前日については、欧州時間から米中貿易戦争が激化するのではないかとの懸念からドル円は上値の重い地合いが継続しており、米・4月小売売上高(前月比)が市場予想+0.2%に対して-0.2%、米・4月鉱工業生産(前月比)も市場予想±0.0%に対して-0.5%になるなど、弱い米国の経済指標になったことから、ドル円は一時109.158円まで下値を拡大しました。しかし、米政府高官の話として「トランプ大統領は輸入車に対する関税発動を最長6カ月延期する考え」との報道、ムニューシン米財務長官が「中国との貿易関係改善に向け真剣に協議している」と述べたこともあり、ドル円は東京時間高値上抜けには至りませんでしたが、109.70円手前まで反発しました。
サルビーニ伊副首相が雇用促進のため「EU財政規律違反である財政赤字の対GDP比3%超えの可能性」を示唆したことでユーロ売りが加速していますが、前日も同伊副首相が「EUの財政規律は欧州を飢餓状態に陥れている」と発言し、改めて改正の必要性を訴えました。ユーロドルについては、前日の米国経済指標悪化時に1.12ドル割れの水準から、一時1.1220ドル台まで回復していましたが、再び1.12ドル付近まで下落しています。今後は、サルビーニ伊副首相の発言のヘッドラインがでてくると、ユーロ売りが強まるマーケットになりそうです。
英国のEU離脱問題については、メイ英首相は離脱協定案の議会採決を6月3日の週に行う予定であると明言しており、英メディアは労働党が採決で棄権し、その後の法案修正を模索する可能性があると伝えていました。ただ、英野党・労働党の幹部議員がEU離脱協定案について、党の条件を満たさなければ来月の採決で反対票を投じ、棄権もしないと言明しました。北アイルランドの地域政党、民主統一党(DUP)幹部も、「首相が下院に協定案を提出する場合、何が変わったのかという疑問が生じる。バックストップ問題に対処する新たな方策を示せなければ、また否決に追い込まれる公算が非常に大きい」との見解を示しており、英国のEU離脱問題が再び混沌とするなか、スポットライトを浴びるかもしれません。
今後の見通し
本日発表された豪・雇用統計については、失業率が5.0%予想が5.2%、雇用者数変化については、1.5万人増が2.84万人増と改善したものの、正規雇用者数変化が前回の4.92万人増から0.63万人減と大幅に減少したことが嫌気され、豪ドルは急落しました。昨日は中国指標が悪化し、米中貿易戦争についても先行き不透明感が強まる中で、豪・雇用統計がこのような数字になったことは、6/4の豪中銀(RBA) 政策金利では、利下げが優勢になりそうです。また、この利下げを織り込む動きでどこまで豪ドル売りが強まるのかが今後の注目ポイントになりそうです。前回の豪中銀(RBA)金融政策決定会合では、労働市場の悪化が今後の利下げの必要条件となる事が示唆されていたため、マーケットは利下げを急速に織り込んでくると思われます。
米中貿易戦争絡みの報道では、トランプ大統領が、華為技術(ファーウェイ)製品の使用を禁止する大統領令に署名したことで、6/28-29日に大阪で開催されるG20首脳会合での米中首脳会談までの合意の可能性が低下しています。G20では、習近平国家主席と会談する予定である事を明らかにしているため、急速なドル売りには繋がらないと考えられますが、楽観論や期待感で事前にドル買いが強まるような展開は手控えられるものと思われます。
ドル円109.30円でロングメイク
米中貿易戦争に揺れるドル円ですが、109円割れを阻止している状況下は、テクニカル的には意識されるポイントになりそうです。決して地合いが強いわけではないですが、下値も限定的になっていることから、あくまで109円台はレンジと考えれば、109.30円でのロングは悪い選択ではないと考えています。戦略に変更はなく、明確な109円割れ水準である108.90円下抜けを撤退目途とし、109.30円台での押し目買い戦略。利食いについては、滞空時間こそ短そうですが、ワンタッチ期待の110円にまずは設定します。
海外時間からの流れ
チャウショール・トルコ外務相が、一部で報道された露製ミサイルシステムの購入延期を否定し、NATO同盟国とトルコの関係悪化が懸念されています。これまで態度を明確にしてこなかったトランプ大統領も、反対せざるを得ないと一部米紙が報じているように、米国のトルコに対する経済制裁が現実味を帯びてくるかもしれません。当然トルコリラ売りの材料になるため、トルコリラ円については、イスタンブールの再選挙前に一度下値を試す展開になる可能性があります。
今日の予定
本日は、米・5月フィラデルフィア連銀景況指数、米・4月住宅着工件数/4月建設許可件数、米・新規失業保険申請件数、メキシコ中銀政策金利発表などの経済指標が予定されています。また、要人発言として、カシュカリ・ミネアポリス連銀総裁、ハスケル・MPC委員の講演が予定されています。
(提供:FXプライムbyGMO)
FXプライムbyGMO情報分析チーム
為替のみならず、株式、商品相場の経験者が多角的な目線でマーケットを分析します。執筆者は営業推進部マーケッツグループ長、稲井有紀、グループ長代行、崔 敏樹。