気持ちを「書きなぐる」ことでスッキリする
自分の感情を認めて、ロジカルにコントロールするため、大嶋氏は複数のノートを使い分けている。
「私はコクヨのA4サイズのキャンパスノートを愛用していますが、どんなノートでもかまいませんので、2冊用意してください。
1冊目は『クリアリング・ノート』として使います。やることはとてもシンプルで、なんでもいいので、今の自分の気持ちをただただ書きなぐるのです。
丁寧に書こうとか、きれいな言葉を使おうとか考える必要はありません。罵詈雑言でもいいので、自分の気持ちを転写するイメージでペンを走らせてください。
不思議なことに、ただ書きなぐるだけで、感情が吐き出され、スッキリしてくるはずです」
感情を吐き出すためには、ノートではなく便箋を使って、書きなぐったあと、燃やすという方法もある。この方法だと、他人に書いたことを見られる心配がないし、炎とともに感情が消え去るイメージが得られる。もちろん、消火用の水を用意するなど、火の扱いには要注意。
「ノートを使う場合、書きなぐるのは左ページだけにして、スッキリしたら、いったん閉じましょう。
そして、気持ちが落ち着いたら再び開いて、今度は右ページを使います。気分転換のため、ペンの色を変えるのもお勧めです。
右ページには、『賢者』になったつもりで、左ページの自分へのアドバイスを書きます。
『賢者』は、有名人でも、小説の主人公でもいいので、自分が尊敬する人、あるいは『いいなあ』と思う人物になりきって、ポジティブなアドバイスを書いてください。
例えば、『上司に挨拶を無視された』と左ページに書いてあれば、『上司はどう接していいかわからないだけで、嫌っているわけではないかもしれませんよ』と右ページに書く。
あるいは、『同期が実績を上げているのに、自分だけダメだ』に対しては、『今、タネを蒔いている案件がまとまれば、追いつけるから大丈夫』というように書くのです」
これだけでも感情コントロールの技術を劇的に向上させることができるが、もっとロジカルに課題解決に結びつけたいと考える人にお勧めなのが、もう1冊の「ロジカル分析ノート」だ。
「『大切なプレゼンテーションで失敗してしまった』というような事実や問題を一つ、左ページに書き出します。次に、その事実に対して、『悲しかった』『申し訳なく思った』など、どのように感じたのかを書きます。さらに続けて、『なぜ、そう感じたのか』を、自問自答を繰り返しながら、掘り下げて書いていきます。
そして右ページには、問題の解決法を書き出します。
例えば、『相手のニーズを十分に把握できていなかったことが原因であり、次回は、競合他社の分析を含め、クライアントが置かれている市場の調査を徹底的に行なうことで、相手が本当に必要としていることをつかむ』などです。
これは、感情を感情のまま処理するのではなく、解決すべき問題に変換して処理する方法です」
感情と事実を分けると生産性が上がる!
「クリアリング・ノート」と「ロジカル分析ノート」は、ともに感情を客観視するためのツールだが、同時に、感情と事実とを分離する効果もある。
「私たち人間は、感情と事実とを混同して考えてしまいがちです。そのことが原因で、もともと持っているポテンシャルを発揮できなかったり、ムダな力を使ってしまったり、生産性の下がる働き方をしてしまったりしているのです。
ノートを活用することの一番のメリットは、感情と事実を分離して、そんな状態から脱することにあるとも言えます。
『なんとなく不安』『なんとなくイライラする』といった自分の感情を客観視し、コントロールできれば、事実にだけフォーカスできます。
それができれば、自ずとアイデアも湧いてきますし、パフォーマンスも上がり、生産性が上昇するのです」
大嶋祥誉(おおしま・さちよ)
センジュヒューマンデザインワークス〔有〕代表取締役
エグゼクティブコーチ。人材戦略コンサルタント。米国デューク大学Fuqua School of Business MBA取得。シカゴ大学大学院修了(MA)。マッキンゼー・アンド・カンパニー、ワトソンワイアットなどの外資系コンサルティング会社や日系シンクタンクなどで経営、人材戦略へのコンサルティングに携わる。2002年に独立し、2,000チーム以上のチームビルディング、組織変革コンサルティング、経営者や役員へのエグゼクティブコーチングを行なう。『マッキンゼー流 入社1年目問題解決の教科書』(SBクリエイティブ)、『マッキンゼーで学んだ 感情コントロールの技術』(青春出版社)など、著書多数。《取材・構成:池口祥司 写真撮影:長谷川博一》(『THE21オンライン』2018年12月号より)
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