マクロン仏大統領が英国のEU離脱の長期延期に反対の立場を表明していたため、EU臨時サミットの会談が現地時間の深夜になるまで議論が交わされましたが、EU首脳が10月31日までの離脱延期で合意しました。この離脱延期には6月の段階で見直しを行う条件が含まれており、結果だけで見るとメイ英首相の問いかけに対して、満額回答をEU側が提示したかたちになっています。ただ、共同声明がまだ行われてはいませんが、トゥスクEU大統領がツイッターで「EU27か国が延長で合意した」とツイートしているものの、マーケットの反応は限定的となっています。延期されるだろうとのコンセンサスから乖離しなかったこともありますが、これまでだと「合意なき離脱」回避は、ほぼポンド買いで反応していたマーケットがポンド買いで反応していない状況を鑑みると、「合意なき離脱」回避=ポンド買いの図式が崩れてきたのかもしれません。

EU臨時サミットばかりが注目されてしまいましたが、ECB理事会、そして、FOMC議事要旨においても、今後のマーケットを動意づかせる点がありました。ECB理事会については、市場の予想通り政策金利の据え置きを決定したものの、その後のドラギECB総裁の会見にて「マイナス金利政策によって生じ得る副作用の軽減が必要かどうかを検討」との見解を公表し、ユーロ圏の景気見通しについても総じて慎重な姿勢を見せました。マーケットでは、マイナス金利政策の見直しにはそれほど積極的ではないとの見方が強まったため、ユーロドルについては、一時1.1280ドル付近から1.1230ドル付近まで急落する場面がありました。ただ、その後はEU臨時サミットの動向を見極めたいとの思惑もあり、1.1270ドル付近まで買い戻されています。

FOMC議事要旨では、ハト派一色であるという考えがマーケットコンセンサスでありましたが、「大半のメンバーはリスクが年内の金利維持を正当化すると指摘」「数人のメンバーは金利見通しはどちらの方向にも変わる可能性があると指摘」「今年、利下げが必要になると予想したメンバーはいなかった」と、今年中の利下げの可能性もあるのではないかとの不安を一蹴する流れとなりました。ドル円も一時111円台を回復しており、FRBの政策金利関連でのドル売り展開は、当面ないと考えられそうです。

今後の見通し

EU臨時サミットにおいて、10月31日までの離脱延期が合意されたことで、一旦ポンドの話題が静かになる可能性が高そうです。こうなってくると、本日から明日12日まで行われるG20もそうですが、日米貿易協議がよりクローズアップされそうです。日経新聞が「日本政府、米国の自動車数量規制や為替条項の要求あれば拒否へ」などと報じており、今後はよりヘッドラインがマーケットを賑わせそうです。既に、トランプ大統領が輸入車関税や農業分野での環太平洋経済連携協定(TPP)以上の譲歩を求めてくる可能性があると言われていますが、チャック・グラスリー財政委員長は必要性を否定しています。こうした機運を、日本側が生かせるかが交渉のカギを握りそうです。

トランプ大統領は、安全保障を理由に日欧などに輸入車関税を検討しているものの、チャック・グラスリー財政委員長は「やめるよう忠告する。大統領は脅し続けるが結局は踏み切らないだろう。輸入車を安保と結びつけるのは極めて困難だ」と述べており、米国の希望が全て通るといった貿易協議にはならない可能性があります。日本側の要求が通るようなら、株価上昇により円安相場となる見通しです。兎にも角にも、ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表とチャック・グラスリー財政委員長が今後のキーパーソンになりそうです。

トルコリラについては、アルバイラク・トルコ財務相が「必要ならば国営銀行は増資を行う」「国営銀行に280億リラ相当の政府債を与える計画」との見解を示しましたが、引き続き構造的な改革を行う意思はあるものの、今回の経済計画では具体的な解決策を提示できませんでした。ただ、食料インフレ対策として農業を国家プロジェトクして取り組むことを示唆しており、5月に発表されるとのことで、期待感もありトルコリラの下落は一時的なものになっています。エルドアン・トルコ大統領が「イスタンブール市長選は、不正があったため無効とすべき」と、再選挙実施を求める申し立てを行うと発言しており、トルコリラの不安材料としては、エルドアン・トルコ大統領の方にバイアスがかかっている状況です。

本戦略以降は、ポンドからは一旦離れた方がよさそうだ

EU臨時サミットにて英国のEU離脱延期が合意されたことにより、「合意なき離脱」懸念こそ後退しましたが、これまでのようなポンドの買い戻しには至っておらず、イベント狙いのポンドロング戦略も今後は難しくなりそうです。1.3030ドルでのポンドドルロング、利食いについては、1.3270ドル付近、1.2980ドル下抜けを撤退目途の方針に変更はありませんが、本戦略以降はポンドからは離れる予定です。

海外時間からの流れ

イベントが集中した4月10日ですが、結果的にはECB理事会、FOMC議事要旨においてはサプライズはありませんでした。EU臨時サミットにおいても、離脱延期が合意されたことで目先の不安が一掃されています。今まではポンド中心の動向ではありましたが、徐々にドルと円のマーケットに回帰しそうです。まずは、日米貿易協議がマーケットの最大関心事になりそうです。

今日の予定

本日は、トルコ・2月経常収支、米・新規失業保険申請件数、米・3月生産者物価指数などの経済指標が予定されています。また、要人発言としては、クラリダ・FRB副議長、ブラード・セントルイス連銀総裁、クオールズ・FRB副議長、カシュカリ・ミネアポリス連銀総裁、ボウマン・FRB理事と多くのFRB高官の講演が予定されています。また、12日までワシントンでG20が開催されます。 (提供:FXプライムbyGMO)

FXプライムbyGMO情報分析チーム
為替のみならず、株式、商品相場の経験者が多角的な目線でマーケットを分析します。執筆者は営業推進部マーケッツグループ長、稲井有紀、グループ長代行、崔 敏樹。