営業先で怒鳴られた経験がある人は多いだろう。今まではその経験がない人でも、いつそんな事態に遭遇するか分からない。誰だって怒鳴られるのはつらい。しかし、ピンチはチャンスに変えられる……怒鳴られた時冷静に相手の心理を読むことができれば。今回は、怒鳴り散らす相手への対応を心理学の観点から解説する。

営業ケーススタディ(4)――「怒鳴り散らすお客様」の心の裏側

営業心理学 第4回
(画像=autumnn / shutterstock.com、ZUU online)

社会人3年目の若林心一(25)は、自信を持って出かけた営業先で社長に怒鳴りつけられた。提案書を投げつけられ一度は営業を断念しかけるも、とある想いから2回目の提案を試みる。怒鳴り散らす相手に、起死回生の一手はあるのか――。クレーム対応とは違い、営業では必ずしも謝罪が正解とは限らない。15年目のベテランである先輩・及川圭佑(37)の解説で、日頃からできる心の鍛え方も紹介する。

提案書を投げつけられた!この営業は見切るべき?

「こんなペラペラの提案書で、人の問題が解決できるって?よくそんなデタラメが言えるな!!!」

狭い室内に、社長の怒鳴り声が響き渡った。若林が持参した提案書は社長の手で床に投げつけられ、折れ曲がっている。若林はただ呆然と立ち尽くすしかない。今朝は上司先輩に見送られ、意気揚々と会社を出た。それなのになぜ今こんな事態に陥っているのか、若林には分からなかった。

話は2日前にさかのぼる。会社が定期開催している採用戦略セミナーで、若林は参加者のフォローをしていた。そんな中、セミナー終了後も残って相談したいという人事部長がいた。休日にもかかわらず自らの意思でセミナーに参加したという熱心さに若林は深く感銘を受け、話すうちに2人は意気投合した。そんな調子で、とんとん拍子に訪問が決まった。

訪問すると、先日の人事部長が笑顔で出迎えてくれた。社長は商談が長引いており、10分後に到着するという。従業員20人以下の中小企業だが、独自の技術力があり、海外からも発注がくるらしい。人事部長が会社の事業に誇りを抱いていることが感じられ、若林も笑顔になった。

そうこうしているうちに、社長が到着。名刺交換をし、軽いアイスブレークのあと、若林は社長に人に関する悩みを尋ねた。社長は、注文は殺到しているが人手が足りないため、顧客を待たせている状況にあると説明した。

その状況なら、人の問題が解決すれば飛躍的に事業が成長する可能性もある。若林は社長の話に深く頷き、提案書の説明を始めた。

及川から学んだテクニックを活かし、相手の話すペースに合わせ、声量も調整した。また、初回訪問ということもあり、一番伝えたい提案を最初に説明する。それで社長に興味を持ってもらえたらという思いだった。

しかし、若林の努力にもかかわらず社長の表情がだんだんと曇ってくる。そして、若林が話を中断しようとした時には、社長の口から冒頭の言葉が勢いよく飛び出した。

静まり返った室内で、若林は頼みの綱の人事部長に視線を送る。しかし、申し訳なさそうに目を逸らされただけだった。社長は足音も荒く部屋を後にしてしまい、人事部長からは謝罪の言葉はあったものの、追い返すようにオフィスを出されてしまった。