2019年4月から、働き方改革関連法案の一部が施行された。「長時間労働の是正」、「正規・非正規の不合理な処遇差の解消」、「多様な働き方の実現」の3点を柱とする同法の施行から1ヶ月余り。企業の対応はどこまで進んでいるのだろうか。

主要企業は働き方改革に慎重姿勢=産経調査

施行,働き方改革
(写真=TippaPatt/Shutterstock.com)

産経新聞社が主要116社を対象に実施したアンケート結果では、働き方改革に対する企業の慎重姿勢が浮かび上がった。
まず、柔軟な働き方を実現するとされる一方で、長時間労働を助長するとの批判も根強い「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」。これは、高度な専門知識を有し一定水準以上の年収を得ている場合、労働基準法に定める労働時間規制の対象から除外するという制度だが、「導入しない」「当面導入しないが検討課題となる」はいずれも44%となる。

主要企業の大半が現地点での導入予定を決めていないとする中、「導入する」と回答した企業はわずか1%だった。

なお、時事通信が5月中旬に報じたところによると、制度開始後1ヶ月となる4月末時点で、高プロの適用を受けた労働者は全国で研究開発職の1人だけだという。

「(高プロの)趣旨は理解できるが、サービス残業のリスクが高い」との見方が根強いようだ。また、「該当する職種がない」という企業も多いだろう。

一方、国内の労働力不足を補うとして注目される外国人労働者の受け入れについても、同様に様子見ムードが強いようだ。

改正出入国管理法によって外国人労働者の受け入れ拡大が図られたが、今後さらに業種や規模を広げるべきかとの質問に対し、34%が「当面維持すべきだ」と回答している。「拡大すべきだ」としたのは28%だった。当面は現行の業種を維持すべき理由としては、「外国人労働者の管理や就労支援、日本語教育など生活面での受け入れ環境の整備」や「海外とのパイプがないと募集が困難」といった声が上がった。

NHKの朝ドラにも働き方改革の波

働き方改革は、一般企業以外にも広がりつつある。NHKは来春より、看板番組のひとつである「朝の連続テレビ小説(朝ドラ)」の放送日を、これまでの月~土の週5日間から月~金の4日間に短縮する。朝ドラは、放送開始から1年後の1962年から週5日放送を続けてきたが、近年の働き方改革の一環として、長時間労働になりがちな制作現場の負担を軽減するために、放送日の短縮を決めたという。

「働き方改革で生活が苦しくなった」との声も

一方、労働者側からは働き方改革で生活が苦しくなったという声も上がっているようだ。

「生活残業」という言葉もあるように、月々の収入に残業代分を当て込んでいる人も多い。働き方改革で長時間労働の是正が図られた結果、残業が減ったため手取りが少なくなったという人もいるようだ。また、業務量の見直しが図られないまま勤務時間が減らされたり、残業禁止となった結果、業務の持ち帰りやサービス残業が増えたりしているとの声もある。さらに、残業できなくなった部下の分もリカバリーしなければならない中間管理職の業務が増えたため、彼らの過労が心配だという指摘もあるようだ。

残業時間が減り、有給休暇の義務付けなどで休日が増えたことにより、新たに趣味を始めたという前向きな声もある一方で、残業代削減で収入が減ったため支出を抑えざるを得なくなったという声も多いようだ。人々の余暇は増えても支出が増加しないようでは、経済を上向かせることも難しいだろう。

働き方改革によるモチベーション低下を防ぐ

健康に支障をきたすほど働きすぎるのはもってのほかだ。しかし、業務量を減らさずに一律で残業を抑制する、その結果所得が下がるというやり方では、働く人のモチベーションを維持することは難しいだろう。

残業代を払わなくなった分を社員にボーナスや賃上げなどのかたちで還元する、生産性向上に取り組んだ社員にインセンティブを支給する、増えた余暇時間での副業を認める……など、金銭面でマイナスの影響を受けないようにする取り組みも同時に必要だ。また、業務内容を見直し無駄な業務がないかどうかなど、働く環境自体の検討も必要だろう。働き方改革という言葉は先行しているが、実態としてはまだ産声を上げたばかりと言えるのではないだろうか。(提供:百計ONLINE

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