何事も「相手軸」で考えさせる
とはいえ、アレもコレも教えるのは骨が折れるばかりか、新人も混乱します。
そこで、大事なことを1つだけ教えておくといいでしょう。
私のオススメはこれ。「すべてのことを『相手軸』で想像してみてほしい」と明確に伝え、その都度、フィードバックをすることです。「今の電話、良かったよ。相手の立場に立っていたね」であるとか、「今の挨拶は、ちょっとダメなんじゃない?(相手軸の視点で)」といったように。
すると、「ケジメのない行動」のすべてが対象となるので、色々なことがドミノ倒しのように変わります。ジメッとした挨拶も、職場を明るくするような挨拶に変わります。研修の感想も、受けさせてもらった感謝と学んだ内容の報告に変わります。相手のことを思うなら、早めに資料も提出するようになります。
つまり、ケジメは、「基準を示すこと」「フィードバックをすること」によって育まれます。「行動・所作」に目をやると、重箱の隅をつつくような批判になってしまいます。何事もそうですが、「核」が大事です。
「厳しさ」が「パワハラ」になる時代
ところで、「不用意に厳しく接する」のが、とても危険な時代になりました。本人のためだと思ってやったことが、パワハラと見なされてもおかしくないからです。
実際、この10年でパワハラに関する労働局への相談は3倍に急増しており、中身を見ると「無理な仕事を押しつけられた」というものも紹介されています。その上司は青天の霹靂だったかもしれません。
でも、ここで絶対に気をつけないといけないのは過剰適応してしまうことです。何があっても部下を叱ってはいけない、と考えるのは絶対に早計です。その弊害は確実にあります。部下の将来を考える上司ほど、そのことが気になるため、不安になるわけです。
「厳しさ」を「丁寧さ」に変換する
そこで、こうしてみてはいかがでしょう。次のようにアプローチを変えてみてください。
「厳しく伝える」のではなく、「丁寧に伝える」のです。
その時、「これくらいは、できないとダメだよ」といった説教は厳禁。
まず、「なぜ、その業務をお願いするのかを伝える」「具体的にどうやればよいのか、手順を伝える」。
それだけではありません。丁寧さには、確認も大切です。
「その指示を聞いて、どう思ったかを確認する」「不安な点、不明な点がないかを確認する」「その後も定期的に確認の場を設ける」
もし、これができたら、「理想の上司」になること間違いなしです。
研修などで新入社員や若手社員の人たちと話をするとよくわかります。「自分たちは、知らないことが多い。なので、厳しく指導する前に、キチンと教えてほしい」というのが彼らの本音です。甘やかしてほしい、なんて誰も言っていません。
「甘く」するのではなく、「丁寧」に教えるのが正解なのです。
伊庭正康(いば・まさやす)
〔株〕らしさラボ代表取締役
1969年、京都府生まれ。1991年、リクルートグループ(求人情報事業)入社。営業としては致命的となる人見知りを、4万件を超える訪問活動を通じ克服。それでもリーダーになるのは避けていたが、ある時リーダーに抜擢されたことから一念発起。当初は「任せ下手」で苦しむも、うまくいっているリーダーの行動を徹底的に観察するなどして、独自かつ効果的な「任せ方」を体得。その結果、プレイヤー部門とマネージャー部門の両部門で年間全国トップ表彰を4回受賞(社内表彰は累計40回以上)。営業部長、〔株〕フロムエーキャリアの代表取締役など、重要ポストも歴任する。
短期間で成果を出す手法を駆使して「残業しないチーム」を実現したこと、また管理職を務めていた11年間、メンタルダウンする部下や入社3年以内の自主退職者を1人も出さずに済んだことが、ひそかな自慢。
2011年、企業研修を提供する〔株〕らしさラボを設立。営業リーダー、営業マンのパフォーマンスを飛躍的に向上させるオリジナルの手法(研修+コーチング)が評判を呼び、年間260回にのぼるセッション(営業研修・営業リーダー研修・コーチング・講演)を自ら行なっている。リピート率は95%。(『THE21オンライン』2019年05月23日 公開)
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