中高年の離婚が増えてきていますが、離婚後の女性にとって最も不安なことは、離婚後の生活費です。この不安を解消するために、「年金分割制度」が2007年に始まりました。この制度の仕組み、注意点、手続きの方法などを詳しくご説明いたします。
年金分割制度とは?
年金分割制度とは、離婚した後に、夫婦の一方(主に夫)の厚生年金を分割して、もう一方(主に妻)の年金に加算する制度です。夫婦が結婚していた期間に応じて、年金が分割されます。
この制度には、離婚分割(合意分割)と3号分割の2種類があります。
離婚分割(合意分割)とは、離婚する夫婦が合意するか、または裁判手続きによって、分割の割合を決める制度です。ただし、割合は最大で2分の1です。
一方、3号分割とは、2008年4月1日以降に結婚していた妻が、第3号被保険者であった場合に利用できる制度です。第3号被保険者とは、厚生年金に加入している会社員や公務員の配偶者で、年収130万円未満の人を言います。第3号分割では、離婚分割(合意分割)とは違って、夫婦間の合意や裁判上の手続きは不要です。第3号被保険者が、年金事務所に請求することで、年金が分割されます。
ただし、2008年3月31日までの婚姻期間に関する分割については、夫婦間の合意、あるいは裁判上の手続きが必要です。
年金分割でいくら増えるのか?
離婚した妻にとって最も気になる点は、年金分割制度でいくら増えるのか、ということでしょう。
先程もご説明したように、夫の厚生年金を分割する仕組みですから、年金の加入期間や掛け金よって違ってきますので、一概には言えません。ただ、厚生労働省が統計を取っていますので、参考にすることはできます。
2016年の実績では、平均して妻の年金は、改定前の「5万4,819円」から「8万1,647円」と、2万6,000円程増えています。この金額は、離婚分割(合意分割)の数値です。第3号分割は、改定前の「3万721円」から「3万3,727円」と、3,000円程しか増えていません。これは、第3号分割が、2008年4月1日以降の婚姻期間が対象となるためです。
年金分割制度の注意すべき点は?
この「年金分割制度」で最も注意すべき点は、請求の期限があることです。原則的に、離婚した日から2年以内に請求をしないと、分割した年金がもらえません。この2年という期限は、離婚の際の「財産分与」を請求できる期限と一致しています。つまり、年金分割は、夫婦の財産分与に準ずるものと考えることができます。
戸籍上の夫婦の場合、離婚届を市区町役場に出した日が、離婚した日になりますから、わかりやすいのですが、婚姻届を出していない、いわゆる「事実婚」は、どうなるのでしょうか。この場合は、国民年金第3号被保険者資格を喪失した日となっています。つまり、年金事務所に届け出た日が、事実婚を解消した日ということです。
その他にも、離婚分割(合意分割)での注意点としては、婚姻期間中の厚生年金記録(標準報酬月額・標準賞与額)があること、あるいは当事者双方の合意、あるいは裁判手続により按分割合を定めたことが要件となります。
また、3号分割の場合には、姻期間中に、平成20年4月1日以降の国民年金の第3号被保険者期間中の厚生年金記録(標準報酬月額・標準賞与額)が必要です。
手続きの方法は?
離婚分割(合意分割)では、まず「年金分割のための情報通知書」を入手する必要があります。具体的な方法としては、年金事務所に「年金分割のための情報提供請求書」に必要書類を添えて、申し込みます。
必要書類は、年金手帳、国民年金手帳または基礎年金番号通知書、戸籍謄本です。なお、事実婚の場合には、戸籍謄本で証明することができませんから、個別に年金事務所にどのような書類が必要か、尋ねる必要があります。
届いた「年金分割のための情報通知書」には、「按分割合の範囲」が記載されています。その内容を基にして、相手方と年金記録を分割する割合(按分)、つまり「相手の年金からどれ位の割合で分割してもらうか」について、相手方と話し合う必要があります。
合意できない場合、裁判所に判断してもらうことになります。ただ、厚生労働省の統計によれば、按分割合50%が、全体の94.1%を占めていますから、この50%を基準にして合意していくことが、一般的だと言えます。
両者で合意ができましたら、「標準報酬改定請求書」に必要事項を記載した上で、「合意書」を添えて年金事務所に提出します。書類が受理されますと、年金分割の結果が、「標準報酬改定通知書」として、双方に届きます。もしすでに年金を受給している場合には、改定請求の翌月分から年金額が変更されます。
なお、3号分割については、両者の合意は必要ありません。分割してもらいたい当事者が、年金事務所に行って、「年金分割の標準報酬改定請求」を行うことになります。ただし、この手続きは、離婚前に行うことはできず、離婚後2年以内に行わなければなりません。
この「年金分割制度」は、離婚後の特に女性の生活を保障していく制度です。離婚分割(合意分割)の場合、手続きがやや煩雑ではありますが、老後の生活の不安を少しでも解消できるはずです。
文・井上通夫(行政書士・行政書士井上法務事務所代表)/fuelle
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