少子高齢化の進行に伴い、公的年金だけでは老後の生活費が賄えないとの懸念が強くなっている。公的年金への不信はそのまま老後生活への不安へとつながる。今や「老後生活に不安意識を抱いている」人は85%以上にものぼっている。公的年金に依存できない以上、自分自身で老後生活の保障を図らねばならない。今回はその手法のひとつとしてお勧めしたい「財形貯蓄」について解説する。

「将来への備え」についての現状とは

財形貯蓄
(画像=Syda Productions / Shutterstock.com)

生命保険文化センターの「平成28年度『生活保障に関する調査』」によると、多くの人は将来のために何らかの自衛策をとっているが、その手段として最も多く採用されているのは「預貯金」であり、その割合は45.2%にも及ぶ。政府のスローガンとして「貯蓄から投資へ」が掲げられているが、有価証券で老後準備を行っている人は、7%にも満たないという結果だ。これは将来に備えた金額が、状況によって変化してしまうことを敬遠し、確実性の高い資産形成の方法が選好されているからと考えられる。

しかし、近年の低金利では、預貯金による金利収入のみを頼みとするのは得策ではない。そこで預貯金の確実性・安全性といったメリットを維持したまま、少しでも高い金利収入を得つつ、貯まった資金を上手に活用するための手段として注目されているのが、冒頭で挙げた「財形貯蓄」なのだ。

3つの財形貯蓄の仕組みとは?

財形貯蓄は、福利厚生の一環として採用している企業で働く勤労者が利用できる制度だ。財形貯蓄制度は貯蓄目的によって、マイホームの取得・リフォームを目的とした「財形住宅貯蓄」、老後資金のための「財形年金貯蓄」、そして特に目的を定めない場合は「一般財形貯蓄」という3つの制度を利用できる。

3つの財形貯蓄に共通するメリットは、給料天引きによる強制的な積み立て力と、通常よりも有利な金利条件だ。ただ、住宅財形と年金財形のふたつの制度には、さらに有利な恩恵が備わっている。通常であれば、預金金利による利子所得には、20.315%の源泉分離課税が課されるが、両制度とも、元利合計550万円までの利子は非課税となる。

現在は低金利が続いているので、効果が薄いと思われるかもしれないが、今後、金利上昇局面を迎えたときは、強力な節税効果をもたらすだろう。しかし、一般財形と異なり、住宅財形と年金財形は55歳までしか加入できない。恩恵を多く受けるためには、できるだけ早くに加入する必要がある。

財形貯蓄でマイホーム取得を有利に!

前述した、3つの財形貯蓄のいずれかを1年以上継続し、貯蓄残高が50万円以上ある場合、有利な金利でマイホーム購入資金が借り入れられる「財形住宅融資」の利用が可能だ。金利タイプは5年固定金利制となっており、融資可能額は住宅取得価額の90%が上限、財形貯蓄残高の10倍以内、最大4,000万円までとなっている。

特に中小企業(常用労働者数300人以下)に勤務している場合や、18歳未満の子がいる子育て世代は、5年間の固定金利期間中の通常金利から、0.2%を引き下げる特例措置を受けることができる。本条件に合致し、住宅ローンの利用によるマイホームの購入を考えているならば、金融機関の提供する住宅ローンと比較してみてはどうだろうか。

さて、今回は財形貯蓄について紹介してきた。財形貯蓄を利用する最大のメリットは、「特にデメリットがない」ことではないだろうか。例えば、iDeCoなどの確定拠出年金制度の掛け金は、少なくとも60歳に達するまで出金できない。このデメリットが理由で、確定拠出年金に抵抗を感じる人もいるだろう。しかし、財形貯蓄はいつでも解約して、資金が引き出せる。もっとも、住宅財形と年金財形は、目的外の利用で解約する場合だと、利子に課税されてしまう。とはいえ、この点は普通預金や定期預金でも変わらない。リスクを冒せない資金の預け先として、財形貯蓄を利用しない手はないだろう。