2018年に改正された新相続法が2019年7月1日から施行される。中小企業では、代表者が株式の過半を保有しているケースも多く、相続のメインが自社株や会社の資産ということも珍しくない。経営者の高齢化が顕在化し、事業承継に悩む企業が増える中、円滑な引継ぎに向けて「経営者の遺言」が重みを増すと指摘されている。

相続は「争族」、無用な争いで会社の信用棄損も

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(画像=Burdun Iliya/Shutterstock.com)

相続は「争族」とも揶揄されるが、自社株など会社の資産をめぐって相続人が争いを繰り広げるケースも珍しくない。本人たちにその気がなくとも、役員や従業員、株主、その他の親族などさまざまなステークホルダーが絡み合う中で、周りから祭り上げられてしまうこともある。とくに、経営者に離婚歴があるケースなどで、後から別の相続人や後継者候補が見つかった場合などは、争いがさらに複雑化する可能性もある。

経営を譲って会長職や相談役などに退いている場合でも、株式を保有したままというケースもあるだろう。無用な争いを防ぐには、遺言書で株式を残す相続人を指定しておきたい。
そうでなければ、各相続人が「遺留分」を主張し、株式の配分をめぐってトラブルに発展する可能性も否めないからだ。円滑な事業承継が阻害されれば、金融機関や取引先からの信用を損ない、従業員の雇用や事業の先行きもおぼつかなくなってしまう。

「遺留分」をめぐるトラブル防止には遺言書と保険が大切

兄弟姉妹を除く「父母および配偶者や子供など」には、最低限の遺産を受け取るための「遺留分」がある。たとえ、先代の経営者が「自社株式はすべて長男に相続させる」という遺言を残していたとしても、ほかの相続人が「遺留分が欲しい」と要求した場合は、本来の法定相続分の半分は渡さねばならない。そのため、株式や不動産といった現物財産が本来の相続人と遺留分を主張した相続人の共有状態になったり、株式の散逸を招いたりすることがあった。

それが、7月施行の新相続法では、遺留分を主張した場合でも相当する金銭請求を主張できるだけで、現物財産そのものが共有される可能性はなくなった。また、遺留分に相当する金銭がすぐに用意できない場合でも、裁判所が相当分の支払猶予期間を許与する制度が設けられている。

このように、新たな相続法の下ではあらかじめ遺言書を残しておくことで、相続と事業承継にまつわるトラブルを防げる可能性が高まったのだ。
また、遺留分の金銭を支払うために、あらかじめ相続人に指定した長男などを受取人として保険をかけておくことも有効だ。相続発生時に保険金から現金を後継者が受け取れれば、そこから遺留分権利者に支払うべき金銭を捻出できる。

遺言書作成にあたり注意すべき点

簡単に作成できる遺言書としては、自筆証書遺言書がある。本人の自筆で氏名・作成年月日・印鑑さえあれば、どんな紙に書いても有効だ。

ただ、自筆証書遺言書は自筆署名・押印がない、権利範囲を正しく記載していないなど、書式や内容に間違いがあった際に法的効力が認められないケースがしばしば発生するので注意が必要だ。また、これまでは自筆証書遺言書の公的な保管制度がなかったため、悪意を持つ第三者の改ざんや紛失の懸念もあった。
今回の新相続法にあわせて遺言書保管法も制定され、2020年7月10日から自筆証書遺言書を法務局で保管してもらえるようになったが、それでも心配だという場合もあるだろう。そのような場合は、専門家のサポートが受けられる公正証書遺言書を作成してもよいだろう。
また、子どもなどの相続人が遠方にいる場合などは、行政書士や司法書士といった専門家に遺品整理や医療費の支払いといった事務手続きを委託できる「死後事務委任契約」といった制度を活用することも可能だ。

経営者は自らの責任として周到な準備を

自ら道を切り開いてきたエネルギッシュな経営者ならなおのこと、事業承継や相続はまだまだ先のこと、と思いがちだ。しかし、健康に留意しているつもりでも不慮の事故などで突然寿命を迎えてしまう可能性は決して否めない。
これまで育ててきた会社と事業、従業員、さらに大切な家族をめぐって無用な争いを起こさないためにも、経営者の遺言の重要性をあらためて認識し、周到な用意をすべきだろう。(提供:百計ONLINE


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