「WAA」を発案し、導入を主導した取締役 人事総務本部長の島田由香さんは、「WAA」による「生産性」への影響をどう測定するかいろいろと考えた末、「社員本人の感覚値でいい」という結論に達したそうです。
アンケートでは、「WAAの導入前を50としたときに、いまのあなたの生産性は0から100のどこですか? 数字を入れてください」という質問をしています。
先に“75%の社員が「生産性が上がった」と回答している”とお伝えしましたが、それは50より大きい値を回答した人が75%いたということです。平均は66で、これを50で割って「30%生産性が向上した」と解釈しています。
社員の皆さんは、なぜ「生産性が上がった」と感じているのか? それはアンケートの自由回答の内容から伺い知ることができます。次に紹介するのは、「WAA」導入から3カ月後のアンケートへの回答から抜粋した社員の言葉です。
「通勤ラッシュを避けて出社したり、仕事に集中できる時間を自分で選ぶことで、効率は上がりました」
「自律の責任は重くなったが、拘束感が減り、気持ちに余裕ができたと思う。また、プライベートのスケジュールの自由度が広がり、ライフワークバランスが充実した」
「WAAを行なうことで、業務効率を落とすことなくむしろ向上させながら、家族と触れ合う時間を増やすことができ、特に子育てに対するコミットメントが強くなり、充実した生活を送ることが容易になった」
また、「どのような環境だと生産性が上がると感じているか」という質問に対しては、
集中できる
電話や会話などで邪魔されない
静けさ
心と時間に余裕がある
ラッシュ時の通勤や業務の重複など、価値を生まないことをしなくていい
といった回答が寄せられています。
働く場所と時間を自由に選べるようになったことで、社員自らが工夫して、集中できる環境やパフォーマンスの出やすい心身の状態を整えるようになり、それが生産性向上の実感につながっているのだと思われます。
「社員の感覚」による効果測定を重視するワケ
読者の皆さんは、「『生産性が上がった』という社員の実感は、会社の生産性向上につながっているのだろうか?」という疑問を持たれるかもしれません。それについて島田さんは、「WAAを導入してからも業績は下がっていないのだから大成功」と胸を張ります。
島田さんは、「生産性というものが、会社の目線でしか考えられていないことに疑問を持った」と語ります。生産性とは、「アウトプットをインプットで割ったもの」とされますが、アウトプットを生み出すのに大きな役割を果たすインプットとは、社員自身です。
その社員がどんな気持ちや健康状態で仕事をしているのかといったことに、もっと注目すべきだというのです。
「WAA」の検討を始める際、島田さんはまず、「社員にこうあってほしい」というビジョンを掲げました。それは「よりいきいきと働き 健康で それぞれのライフスタイルを継続して楽しみ 豊かな人生を送る」というもの。
だからこそ、アンケート調査では「新しい働き方により、毎日がよくなったかどうか」を尋ね、生産性の変化を測定する方法として、会社目線のアウトプットを数値化するような方法ではなく「社員の感覚値」を採用したわけです。
もちろんユニリーバは営利企業ですから、「WAA」によって業績が落ちるようなことになれば、それを継続することは難しいでしょう。島田さんが確信をもって「WAA」の導入を進めることができたのには、ユニリーバ・ジャパンの当時の社長の存在も大きかったようです。
2014年に同社の代表取締役 プレジデント&CEOに就任したフルヴィオ・グアルネリ氏はイタリア出身で、ユニリーバのイタリア、ルーマニア、ロシアの拠点などを経て日本にやってきました。そして、遅くまで職場に残っていることの多い日本の社員の働き方に「なぜ早く帰らないのか?」「いつ家族と過ごしているのか?」と疑問をぶつけ、人としてのあり方をもっと大切にするよう、社内に熱心に語りかけたといいます。
グアルネリ氏は、日本市場における同社の成功という重責を負って着任したわけですが、その目標と社員の幸福や自由度を高めることは、彼の中では対立するどころか、どちらも必要なことだった。これが、「WAA」の大きな後押しになったのです。
Team WAA! で他社にも拡散の兆し
いま、「WAA」の考え方は日本のほかの会社にも広がりつつあります。その動きの中核となっているのが、2017年1月に立ち上げられた「Team WAA!」というコミュニティです。
これは「WAA」のビジョンに共感する人なら誰でも参加できるオープンなコミュニティで、企業の人事や働き方改革、ダイバーシティ推進などに関わる人のほか、「担当業務は営業だが、自分の部署の働き方を変えたい」など、自分の組織に変化をもたらしたい人たちが多く集っています。
毎月1回会合を開催しており、そこでユニリーバ・ジャパンの取り組みや、組織を変えていくためのさまざまな方法論について学びあっています。最近では、学んだことを持ち帰って自分たちの組織で実践した人たちが、その成果を報告しあう場にもなってきました。
島田さんは「Team WAA!」の取り組みを「タンポポ作戦」と表現します。「WAA」のビジョンやノウハウをシェアすることで、それがタンポポの綿毛のように各地に飛んでいき、それぞれの場所で新たな花を咲かせる――その繰り返しで、幸せに働く人を増やしていこう、ということです。
現在「Team WAA!」のメンバーは1000名を超えて増え続けており、自由な働き方を前向きにとらえ、実践する会社が徐々に増えていくことが予想されます。
(提供:日本実業出版社)
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