近年、海外で日本酒の評価が飛躍的な高まっているのをご存じでしょうか。日本酒の輸出量は増加傾向にあり、2017年度の酒類輸出金額の推移においても、全酒類中日本酒は最も高い34.4%でした。実は海外での日本酒人気の高まりの背景には、日本酒業界のさまざまなイノベーションが大きく関わっています。

日本酒業界のイノベーター、獺祭(だっさい)

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(写真=J.Score Style編集部)

日本酒業界は長年、大規模酒造メーカーが低価格な量産品を全国展開し、各地の小規模酒造メーカーは地産地消型の経営スタイルをとっていました。大規模酒造メーカーがアルコールや糖類・アミノ酸などが添加された普通酒を販売していたこともあり、原料米を栽培する農家や卸業者など、マーケット全体が普通酒寄りの構造となっていました。

そのため、小規模酒造メーカーにとって、それぞれの地域性やオリジナリティを活かした酒造りに必要な原料米の調達や設備投資、マーケティングや販路獲得は難しい状況が続いていたのです。

獺祭(だっさい)は衰退の一途を辿るかと思われていた日本酒業界に革命を起こしました。ターゲットを地元から東京・海外という大消費地に変え、飲食店を中心としたBtoB戦略を展開。安価なイメージが定着していた日本酒市場の中で、原料や精米方法に徹底してこだわり、付加価値をつけた商品を打ち出すブランディング手法が食通の間で評判となり、大ヒットにつながったのです。

獺祭を手掛ける旭酒造では、デジタルテクノロジーの活用によって、杜氏(とうじ)だけが占有してきたノウハウをマニュアル化し、技術や工程の標準化を図りました。そして、冬季だけしか稼働しない酒蔵が多い中、四季醸造(年間を通じた醸造)へと切り替えることで、供給量・収益ともに増加させることに成功したのです。

若手起業家たちの参入によるビジネスの拡大

獺祭のビジネスモデルは、既存の酒造メーカーを鼓舞しただけでなく、新しいイノベーターたちをも惹きつけました。実は日本酒業界の活性化の背景には、若手起業家たちの存在があります。

株式会社Clearでは日本酒専門のWebメディア「SAKETIMES」を運営し、国内外へ日本酒の魅力を発信。パートナー酒蔵との商品開発から品質管理までをトータルサポートしたオリジナルブランド「SAKE100」を展開しています。

また、BCG(ボストン・コンサルティング・グループ)出身の経営戦略のプロフェッショナルが立ち上げた株式会社WAKAZEは、提携酒蔵への委託醸造による商品を開発・販売しており、海外マーケットを視野にいれたプロモーションに力を入れています。

日本酒ベンチャー企業は産業クラスターの中心的存在へ

日本酒業界へのベンチャー企業の参入によって各地の酒蔵はビジネスの幅が広がりました。これまで伝統継承を重視するあまり、内向的な経営になりがちだった酒蔵が新たな戦略を打つことで、地域産業の活性化を促しているのです。

例えば、ワイナリー経営をお手本に、経営者や社員自らが杜氏(生産責任者)となり、原料を自社生産し、酒造りを行い販売するドメーヌ型の組織構築による酒蔵の経営革新があります。品質向上と経営が直結する仕組みは、新旧多くの酒蔵で実施され始めています。

また、新たなビジネスモデルとして、地方に点在している酒蔵を一括し、高品質な酒造りのための管理を行う委託醸造により、魅力的で多様な商品ラインナップを展開する手法も広がりを見せています。

さらに、より原料や製造方法にこだわり、独自性を打ち出すため、酒造りだけにとどまらず、アグリビジネスや観光業へと展開している点も、日本酒業界の活性化に大きく関わっています。旭酒造が拠点を置く山口県では元の農業組合や研究機関などと連携し、酒蔵としての収益性を高めつつ、地域農業の活性化や観光・交流事業の促進の中心的存在となっているのです。

政府が展開する「産業クラスター政策」により、地方においても産官学連携によるイノベーションが起こりやすい環境整備が進んでいることも、日本酒業界の変革を大きく後押ししたと考えられます。

さらなる加速が予測される日本酒の海外展開

このように、組織改革と新しいビジネスモデルにより、日本酒は品質を高めながらも、同時に「売る」力を強化してきました。ITの進化と世界規模でマーケットを捉えるブレーンたちの参入により、小さな酒蔵の日本酒を国際市場で販売するチャンスは飛躍的に高まった今、さらなる海外展開が望まれます。

今後は、小規模酒蔵同士のM&Aも進み、ブランド同士の競争力もより高まっていくことでしょう。需要が高まる海外市場での次なる課題である「差別化」。自社の日本酒のオリジナリティをどのように打ち出していき、海外市場でのポジションを確立していくかが、今後のさらなるイノベーションを期待できるキーワードと言えます。(提供:J.Score Style

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