クラウドファンディングへの注目が高まっている。これは投資や運用など「お金」というものとの付き合い方、考え方が変化しているからと言えないだろうか。こうした中、株式会社クラウドポートは昨年2018年、融資型クラウドファンディング比較サイトの事業を株式会社ZUUに譲り渡した。そしてZUUは19年1月から「ZUU funding」として運営を始めている。なぜクラウドポートはZUUへと事業を譲り渡したのか。なぜZUUはクラウドファンディング事業へと乗り出したのか――。

株式会社クラウドポート 藤田雄一郎、株式会社ZUU 冨田和成の両社長が感じる「クラウドファンディング事業」の可能性とは。二人の構想にエコノミスト 崔 真淑(さい・ますみ)氏が迫った。

プロフィール

藤田雄一郎(ふじた・ゆういちろう) 株式会社クラウドポート 代表取締役。早稲田大学商学部卒業後、サイバーエージェントに入社。2007年にWEB構築、マーケティング支援事業を行う企業を創業し、2012年に上場企業に売却。2013年に大手ソーシャルレンディングサービスを立上げ、サービス開始から約2年半で80億円の資金を集めるプラットフォームに成長させた。2016年11月にクラウドポートを創業。

冨田和成(とみた・かずまさ) 株式会社ZUU 代表取締役。一橋大学卒業後、野村證券入社。支店営業にて数々の会社史上最年少記録を樹立し、本社の超富裕層向けプライベートバンク部門に異動。ビジネススクール留学やタイでのASEAN地域経営戦略担当などを経て、2013年にZUUを創業。「ZUU online」等の自社メディアには、延べ月間669万人が集まる。著書に『稼ぐ人が実践しているお金のPDCA』(KADOKAWA)など。

崔 真淑(さい・ますみ) エコノミスト。MBA in Finance。Good News and Companies代表。一橋大学大学院博士後期課程所属。東京証券取引所特任講師、日経CNBC経済解説委員会コメンテーター、昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。日本経済新聞社COMEMOキーオピニオンリーダー。2019年4月27日に新刊『30年分の経済ニュースが1時間で学べる』(大和書房、※クリックするとAmazonに飛びます)を上梓した。

事業を譲り受けZUU fundingを始めた意図――冨田

 ZUUは昨年、クラウドポートから事業譲受、融資型クラウドファンディング比較サイト「ZUU funding」の運営を2019年1月から開始しました。この背景や意図を教えてください。

冨田 2013年に「ZUU online」を立ち上げて約6年、2019年3月の数字では「ZUU online」等の自社メディアには、延べ月間669万人が訪問し、金融メディアとして国内最大規模に成長し、メディアとしての規模感が整ってきました(※1)。

会社立ち上げ時から言っていることですが、金融商品の購買には「情報収集・比較検討・購買判断」といった3つのプロセスが重要です。これまでは「ZUU online」にて情報収集の部分を推進してきましたが、「ZUU funding」はその先のプロセスである比較検討を担うサービスとして、位置付けています。

※1 月間訪問ユーザー数

デット(負債)に投資する機会の提供を――藤田

クラウドポート代表取締役・藤田雄一郎氏
クラウドポート代表取締役・藤田雄一郎氏(画像=ZUU online)

 融資型クラウドファンディングの可能性については、どのようにお考えでしょうか。

藤田 我々はさまざまな貸付ファンドに投資できるオンラインマーケット「Funds」を展開しています。Fundsは融資型クラウドファンディングに類するサービスですが、Fundsを通じてやりたかったことは、デット(負債)へ投資する機会の提供です。

いまやネット証券が十分普及していることに加え、スマートフォンを介して手軽に株式(エクイティ)投資ができる時代になっています。一方、企業への貸付に個人が参加できる方法は、一部で個人向け社債などがありますが、まだ少ない状態です。

「Funds」によってスマートフォンで手軽に、少額から貸付ファンドへ投資できる機会を実現したことで、安定的に運用をしたい方々の選択肢を広げることができるのではないかと考えています。

 証券会社で債券トレーダーをしていたときの経験ですが、劣後債(発行体が解散や破綻したとき、余剰資産で弁済される債券。同じ発行体による通常の債券より、一般的に高い金利が設定されることが多い)のなかで優良なものは、なかなか個人には回っていきませんでした。

