★一体、下げの理由はなんだったのか? 昨日欧州市場から世界的に株式相場が急落。タイミング的には英メイ首相辞任表明というものが効いたようにも見えますし、ドイツの景況感悪化が材料にも見えます。 が、一晩明けてみると、市場での解釈は米中問題深化に対する懸念であったという声が多いのです。 キーワードは「問題の長期化」です。セルサイドからこの「長期化」のレポートが多数出回っているようです。ただ、問題の長期化はすでに分かり切った話です。ことが「貿易摩擦の問題」ではなく、アメリカは当初から「国防の問題」であると認識しており、国防はすべてに優先されますから、これが急落の本質であったとは考えにくいでしょう。

★シナリオの修正が行われている。 もともと、ただ日本の大型連休中に妥結の見込みとされていたものが、急転直下、物別れに終わって以降、そのシナリオを6月一杯はかかりそうだ、というシナリオへの修正は行われているように思います。 米中協議は10日に行われたのが最後で、次の会合予定も決まっていません。今回の「物別れ」がもっぱら中国国内における強硬派や、反政府的な階層が反米運動を仮託して実質的には反政府運動を起こそうとする危険性を抑え込む必要があるためでしょうから、少なくとも6・4事件30週年記念までは、米中交渉に目立った進展がない、ということがわかってきたのだろうと推察されます。 つまり、今月はまったく事態の好転が見られないということになるわけで、この織り込みが連休のタイミングとあいまって、市場にリスク回避の動きへと向かわせたと考えるのが妥当なようです。

★潜在リスクは人民元の最終防衛ラインの問題。 きっかけは冒頭の英メイ首相辞任であったかもしれませんし、後述しますように、人民元がチャイナショックを引き起こすかどうか、非常に微妙な水準に到達しつつあることなども、大きな不安心理を呼んだともいえるでしょう。 こうしたことから思わぬ急落へと発展したように見えます。 NYダウ工業株は一時448ドル安まで下落。最終的には286ドル安。1.11%の下落。

★主要指標の定点観測。 最終的に2%以上の重大な下落率で終わったものは、一つもありません。 今回の安値を更新したものは、半導体SOX指数、ダウ輸送株指数、ラッセル2000小型株指数、ナスダック指数の四つです。先行指標、リスク感応度の高い株価指数、ハイテクなど、軒並み直近安値更新となったことになります。 このうち、一番下げが一直線となっていた半導体(チャイナリスクを意識したものでしょう)指数は、一時200日線も割り込んだのですが、引けではわずかながら、200日線を上回って終わっています。 ちなみに、最大のリスク指標であるジャンクボンドは安値更新せず。 ただ米10年国債利回りは激しく低下、かなり株式売り→国債買いが、大きくなったことがわかります。長期金利は2.296%と、2.3%も割り込みました。 この中で、唯一RSIが逆行現象となったのは、ラッセル2000小型株指数です。これが早晩反転相場に転換していく公算は、一方では高まってきているわけです。

★チャイナショックのパターン。 むしろ問題はこちらのほうが重大です。金融市場に激震が走るとすれば、やはりチャイナショックでしょう。一時的なものですが、かなり相場を混乱させることは必至ですから、この点起こりうることはなにか、一応再確認しておきましょう。 今のところ、今月の相場が冴えないのは致し方ないとして、6月には政策発動観測で相場は高いと当レポートでは期待しています。 しかし、もしそれが裏切られるということになってきますと、発信源は中国であろうと推察されるわけで、やはり相場が総崩れする場合の導火線はチャイナリスクだと考えられます。 このチャイナリスクには、二つのパターンが考えられます。

(人民元切り下げショック) 2015年8月に発生した人民元切り下げショックが前例となります。 今後米中協議の進捗が思わしくなく、ずるずると中国からの資本流出が顕著になっていった場合、現在の人民元(対米ドル)レート6.9台は、7を超えて下落に歯止めがかからなくなるリスクが潜在します。人民元を切り下げて、一定の許容範囲を市場に示すことで事態の鎮静化を図ろうとします。が、最終防衛ラインは実力で阻止しなければなりません。ところが、原資が足りません。そこで中国は保有する米国債の売却に手をつけなければならなくなるわけです。それは、米長期金利の急伸→米国株急落を招来することになります。

(インターバンクレート切り上げショック) もし中国当局が、米国債売却にはあくまで手をつけないとしたら、別の人民元防衛策としては、国内での金利引き上げを行うという方法があります。インターバンクレート(銀行間取引金利)を引き上げるということです。 これが、急上昇するようですと、上海コンポジット指数が急落し、下手をすると唯一の支えであった不動産市況の暴落にも発展しかねないことになります。 この場合は、世界的な景気悪化というイメージが強く、中国による米国債売却圧力がないので、むしろ米国債のような安全資産に資金が逃避し、長期金利の急低下→米国株安という現象になって表れるように思います。 どちらにしても、人民元(対米ドル)がここから地滑り的に下落する動きに発展していく場合には、中国の国内金利が跳ね上がって心臓麻痺を起こすか、米国の長期金利急伸で米国株がショック安してしまうか、どちらかの現象を引き起こします。 こうした事態を避けるためには、やはり6月には米中協議は一定の着地点を見出さなければならないと、両国首脳とも思案しているはずです。

★習近平主席の見当違い。 5月連休中に、合意寸前とまで言われていたはずの米中通商協議が事実上の物別れに終わってしまったのは、その後漏れ伝わる情報によりますと、やはり中国側がチャブ台返しをしたのが事実のようです。 最終的な判断は習近平主席だったようですが、その動機は、「トランプ大統領は、来年の二期目の選挙で勝てないのではないか」と踏んだためだったようです。 ところが、意に反し、物別れをした5月初旬以降、むしろトランプ大統領の支持率はどんどん上昇しています。 この見込み違いを、6月に中国は修正しない限り、アメリカとの妥結点を見出すことはできなくなります。

★戦略方針。 米3連休前、米中事態打開は6月4日以降の政治の季節になるまで進展はない、といったようなことから、メイ首相辞任をきっかけにして資金がリスク回避に動いたというのが実体でしょうから、水準的な突っ込みは一時的なもので済むのではないかと考えます。 資産は従来通り33%を基準目安としたキャッシュの確保という方針だったのですが、4-5割に拡大してもよいでしょう。 あるいは、3割前後のキャッシュを1357(日経ダブルインバース)に投入することで、残りの持ち株保有分の評価目減りをヘッジするということでもよいでしょう。これは選択の問題です。資産全体を1357に投入して、実質的なショートポジション化するのはむしろ危険ではないかと考えています。 以上(提供:Investing.comより)

著者:増田経済研究所 松川行雄