年金の支給年齢引き上げや定年後の再雇用が広まる中、シニア人材の流動化が進んでいる。その中でも人材市場では、50代の転職が倍増しているという。少子高齢化が進行する中で、大手企業が抱え込んできたシニア人材の流動性がますます高まりそうだ。

人員整理で狙い撃ちになる「45歳の壁」

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(写真=Ahmet Misirligul/Shutterstock.com)

先ごろ、富士通が45歳以上の社員をリストラ対象にする件が耳目を集めた。同社とグループ企業の間接・支援部門に所属する45歳以上の正社員と再雇用社員を対象に、早期退職希望者を募集するというものだ。
同社は2018年10月から、「成長に向けたリソースシフト」として5,000人規模での人員再編を開始。1月末までに2,850人が早期退職に応じたという。

「45歳以上」を狙った人員整理を実施するのは富士通だけではない。この45歳が一区切りとされるのは、団塊ジュニア世代で母数が多いことと、就職氷河期に直面してビジネスやマネジメントに必要な経験を十分に積めなかった点があるとの指摘がある。
また、45歳であれば他のフィールドでも活躍できるという見立てもあるようだ。

ただ、30歳で結婚・子どもを持った人であれば、45歳はちょうど子どもが高校生になろうかという年頃。これから本格的に教育費が必要になるのに、そのタイミングで長年勤めた企業を出ていかなくてはならないとなると、生活設計に狂いが生じるのは間違いない。また、彼らに続く下の世代にも、勤め先への危機感を感じさせるのではないだろうか。

大手企業から中小・スタートアップに移る50代が増加

一方、長年勤め上げたスキルを武器に、転職市場が活況になっているのが50代の求職者だ。建設特需で需要が増加している現場監督などの技術者のほか、経理などのスキルを持つ人材が大企業からベンチャー企業に移るケースがみられるという。定年延長が当たり前となった現在、50代で転職したとしてもあと10年は現役として働くことができる。人材不足に悩むスタートアップや中小企業の中で、大手企業を退職したシニア人材への需要が高まっているのだ。

リクルートワークス研究所などが2019年3月に実施した「“定年前後の転職者”の採用・受け入れ実態調査」では、定年前後(55歳~64歳)の転職者を受け入れたことがある企業の採用担当者のうち、今後も採用意向がある人は約6割に上った。「新しい知識や物の見方を得られた」「周囲のメンバーへのスキルアップに繋がっている」といった好意的な意見が見られる一方で、「健康状態や体力面に不安がある」「仕事を覚えるのに時間がかかる」「これまでの仕事のやり方を改められない」「目標の設定が難しい」「仕事を覚えてもすぐに定年を迎えてしまう」などの点が課題として指摘されている。

また、“定年前後の転職者”に対する印象について、転職者を受け入れる意向をもつ同僚や上司の多くは「人柄が良い」「礼儀正しい」「人当たりが良い」という印象を抱いている。ただ、「職場にすぐなじんでいる」「話しかけやすい」という点については、シニア世代の転職者に対する受け入れ意向によって差がついており、スキルとともに人柄もシニア転職を左右するファクターのひとつであるようだ。

採用担当者は、転職者と周囲のコミュニケーションをケアしたり、本人と定期的に面談したりといったバックアップが必要だろう。

一方、転職者本人に対する調査では、転職先が未経験職種だったという人が約48%と半数近いにも関わらず、「転職してよかった」と答えた人が約6割に上っている。

シニア転職でリタイア前に「アウエー」を経験

長年勤め上げた会社から離れ、一からやり直すというのは容易ではない。とくに年齢が上がってくればくるほど、難しさは増すだろう。

しかし、どれだけ愛着がある組織や企業であっても、いつかは離れなくてはならない日がくる。ならば、なるべく早い時期から立場や所属を離れ、年代の違う人たちに入り混じって「アウエー」を経験するのも悪くないはずだ。(提供:百計ONLINE

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