私の仮説では理由が2つあります。まずマクロ視点では、1990年代の金融ビックバンで、規制緩和によってネット証券が誕生するなどの大きな動きがありましたが、証券会社にはメスが入りきらなかったのではないかという点です。一方ミクロ視点では、大手の証券会社がいわゆるイノベーションのジレンマに陥り、株のネット取引を進めたまではよかったものの、手数料で稼げなくなったために債券で利ざやを抜くしかなくなったのではないかということです。

冨田 大手の証券会社にとって、そもそも債券は手数料収入が厚くないものが多く、1回購入すればある程度の期間資金がロックされてしまいます。そう考えると、個人に対しては、債券よりも、販売手数料などがより多く取れる商品を売ったほうが効率的と考えやすいのではないでしょうか。

藤田 なるほど。大手証券会社からすると債券のようにスプレッドが小さくなってきているものではなく、頻繁に売買を繰り返す投資信託や株を提供した方がよい、という考えになりやすいかもしれませんね。

他方、資金需要のある企業にとっては、デット性の調達を個人投資家から直接行うという選択肢はまだまだ少ない状況です。また、投資家にとっては、分配金が予定された形で、コツコツと資産運用をしたいというニーズがありますよね。

これだけ求める人がいるんですから、やはり誰か取り組まなければいけないんだと思います。こうした観点からも我々はこの市場に挑戦する甲斐があると思っています。

日本人の「お金の価値観」が変わってきた――冨田

ZUU代表取締役 冨田和成氏
ZUU代表取締役 冨田和成氏(画像=ZUU online)

 国内の投資における環境は、今後どう変わっていくと思われますか?

冨田 「ZUU online」を運営している中でも、人々のお金に対する価値観が変わってきていることを感じます。個人の資産をバランスシート(貸借対照表、BS)で捉えた時、固定資本には不動産だけでなく、車やブランド品など、売却したらお金になるものが含まれています。さらに、近年はシェアリングエコノミーによる二次流通の活性化でモノの値段が落ちづらくなり、より資本として捉えやすくなってきています。

自宅の空き部屋や、駐車場、ブランド品を貸すように、現在は、「持っているもの」から利回りが生み出されており、あらゆる角度から個人のバランスシートが「見える化」されてきている時代なんだと思っています。

 最近は「自分の資産をどう貸し出すか、または売ってお金を生み出すか」という思考に意識が変わり、投資が当たり前の環境になってきていますよね。ここに、『家計・企業の金融行動と日本経済―ミクロの構造変化とマクロへの波及』(祝迫得夫著、日本経済新聞出版社)という本を持ってきていますが、本書には、なぜ日本人の資産運用のすそ野が広がらなかったのかを考える上でのヒントになる研究結果が記されています。

例えば、日本の賃貸住宅は単身向け中心で、賃貸市場が育たなかった。また持ち家志向が高く、自宅を貸し出そうという意欲も強くないので、「いくらで買っていくらで貸す」という利回りを学ぶ必要も生まれない。そして多くの家庭は多額のローンを抱えているので、返済を第一に考えなければならない。それが金融資産への投資を妨げているという内容です。

つまり、環境があれば、「利回り」を意識する人がもっと多くなるということです。その点、今は、モノを売ったり貸したりする方法が増えており、「自分の資産をどう貸し出して、お金を生み出しているか」という思考をしやすくなっている。すなわち、投資に目が向きやすい環境になっているんだと思います。

人的資本を含め、投資を広く考えよう

エコノミスト・崔真淑氏
エコノミスト・崔真淑氏(画像=ZUU online)

冨田 金融商品への投資は「やるか、やらないか」で語られることがあります。ただし僕は、自分の手でお金を生み出せる人は、金融商品でなく「自分に投資する」でも良いと思います。

証券会社時代、シンガポールで勤務していたとき、ある富裕層のお客様が年利約10%の投資を検討していたところ、「自分の事業に投資したら年30%で回る」と言っていたことがありました。

そもそも投資というのは金融商品だけが対象ではありません。人的資本も含めて、何に投資したらどれくらいリターンが上がるのか、それを「見える化」した上で、もっとも効率的な方法を選ぶことが大切です。

 現役世代なら人的資本で稼ぎ、金融商品への投資に回すということもできそうです。具体的に投資する際、みなさんはどんな方法で投資先を選びますか?

