1.はじめに

平成31年度税制改正・所有者不明土地に係る長期譲渡所得の課税特例等
(画像=チェスターNEWS)

平成31年度税制改正において、特定所有者不明土地に係る長期譲渡所得の課税の特例が創設されます(租税特別措置法案31の2第2項)。 この特例は、平成30年11月に一部施行された「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法(以下では「所有者不明土地法」とします)」が平成31年6月1日に全面施行されることに伴って創設されました。

2.所有者不明土地法とは

(参照:国土交通省HP

(1)背景

人口減少や高齢化が進む中、土地利用の必要性が低下していること等により、所有者不明土地(※1)が全国的に増加しています。これによって、公共事業を進めようとする際、所有者特定のために莫大な費用がかかることになり、公共事業推進の妨げとなるといった現状がありました。そこで、所有者不明土地法が制定され、「所有者不明土地を円滑に利用する仕組み」の他、「所有者の探索を合理化する仕組み」「所有者不明土地を適切に管理する仕組み」が設けられました。

※1:所有者不明土地とは、不動産登記簿等の公簿情報等により調査してもなお所有者が判明しない、又は判明しても連絡がつかない土地のこと。

(2)法律の概要

以下のように、3つの仕組みが設けられました。

ⅰ)所有者不明土地を円滑に利用する仕組み

現に利用されていない所有者不明土地で、その土地上に建築物(簡易な構造で小規模なものを除く)がなく、反対する権利者がいない場合に、以下のような仕組みを構築しました。

①公共事業における収用手続の合理化・円滑化(所有権の取得)

〇国、都道府県知事が事業認定した事業について、収用委員会に代わって都道府県知事が裁定(審理手続を省略、権利取得裁決・明渡裁決を一本化)

②地域福利増進事業の創設(利用権の設定)

〇都道府県知事が公益性等を確認し、一定期間の公告
〇市区町村長の意見を聴いた上で、都道府県知事が利用権(上限10年間)を設定
(所有者が現れ明渡しを求めた場合は期間終了後に原状回復、異議がない場合は延長可能)

地域福利増進事業では、所有者不明土地に利用権を設定することで、その隣地と併せて活用することができるようになります。例えば、公園や農作物の直売所などとして土地を活用することが想定されています。

ⅱ)所有者の探索を合理化する仕組み

所有者を探索する際に、原則として登記簿、住民票、戸籍など客観性の高い公的書類を調査することなどにより合理化を実施

①土地等権利者関連情報の利用及び提供

〇土地の所有者の探索のために必要な公的情報(固定資産課税台帳、地籍調査票等)について、行政機関が利用できる制度を創設

②長期相続登記等未了土地に係る不動産登記法の特例

〇長期間、相続登記等がされていない土地について、登記官が、長期相続登記等未了土地である旨等を登記簿に記録すること等ができる制度を創設

ⅲ)所有者不明土地を適切に管理する仕組み

財産管理制度に係る民法の特例を創設

〇所有者不明土地の適切な管理のために特に必要がある場合に、地方公共団体の長等が家庭裁判所に対し財産管理人の選任等を請求可能にする制度を創設
(※民法は、利害関係人又は検察官にのみ財産管理人の選任請求を認めているところ、特例を創設することで請求者の範囲を拡大しました)

(3)所有者不明土地法は平成31年6月1日に全面施行

所有者不明土地法は、平成30年6月6日に成立し、同年6月13日に公布。

同年11月15日には、「所有者の探索を合理化する仕組み」と「所有者不明土地を適切に管理する仕組み」が一部施行されました。

平成31年6月1日には、「所有者不明土地を円滑に利用する仕組み」が施行され、これにより、所有者不明土地法は全面施行されることとなります。

3.所有者不明土地に係る長期譲渡所得の課税特例等を創設~譲渡所得2,000万円以下の部分に軽減税率適用

上記のような所有者不明土地法が平成31年6月1日に全面施行されることに伴って、特定所有者不明土地に係る長期譲渡所得の課税の特例が創設されることとなりました。

所有者不明土地法に基づく地域福利増進事業の事業区域内の土地等について、長期譲渡所得の課税の特例の対象としました。

①確知所有者(判明している持分所有者)が所有する特定所有者不明土地等、②その他の事業区域内の土地等(隣地)の譲渡について、所有期間5年超の土地等の譲渡所得に対する税率20%について、譲渡所得2,000万円までの部分を14%(所得税10%、住民税4%)に軽減します。

なお、2,000万円を超える部分については、20%(所得税15%、住民税5%)です。

この特例の適用期限は、平成31年12月31日です。

所有者不明土地法に規定する土地収用法の特例の規定による収用があった場合には、5,000万円の特別控除が適用される措置も設けられました。

地方税についても、次のような軽減措置が設けられました。

平成31年6月1日から平成33年3月31日までの間に特定所有者不明土地を使用する地域福利増進事業により整備する施設の用に供する土地・償却資産について、固定資産税等の課税標準を、「5年間」「3分の2」に軽減する措置が設けられました。

(提供:チェスターNEWS