要旨

消費増税,延期判断
(画像=PIXTA)

EBPM(Evidence-Based Policy Making:証拠に基づく政策立案)の重要性は広く認識されている。EBPMを推進するためには、総務省(2017)で「評価こそがEBPMの中核に位置する」と指摘しているように、政策効果を評価し、その評価の結果を当該政策に適切に反映する必要がある。内閣府「年次経済財政報告」の2014年度版、2015年度版及び2016年度版で増税後の景気への影響については、定量的かつ詳細に分析されている。しかしながら、消費増税の延期判断による経済効果などの評価は見当たらない。

本稿では過去2回の消費増税の延期判断に関して検証する。特に、(1)弾力条項で規定された判断条件からみて過去2回の延期判断が適切なものであったのか、(2)仮に消費増税が当初の予定通りに実施されていた場合、どのような経済パスを描いていたのか、(3)GDP成長率(経済成長率)は適切に経済状況を表現できているのか、について検証する。主な結論は以下の通りである。

  1. 消費増税を延期した2014年11月、2016年6月ともに、財革法の弾力条項の規定を満たす状況にあり、延期判断は妥当であったと考える。特に、GDPの確報で判断すればより明確となる。この点で、GDPの速報が改善されれば、より適切な判断が可能となってこよう。
  2. 仮に、2014年11月に消費増税が延期されなかった場合、2014年10-12月期の消費水準への復帰にはさらに1年以上の時間が必要であり、長期にわたり消費低迷が続いていた可能性がある。
  3. ただし、2014年11月の延期判断は、2014年4月の消費税増税の影響が残る状況であり経済実勢を正確に読み取るのが難しい時期であった。判断すべきタイミングが2014年11月で適切であったのかとの課題は残る。
  4. また、2016年6月1日の延期判断の場合、弾力条項がなかったことから政策判断の客観性が弱められた。消費増税には数値目標を明確にした弾力条項を導入すべきである。
  5. リーマンショック級の景気悪化の対応で、2016年6月1日の延期判断では「未実現のリスク」が重視された。未実現のリスクに関する客観的な判断基準を明確にする必要がある。
  6. 現在、種々の統計データは後退期入りを示す状況にある。2度の延期で当初の予定より4年延期されている。日本の景気循環の期間を考慮すれば、1回りして景気は悪化局面にあるともいえる。延期の判断ではタイミングだけでなく、延期する期間も考慮すべきである。
  7. 日本では、EMUの基準のようにマイナス成長を判断基準にすることは、かえって判断を錯綜させる可能性がある。この点では、1%未満の成長率が2期連続で続く場合を用いる方が政策判断の検討材料としては適切である、特に、確報ベースのGDPはその傾向が強くなる。
  8. 「リーマンショック級の景気悪化が明確になる場合には、景気は既に急激な悪化を示している時」であり、これを理由とする延期判断は現実的には困難である。林(2003)が指摘するように、急激な経済活動の悪化に対応する弾力条項を導入することは必要である。

今回は後退局面での増税となる可能性がある。ただし、過去と異なり軽減税率の導入や消費下支え政策により過去とは異なる動きとなるかもしれない。しかし、過去の消費増税は景気変動を大幅にさせ、その後民間消費を中心に長期にわたり冴えない状況になったのは事実である。過去の政策に対する事後評価を積み重ね、科学的な検証及び根拠を示した数値で判断できるように地道な作業が必要ではないかと考える。