結果の概要:雇用者数が前月、市場予想を大幅に下回った一方、失業率は前月から横這い
6月7日、米国労働省(BLS)は5月の雇用統計を公表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で+7.5万人の増加(1)(前月改定値:+22.4万人)と、+26.3万人から下方修正された前月、市場予想の+17.5万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)を大幅に下回った(後掲図表2参照)。
失業率は3.6%(前月:3.6%、市場予想:3.6%)とこちらは前月、市場予想に一致した(後掲図表6参照)。労働参加率(2)は62.8%(前月:62.8%)と、前月から横這いとなった(後掲図表5参照)。
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(1)季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
(2)労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。
結果の評価:雇用者数や賃金など全般的に弱い内容、来月以降の統計に注目
5月の雇用増加数が前月を大幅に下回り1桁台の伸びに留まったほか、過去の数値も下方修正された結果、19年通年の月間平均増加数は16.4万人増と18年通年の同22.3万人増からの低下が鮮明となった。当月は高い伸びとなった前月の反動もあって大幅な低下となったのは間違いないが、労働市場の回復が長期化する中で、当研究所は今年の雇用増加ペースは10万人台半ばから後半を想定してため、19年通年の雇用増加ペース自体に違和感はない。
家計調査は失業率、労働参加率ともに労働力人口の増加を伴う形で前月の水準を維持しており、引き続き労働需給がタイトであることを示す結果となった。
一方、時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比+0.2%(前月:+0.2%、市場予想:+0.3%)と、加速するとの予想に反して前月並みの伸びに留まった。また、前年同月比も+3.1%(前月:+3.2%、市場予想:+3.3%)と、前月から伸びが鈍化し、市場予想を下回る結果となっており、当月は回復に一服がみられる(図表1)。
このようにみると、5月は家計調査では失業率がおよそ50年ぶりの低水準を維持するなど、労働需給の逼迫を示したものの、雇用増加数や賃金上昇率の回復に陰りがみえる結果であったと言えよう。もっとも、前述のように19年通年の雇用増加ペース自体は悪くないので、来月以降も低調な雇用増加に留まるのか注目される。一方、6月に予定されているFOMCでは今月の結果を受けて労働市場についても議論されるとみられるが、失業率が3.6%の状況で5月の結果だけをもって利下げする理由にはなり難いだろう。
事業所調査の詳細:全般的に雇用の伸びが鈍化
事業所調査のうち、民間サービス部門は前月比+8.2万人(前月:+17.0万人)と前月から伸びが鈍化した(図表2)。
民間サービス部門の中では、娯楽・宿泊が前月比+2.6万人(前月:+1.7万人)と前月から伸びが加速したほかは、専門・サービスが+3.3万人(前月:+6.2万人)、医療サービスが+1.6万人(前月:+2.8万人)となるなど、多くの部門で雇用の伸びが鈍化した。さらに、小売業では▲0.8万人(前月:▲1.4万人)と4ヵ月連続で減少した。
財生産部門は前月比+0.8万人(前月:+3.5万人)とこちらも前月から伸びが鈍化した。製造業が+0.3万人(前月:+0.5万人)となったほか、建設業が+0.4万人(前月:+3.0万人)と前月から大幅に伸びが鈍化した。
政府部門は、前月比▲1.5万人(前月:+1.9万人)と前月から減少に転じた。内訳をみると、連邦政府が+0.4万人(前月:+0.8万人)と前月から伸びが鈍化したほか、州・地方政府が▲1.9万人(前月:+1.1万人)と減少に転じて全体を押下げた。
前月(4月)と前々月(3月)の雇用増(改定値)は、前月が+22.4万人(改定前:+26.3万人)と▲3.9万人下方修正されたほか、前々月が+15.3万人(改定前:+18.9万人)と、こちらも▲3.6万人下方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は▲7.5万人の大幅な下方修正となった(図表3)。
なお、BLSの公表に先立って6月5日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増加数が前月比+2.7万人(前月改定値:+27.1万人、市場予想:+18.5万人)と、+27.5万人から下方修正された前月改定値を大幅に下回ったほか、市場予想も下回った。19年2月には雇用統計が1桁台の伸びに留まる一方、ADP統計が20万人超と大幅な乖離がみられたが、5月は雇用統計、ADP統計ともに前月の20万人超のペースから1桁台の伸びに低下したことを示しておりており、両統計からは実際に5月の雇用の伸びが大幅に鈍化した可能性は高いと判断できよう。
5月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が27.83ドル(前月:27.77ドル)となり、前月から+6セント増加した。一方、週当たり労働時間は34.4時間(前月:34.4時間)と、こちらは前月から横這いとなった。その結果、週当たり賃金は957.35ドル(前月:955.29ドル)と前月比で18年1月以来の減少となった4月から再び増加に転じた(図表4)。
家計調査の詳細:労働力人口は4ヵ月ぶりに増加
家計調査のうち、5月の労働力人口は前月対比で+17.6万人(前月:▲49.0万人)と4ヵ月ぶりに増加に転じた。内訳を見ると、就業者数が+11.3万人(前月:▲10.3万人)となったほか、失業者数も+6.4万人(前月:▲38.7万人)といずれも増加に転じた。一方、非労働力人口は▲0.8万人(前月:+64.6万人)と、こちらも4ヵ月ぶりの減少となった。
この結果、労働参加率は小数第1位では62.8%と前月から横這いとなったものの、第2位までみると62.83%(前月:62.80%)と4ヵ月ぶりに増加に転じたことが分かる(図表5)。もっとも、プライムエイジと呼ばれる働き盛り(25~54歳)のみの労働参加率は、5月が82.1%(前月:82.2%)と前月から▲0.1%ポイント低下しており、こちらは回復がもたついている。男女の内訳では女性が75.5%(前月:75.5%)と前月から横這いとなった一方、男性が88.8%(前月:89.2%)と前月から▲0.4%ポイント低下した。
いずれにせよ、失業率は3.6%とおよそ50年ぶりの低水準を維持しており、非労働力人口が4ヵ月ぶりに低下したことや、後述するように広義の失業率が低下していることを考慮すると家計調査は引き続き労働需給がタイトであることを示していると言えよう。
5月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は129.8万人(前月:123.0万人)と前月から+6.8万人増加した。また、長期失業者の失業者全体に占めるシェアも22.4%(前月:21.1%)と、前月から+1.3%ポイントの増加に転じた(図表7)。また、平均失業期間も24.1週(前月:22.9週)と、19年以降は長期化する傾向がみられる。
最後に、周辺労働力人口(139.5万人)(3)や、経済的理由によるパートタイマー(435.5万人)も考慮した広義の失業率(U-6)(4)をみると、5月は7.1%(前月:7.3%)と前月から▲0.2%ポイント低下した(図表8)。この結果、通常の失業率(U-3)と広義の失業率(U-6)の差は3.5%ポイント(前月:3.7%ポイント)と、前月から▲0.2%ポイント縮小した。
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(3)周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
(4)U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。
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窪谷浩(くぼたに ひろし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 主任研究員
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