私がよく言っているのは、「儲かるため」でなく「損をしないため」の投資を考えましょうということです。

株の場合、一部の実証研究では、「IPOが盛んだったITバブルの渦中を挟んだ97年から2010年銘柄の株価パフォーマンスを計測しています。その結果IPO後3年間のパフォーマンスは平均的にマイナスでした。つまり、IPO銘柄に上場後に飛び乗っても、儲けるのは非常に難しいということをしめしています」(※2)。これを踏まえて、上場後、最低でも5年は経って信用を蓄積しているだろう企業であること、そして自分が理解できる企業であるということは欠かせません。経営者の履歴、顔つきといった定性的な情報も私は大切にしています。

※2  一橋ビジネスレビュー2014年62巻2号 神戸大学大学院経営学研究科 忽那憲治教授「IPO後の高成長企業と低成長企業」

冨田 僕の株式投資の思想は、基本的にピーター・リンチ(米国の著名投資家)から来ており、「身近な銘柄については、皆プロフェッショナルである」という考えです。投資においては情報が大切で、それは身近なものほど得やすい傾向があります。これに従い、自分が理解できる分野に絞って投資判断をすると良いです。

ただし、絶対やってはいけないことが2つあります。自分の資産の大きな割合を最初から投資に回してしまうことと、信用取引といったレバレッジをかけた取引を行うことです。それさえしなければ、投資は「まずやってみること以上に学べることはない」と思っています。

藤田 基本的な話ですが、「自分の許容できる範囲のリスクを取ること」と「分散投資をすること」は意識するべきだと思います。それに加えて、資産運用の目的と、いつまでにどれくらいの資産が必要なのかという目標を決め」「目的・目標に合わせてどういった金融商品がふさわしいのか選ぶこと」が大切だと思います。

例えばリスクがあっても大きく利益を得たいという人は株式投資やFX投資などの価格変動率が大きな商品が向いていると思います。一方、できる限りリスクを抑えて安定的に運用したいのであれば債券などの固定利回り型の商品を検討すると良いでしょう。

損失をいたずらに恐れないためにはどうすればいいのか

【鼎談】「お金の価値観が変わった」現代の投資スタイルとクラウドファンディングの可能性
(画像=ZUU online)

冨田 よく「投資で損をすることが怖い」と聞きます。でも実は、みんな日常的に損をしてるんです。例えば、時間は労働にも変えられる資本ですが、我々は平気で無駄遣いをしていますよね。その時間をほかに割かなかったという「機会損失」という意味では、損をしています。

 たしかに生活の中での機会損失については、みんな自覚はしていても、数字になっていないために見えづらいこともありますよね。行動経済学の理論では、私たちは利益を得る場面では確実に手に入れようとし、損をしそうな場面では損失を最大限に回避する行動を取ることも報告されています。そして、損失はより重く受け止めてしまいがちとの報告も。

ただ、機会損失も含めて損は付きものだとすると、「その機会損失の損も含めて、早く取り返そうとして退職金をすべてハイリスク金融商品に投資し、失敗してしまった」といった状況を避けるためにも、失敗は早いうちに小さく経験した方が良いです。

もちろん、損はしない方が良いものの、それを怖がりすぎて一歩踏み出さないことで、結果的に後から大きな損失を被るというリスクがあることも考えるべきだと思います。

藤田 僕は金融業界出身でないため、投資について「自分にとってはレベルが高そう」「損するのがこわい」と思っている人が多いことは感覚的に理解できます。やはり、お金の損得だけで考えてしまうと、一歩踏み出しづらいと思ってしまうんじゃないかと思います。

そうした時におすすめなのが、投資によって得られる他のメリットに目を向けてみることです。

投資は損得ももちろん重要なことですが、投資を通じて自分が成長できるということも大きなメリットです。

私はセミナーなどを通じて様々な個人投資家の方々とお会いするのですが、企業や経済にとても詳しい人が多い印象です。ただ、お話をしてみると、会社や経済に元々詳しかったわけでは無く、投資を始めたからこそ、普段は気にしたことも無かった経済や企業の情報に敏感になり、結果として博識になっているということがわかりました。

投資を始めるのは怖いものの、投資を始めた人しか投資に詳しくなれないということなんだと思います。

少額から投資が始められるサービスが増えている今だからこそ、自身の取れるリスクでまずは一歩踏み出してみるのも良いかもしれません。

(左から)藤田、崔、冨田の3氏
(左から)藤田、崔、冨田の3氏(画像=ZUU online)

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