設投資の落ち込みは限定的なものにとどまるとの見方が多い。

消費者物価の伸びは徐々に鈍ることが予想され、2%達成には遠い

 消費者物価指数(生鮮食品除く総合)の予測の平均値は、2018年度が同+0.8%(11月見通し:同+0.9%)と前回予測時から引き下げられた。2019年度と2020年度については、消費税及び教育無償かの影響を除いたベースでの消費者物価指数(生鮮食品除く総合)の予測の平均値は、2019年度が同+0.5%、2020年度が同+0.6%となった。

 先行きについては、「エネルギー・食料品が主な押上げ要因で、需給改善に伴う物価上昇圧力はまだ鈍い」(農林中金総合研究所)中、「今後は、原油価格の変動にラグを伴う電気代・ガス代もプラス寄与幅を縮小する見込み」(明治安田生命)であることから、「物価は当面低空飛行を続ける」(ニッセイ基礎研究所)とみられている。そのため、日本銀行が物価安定の目標としている2%に達することは難しく、「日銀は、当分の間、現行の緩和政策を継続する」(信金中金)との見方が多い。(提供:第一生命経済研究所

第一生命経済研究所の見通しについては、Economic Trends「2018~2020年度日本経済見通し」(2月14日発表)をご参照ください。

第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部
副主任エコノミスト 小池 理人