中国の電子商取引(EC)最大手、阿里巴巴集団(アリババ)を創業した馬雲(ジャック・マー)が英語教師から転身して、中国一の有名経営者に上り詰めたことは日本でも有名な話かもしれない。彼は、インターネットが共産主義国・中国の経済とビジネスを変革すると気付き、アリババを立ち上げた。キーポイントとなったのは、中国ビジネスの伝統である「信用」をインターネットに持ち込んだことだった。

テクノロジーがインターネットに「コネ」と「信用」を持ち込んだ

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(画像=GaudiLab/Shutterstock.com)

ジャック・マーは1995年に米国を訪問し、その時に初めてインターネットに触れたという。彼はインターネットの可能性に非常に興奮し、中国に戻り、海外の顧客を探す国内企業を支援するサービス「中国黄页(中国イエローページ)」を始めた。

1999年に、ジャック・マーは17人の共同創業者とともにアリババを創業する。海外でAmazon、eBayといったEコマースサイトが立ち上がったのをにらみ、EC事業に乗り出したのだ。

中国でビジネスする際の鉄則として「コネ」と「信用」が重視されるという点がある。中国人は基本的に見ず知らずの他人を信用しない。中国人のビジネスは多くが同族による経営で、株式を上場するレベルの大企業になってもファミリービジネスの形態をとっていることも珍しくない。

同族経営には、一族の中で富を循環させて流出を防ぐ効果があるが、つきつめればやはり「家族以外の他人は信用しない」という彼らの価値観からきているのだろう。

中国人が他人とビジネスをするときには、長い時間をかけて相手を見極め、信頼関係を築くことを重視する。また、コネによる紹介も重要だ。

ジャック・マーが中国でインターネットビジネスに乗り出すにあたり、打ち壊さなくてはいけなかったのは、この「コネ」と「信用」を重視する商習慣だ。なぜなら、インターネットは基本的に顔の見えない第三者同士がモノやカネをやりとりするからだ。

アリババはテクノロジーによって、この「信用」をインターネットの世界に持ち込むことに成功した。アリババが2001年に始めたトラストパスというサービスでは、第三者からの身元確認と銀行口座の裏付けが必要だ。トラストパスを得るには多少の手数料が必要だが、無料の未認証企業に比べて、トラストパスを得た企業への注文問い合わせは飛躍的に増えた。

アリババが作り上げた「信用スコア」のエコシステム

アリババは2004年に世界最大規模のオンライン決済プラットフォーム「支付宝(アリペイ)」を立ち上げた。日本でも、中国人観光客向けにアリペイでの支払いを受け付ける企業や商店、飲食店などが増えているが、アリペイでも「信用」を重視している。

アリペイには支払い履歴などから社会信用スコアを算出する「芝麻信用」という機能がある。「芝麻信用」は、以下の5つの観点からスコア付けされる。

1.身分特質:ステイタスや高級品の消費
2.履約能力:過去の支払い履行能力
3.信用歴史:クレジットヒストリー
4.人脈関係:交友関係
5.行為偏好:消費面での特徴

ユーザーはこのスコアリングによってさまざまな特典が得られる。だいたい、700点以上でスコアリングが良好だとみなされるようだ。

中国ではさまざまなサービスを利用する前にデポジットが求められるが、この「芝麻信用」のスコアリングが高いユーザーはデポジットが免除される。

アリババは、「芝麻信用」の信用スコアの具体的な算出基準を明らかにしていない。決済履歴だけでなくさまざまなデータが参照されるので、ユーザーは生活全般を律する必要がある。

また、優良ユーザーだと自認する層ほど積極的にアリババのサービスを利用して、信用スコアを上げて特典を得ようとするので、優良顧客が自ら集まってくるようになる。

「芝麻信用」の信用スコアは外部企業も利用可能だ。外部事業者にはユーザーの個人情報はシェアされず、信用スコアのバランスだけが通知される。外部事業者は自ら事前審査せずとも、優良な顧客を見極めることが可能になるのだ。

このように、ジャック・マーが立ち上げたアリババは、テクノロジーを活用して中国人が伝統的に築き上げた「コネ」と「信用」という商習慣をインターネットに持ち込むことに成功した。テクノロジーが社会の在り方を変えたひとつの例といえるだろう。(提供:百計ONLINE


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